石炭をばはや積みたてつ。
文学史の勉強で、「春はあけぼの」とか「祇園精舎の鐘の音」とかと一緒に
覚えさせられた冒頭の文章。
高校時代、現代文の(他の作品の)授業中に一人読みふけり、
一人エリスのために涙したことを今でも覚えています。
先生は怪しく思ったに違いない…(^ ^;;。
高校生の感受性の豊かな時期に
「太田豊太郎許すまじ」
と強烈な印象を残したこの作品を
今回、みわっちちゃん(愛音羽麗)が、
しかも植田景子先生の演出で演じると聞いては、
ええ、日帰りムラ行きの強行軍となるとしても
(ほら、月全ツでいろいろ休んでるからこれ以上休めない…(^ ^;;)
行かずにはおれませんでした。
そして、行ってよかった…(*T_T*)。
公演が始まってからのいい噂は聞いていたんですよね。
いろんなサイトを覗いても絶賛の嵐だし、
チケットは気づいたら完売しているし。
本当に大期待で行ったのですが、
期待通り、いやそれ以上の作品になってました。
実は帰ってきてから改めて原作を読んだのですね。
覚えていたのは「太田豊太郎許すまじ」くらいだったので。
でも、そこで改めて知った景子先生の脚本作りの素晴らしさに、
二度感動してしまいました。
だって原作の豊太郎は、今読んでもいけすかないヤツだった…(爆)。
自分のエリートっぷりを自慢しながら
いろんなものに対して上から目線。
エリスに対しても自分で落としマエつけられないような優柔不断男。
ああムカつく(笑)。
でも、舞台の豊太郎はもちろんエリートではあるけれども、
未来への希望と愛にあふれた誠実な青年だったのです。
エリスを捨ててしまうくだりでさえも
悔恨にくれる豊太郎に感情移入して号泣せざるを得ませんでした(*T_T*)。
それから原作はかなり短い作品で、
エリス、エリス母、天方伯爵、豊太郎母、相沢くらいしか
名前のある登場人物っていなかったのですが、
それを2幕ものの大作に仕上げるために
景子ちゃんが作り上げた人物達(細かくはこの後で)は、
「舞姫」をよく理解し、
そして森鴎外をたくさん勉強したからこそ
現れるべき人々になっていて。
これこそが舞台化の意味なんだろうなあ、と思ったわけです。
本当に素晴らしかった。
さらには「宝塚で演じる」意味も
さすが景子先生、外さない。
原作ではエリスは本当に(たぶん)妊娠していて、
襁褓(むつき)をたくさん縫ったりしてるんですね。
他の舞台だったらきっと舞台上に襁褓が散乱する風景とかになるであろう
このキーグッズを、
宝塚らしく「舞扇」にしたところに
今回の勝利はあるように思います。
だって誕生日にあげた舞扇の扱い方を教える豊太郎とエリスの幸せな様子に
すでにして泣きましたもん、私(*T_T*)。
さらにはそれをお芝居のラストにも出して
同じように扱い方を教える姿に、号泣。
分かりやすい複線の張り方ではあるけれど、だからこそまっすぐ訴える。
あやうく月エリザ初日を観たときのように
スイッチ入ってしまうところでした。
必死に堪えた(*T_T*)。
これこそが、宝塚らしい美化の仕方、夢の世界なのですよね。
景子先生の脚本家・演出家としての完成度を
目の当たりにした気分でした。
さてこれ以上は、キャストについて香盤順に語りながら
一つ一つ思い出していくことにいたしましょうか。
太田豊太郎(愛音羽麗)。
みわっち、本当に歌上手くなったね…(*>_<*)。
元々声が太いところに、伸びが出るようになって、
とても芯のある青年の声になってました。
そして、何よりも誠実。
宝塚の主演らしく感情移入しうる豊太郎になっていたのは、
脚本の素晴らしさもあるけれど、
やっぱりみわっちがとても誠実に演じていたからではないかと思います。
エリスを見つめる優しい瞳。
いつのシーンだったかな、
エリスとのおでここっつんこはかなり萌えでした(*>_<*)。
そして、対上司やら伯爵やらに対する堂々とした態度。
ちゃんと、二枚目なの。
当たり前だけど。
でも、実はこっそりジブン的なツボは、
冒頭に始まる正座シーンやらひざまずくシーンやら
くずおれるシーンやら(爆)。に、似つかわしい。
じ、実はみわっちってはいつくばり系?
いやでもちゃんと、
ラストの狂ってしまったエリスを抱きしめくずおれるシーンでは
そんなことを忘れるくらい、大号泣だったのですよ(*T_T*)。
おかげでもう涙腺は壊れっぱなしになり、
そこからラスト、カーテンコールで
みわっちとすみ花ちゃんが出てきただけで泣き、
二人が抱き合う姿に泣き、
果てはみわっちが登場しただけで泣いてました。
エリス(野々すみ花)。
彼女は本当にお芝居の人ですね〜(*T_T*)。
最初の登場時から、頬に涙が流れてましたよ。
すごいテンションの持って行きよう。
そして「野々すみ花」という芸名が指す通り、
とても可憐な娘役。可憐なエリス。
そりゃあ可愛くて国にも帰れないよね、豊太郎(^ ^;;。
先にも書きましたが狂ってしまった後の
病院での豊太郎とのシーンの笑顔に、泣かされました。
ていうか、すごい愛だよね。本当に。
天方伯爵(星原美沙緒)。
この人も、原作よりかなり豊太郎びいきかなあ。
やっぱり出会いのシーンが描かれているのが大きいね。
ローザ(エリス母・光あけみ)。
原作読むとかなり恐ろしい母ですが、
お芝居でも怖いお母さんです。
絶対上手く行きっこないことを分かっていたんでしょうね。
(あ、でもそれを言ったら、
エリス自身も分かってたんだろうね。
あの、「時計の音」はそれを象徴してるんだろうね(*T_T*)。
豊太郎が日本に帰ることを知ったときに止まったわけだから。
夢の時間が終わってしまった、ということなんだろうね…)
太田倫(豊太郎母・梨花ますみ)。
まだ「ハラキリ」文化の時代、だったのね。明治。
自害してしまった、と聞いたときには
エリスと同じ気持ちになりました(*T_T*)。
でも母子家庭だったからこそ、
母を死なせてしまった、という悔恨は厳しいものがあったんだろうなあ。
太田清(豊太郎妹・舞城のどか)。
豊太郎がベルリンに来た当初、舞台の上手で相沢(まっつさん)とともに
豊太郎からの手紙を読んでいて、
道ばたでキスをする男女のくだりの時に
思わず相沢と顔を見合わせて、きゃ! となる姿が愛らしかったです(*^ ^*)。
個人的に気になるのは、
まだ豊太郎が免官されてない頃にあったあの縁談、
豊太郎が帰国するまで待つ、とか言っておきながら
あんなことになってしまったので、
縁談そのものも立ち消えてしまったのではないかと思うのですが、
大丈夫だったんでしょうか…。
豊太郎が帰国したときには恨み言も言わずに
「お待ちしておりました」とばかり言ってましたが(^ ^;;。
相沢謙吉(美涼亜希)。
豊太郎を実はひたすら想ってますよね、あれ、違う?(爆)
1幕はあまり出番がなく、学生服が可愛いな(爆)という感じでしたが、
2幕の、対エリス対決時の歌とか、本当に聴かせました(*T_T*)。
でもこの人も原作よりかなりいい人な感じ。
エリスの病院のシーンで、舞扇を扱う二人から目をそらし、
赤く潤みがちな目を伏せている姿に、
それぞれの想いを感じて苦しくなりました。
ラストの「私を憎んでいるか」(だっけ)も、良かったね。
あ、でもこのときのみわっち豊太郎の台詞が、また良かった。
「憎むべきは、自分の心だ」(だったっけ)
と。
原作では「されど我が脳裏に一点の彼を憎むこころ今日まで残れりけり」
とあって、まあ、彼と言いつつ、自分を指してはいるのだろうけれど、
そうかあ、と想ったものだから。
個人的なツボとしてはベルリンに追ってきて二人で歩いているところで
岩井くん(マメちゃん)に会ったとき、
こう、二人の会話を聞くともなしに聞いておきながら
岩井くんが去った後、
それについて一言も触れない不自然さだったりするのですが(爆)。
原芳次郎(華形ひかる)。
まったくのオリジナルキャラなんだよね。
でも、彼がいることや、あるいは彼が死ぬことで、
豊太郎に望郷の念を起こさせたりするキーパーソンとして
とても意味のある登場の仕方になっていて、よかったです。
ていうか、みつるくんってこんなにお芝居上手かったっけ。
骨太な、方言ばりばりの話っぷりや、
死に際の演技が素晴らしかった。
あの、みわっちの回想から現実をうまく引っ張り上げる声のかけ方とか。
由舞ちゃんともとてもにあってたし(*^ ^*)。
ドクトル・ヴィーゼ(紫峰七海)。
紫峰七海ちゃんって、いつのまにこんな役ができるほど
大人になっちゃったんだろう(^ ^;;。
いや、でも落ち着きがあって、よかったです。
岩井直孝(日向燦)。
彼女のキャラは、本当にすごいね。
典型的に作れば作るほど、そのおかしみが出てきて(*^ ^*)。
この精神的に重い話の中で、一種の清涼剤的な役割を果たしていたし、
それだけでなく、最終的にベルリンにい続けることを果たしたことで、
豊太郎の正しさをも援護射撃するような作りになっていて。
しかし、へっぴり腰がホント上手い。
ベルリンの最初の舞踏会で貴婦人と踊ろうとしている姿、
思わずセンターで踊っているみわっちの奥に見える
マメちゃんの姿を見てしまいました☆
黒沢玄三(白鳥かすが)。
原作では名前まで出ていたかどうか。
でも、イヤーな上役ということで、
とてもイヤーな人らしく演じていて良かったです(*^ ^*)。
月組時代より、いい扱いになってきてる?
マリィ(華月由舞)。
由舞ちゃんは、本当に可愛いなあ。基本的に大好きなんだけど、
今回も可愛くて気の強いモデル役を好演してました☆
彼女は芳次郎が死んでしまった後どうするのか、
そこがギモン(^ ^;;。
マチルダ(舞名里音)。
貴族の婦人ですね。里音ちゃんがこんな役をやるほどに
大人になっていることに、愕然(^ ^;;。
丹波(夕霧らい)、大河内(祐澄しゅん)。
豊太郎の同僚達。
基本的に黒沢の腰巾着。こちらも典型的に作れば作るほど
対立感が出てよかったですね(*^ ^*)。
日本に帰ってきた豊太郎に、
ちょっと嬉しそうな表情を見せていた大河内がちょっとツボ☆
久しぶりに、数日経ってもいろいろ考えさせる作品ですね。
こういう作品に出会えて、みわっちも本当に幸せだったろうなあ。
1日2公演演じるのは、精神的にかなりきつかったろうけど。
ああ、本当はもう一回観たかったなあ(*T_T*)。
ぜひぜひ東上してください!!
fin
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