ムトーだ!
ムトーがいる!!
ムトーがいるよ!!!
あの、高校時代、B5版でちょっと高いなと悩んだ末買った
「OZ」単行本の中に出てくるムトーが、ここにいるよ!!!
――初演時は予定が合わず観られなかった「OZ」。
面白かったよ〜という周りの声に悔しい思いをしていたのですが、
リベンジの機会を得、万難排して天王洲まで行ってまいりました。
とか言いながら、
とくに単行本を読み返して予習するわけでもなかったんだけど(^ ^;;。
それどころか私は原作を最後まで読んだろうか、ということさえ
記憶が怪しくなっていて。
つまりはストーリーをすっかり忘れていたわけですね。
おかげでとても新鮮に、物語を楽しむことができました(*^ ^*)。
というわけで、とりあえずあらすじから。
第三次世界大戦後の地球。
まだ混迷を続ける世界で、
ささやかれる一つの伝説――飢えも争いもない最先端の科学都市「OZ」。
だが、「OZ」は本当にあったのだ。
天才少女・フィリシア(舟見和利)の前に、
「OZ」の主・リオン(曽世海児)から道先案内人として差し向けられた
サイバノイド・1019(笠原浩夫)。
傭兵の武藤(岩崎大)は彼女の護衛として、
フィリシア、1019ともにその夢の都市「OZ」へ向かう――!
冒頭、闇の中に膝を立てて座り、
ちょっと無機質な声で話し始める笠原ナインティーン。
うをー、こうだったー! こんな話だったー!!
その後現れた傭兵スタイルのちょっと童顔な岩崎ムトー。
…ムトーだ! ムトーがいる!!! こんな人だったー!!!
追っ手を惑わすための変装として娼婦の格好をさせられるのを
すごい勢いで怒るフィリシア。
そうだった! こんな子だったー!!!
始終こんな調子で、お芝居の展開とともに
記憶の引き出しどころか段ボールの奥に詰めていたものを
引っ張り出しながら感動に浸っていたわけですが、
…そうだったね。「OZ」って、SFとしてとても深い話なんでした。
この話って1990年くらいに描かれたものなんだよね。たしか。
パンフレットを読むと「第三次大戦が起こって40分で終わって、
それから31年後の2021年」が舞台になってるから、
つまり第三次大戦は1990年に起こったことになってる。
とすると、それよりきっと以前に描かれたもの
(あるいは連載の途中で90年を越してたかも)。
15年たった今、良かったことに第三次大戦は起こっていないし、
当時の情勢として考えから外せなかった東西冷戦は終わって
また違う世界情勢になっているし、
本当にいろいろ違うんだけど、
でも、この作品に流れるテーマの訴える先は全く変わってない。
作品の中でこんな台詞がありました(パンフレットにも載っていた)。
「戦争は古来、神の領域じゃない。
それを起こすのは常に、権力者という名の商人だったのだ。
どんな大義名分を掲げようが目的は一つ。己の利害だよ」
――演出家の倉田淳さんはここからマス・ゲームの国やら
大使館のフェンスをよじ登る人たちを思い起こしたようですが、
私が思い起こしたのは、
某いま世界のジャイアンになろうとしている(ていうかなってるよね)国、
そしてその国を動かそうとしている人々でした。
だってリオンの言う「小競り合い」って、
今まさに某中東で起こっている戦争やら
その他でいろいろ起こっているテロやら、まさしくそれじゃない?
何にせよ、技術は発展していても
世界を動かす根底は残念ながら変わっていない、
ということかしら、なんてね。
そういう意味で、本当に原作の樹なつみさんはすごいと思うのですが、
その世界を余すところなく舞台化した演出も本当にすごかったです。
SFらしい世界観を表現した舞台装置や作品のテンポもさることながら、
アクションが、今までのライフの皆さんから考えると(失礼)
信じられないくらい、すごかった。
殺陣師が変わったり、それこそ『パサジェルカ』のお稽古中から
アクションの練習をしていたりしていたようですが、
本当に皆さんの動きがくるくるパキパキしていて、観ていて心地いい。
笠原ナインティーンが空を飛んできたときには
本気でびっくりしましたよ(笑)。
いつのまに皆さん、こんなに動けるようになったんだろう。すごい。
それは普段の立ち姿にもやっぱり影響していて、
すごく洗練された舞台になっていました。
ではでは、キャストの感想を。
最後の立ち位置からいってやっぱりトップ様だったので(笑)、
笠原ナインティーンから行ってみますか。
サイバノイドらしい無機質さから人間らしい感情を持つに至るまでの
経緯が軌跡のように見え、本当に上手かった。
パメラになったときの、女性的な仕種や声音もとても自然で。
殺陣もものすごいことになってました(*>_<*)。
ワイヤーで吊られるのはいいとして、
吊られて空を飛んだときの体勢とかすごい身体中の筋肉を駆使してないと
美しくないはずよね。すごいよ〜〜。
今度、ニナガワの舞台に出るそうな。さもありなん。
観に行きたいけど、
自分が東京公演中(出ないけど(笑))なので無理そうです。残念。
としたら、次はトップ娘役ね。舟見フィリシア。
彼女…もとい、彼に関しては、
ゴメン、ゴメンね、ちょっと物足りなさが残ってしまいました(T_T;。
何だろう、舟見くんって癒し系じゃないですか。
なので、「天才少女」にはあんまり見えなかったのよね…。
天才少女で、世間には疎くて、でも気位は高くて。
そんな女の子には、ちょっと残念ながら見えなかったのです。
ダブルキャストの及川くん――似合ってそう…観たかった…(*>_<*)。
そういう意味で、マンガに出てくるキャラクターそのものだったのが
岩崎ムトー。
本当に、本当に樹なつみの描く武藤佯
(ががーん、本当はぎょうにんべんなの…出ない…)そのものでした!!!
マジかっこいい!!! やば!!!!!(笑)
ていうか、マンガってデフォルメして足長くしたり肩幅広くしたり
いろいろしてるのに、実物でそのまんまってどういうことや!!!(爆)
肩幅と同じ幅に足を開いて舞台の中央に立つ姿に、
…スミマセン、やられました(*>_<*)。
アクションもすごく上手くて。
蹴りを入れる足がぴーんと180°近く上に上がるって…?
客演でネイトを演じていた丸山智己さんもマジ上手かったです。
この役のためにきっと彼は髪を剃り落としたんでしょうね。
傭兵らしいギラギラさとムトーに対する信頼、
それから1024(姜暢雄)に対する複雑な愛情の表し方がとても素敵でした。
その1024、姜くん。
赤い髪がお似合い(*^ ^*)。
ライフ内で一番であろう人気の彼、
二番手娘役に当たる大きな役を無機質に抑えた妖艶さで演じてました。
すごく良かったんだけど、
もそっと背中に意識があるともっと綺麗に見えるだろうなあなんて
欲深いことを思ってみたりして(^ ^;;。
二人のリオン。
私ね、本当に原作がうろ覚えだったので、
大きな曽世(海児)リオンを観たあとなんとなく納得がいかず、
幕間の時に「私のイメージだとリオンって小さかったんだけど…」と
友人に話したら、
「ああ、それはちゃんと原作を最後まで読んだってことだよ」と
言われたのでした。
そしてそれはその通りでした。二人いたのか…!
曽世リオンも深山(洋貴)リオンも、
本当に安心して観ていられる上手さでしたね。
髪をいじる癖、首をひねる癖、高慢な態度、姿勢、
二人が本当にシンクロしていて、すごく良かった。
曽世リオンがムトーに撃たれて倒れるとき、
あまりにもまっすぐ(受け身を取らずに)
バタン!とひっくり返ったときには、
そりゃあ死んでるんだから当たり前なのかもだけど
その振動が13列目にいた私のところまで伝わってきて(^ ^;;、
ああ、痛いだろうな〜〜と心配になりました(>_<)。
でもそのくらい入りこんでいたんですよね。
それからヴィアンカを演った客演の新納慎也さん。
遠目に一幕の間ずっと林(勇輔)さんなんだろうと信じてました(^ ^;;。
確かによく観ると違ったのだけど、
なんだろう、姿勢の良さとか台詞まわしとかが似てたのかなあ。
すごくフィリシアとは違う気位の高さ、素直になれなさ、というのが
よく出ていて良かったです。
ちなみに林さんは今回、舞台には出ておらず、
声のみの出演(ホストコンピュータの声なんだって!)なんだそうな。
あとは安定したお芝居を見せる藤原(啓児)さん、
河内(喜一朗)さんらが芝居を締めてたし、
娼婦の役で出ていた及川くんも相変わらず可愛かったし
(足ばっかり観ててスミマセン(爆))、
兵士役の佐野くんの髪が伸びていてそれもまたカッコ良かったし、
観るたびに大きい劇団になっていくなあという印象を受けました。
入り口に飾られるお花の数もすごいことになってるし。
ああでも何より、いい原作、いい脚本があってのことですよね。
それを選び出し、形にする演出家の力と。
お芝居のクライマックスで、
フィリシアが武藤に向かって
「あなたは臆病なライオンよ!」と叫ぶ台詞がありました。
それで私は、この作品が本当に「オズ」なんだと改めて思い出したのです。
オズの魔法使い。
エメラルドの都にいる魔法使いに会うために、
冒険の旅に出る少女ドロシーと、仲間たち。
勇気のないライオンと、知恵のないかかしと、心のないブリキの木こり。
フィリシアと、ムトーと、そしてナインティーン。
そしてエメラルドの都で待っていた魔法使い――リオン。
原作を読んだ高校時代、このことに気づいていたか定かではありませんが、
ああ、だから「OZ」なんだ――と胸に深く響きました(*T-T*)。
そして、原作をもう一度読み返したくなりました。
私の買った「OZ」は段ボールの山の奥深くに埋もれています。
ああ、どうしよう、読みたいなあ。
段ボールをひっくり返すより買った方が早いかなあ。
fin
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