いいお芝居には現実を忘れさせる力があります。
久しぶりの野田芝居。
この日走った激震のため私の心は千々に乱れまくっていましたが、
このお芝居を見ていた2時間だけは
そんな浮世のよしなしごとをすっかり心から洗い流し、
怒濤の言葉遊び、怒濤の展開、怒濤の野田ワールドに
つかりきることができました(*T-T*)。
帰り道さえも野田ワールドに浸って無口になっていたほど。
相変わらずストーリーを説明するのは難しいですね。
鏡の「こちら岸」と「向こう岸」で交差する世界。
「こちら岸」で真っ白の青春歌集を読みつつ、
青春を信じて待っている少女・芙蓉(深津絵里)。
そのもとに日参する下着泥棒・スルメ(中村勘太郎)。
対して「向こう岸」で
自分を見失ったアイドル・メルス(河原雅彦)と、
そんな彼をそそのかしてともに逃げた花嫁・零子(小西真奈美)。
膨大な、そして時には聞き逃してしまうほど早口な言葉の嵐、
ちょっとブラックなジョークの嵐の中で、
気がついたらアイデンティティについて考えさせられている
摩訶不思議な空間でした。
客席に足を踏み入れた瞬間、
私は階段のところで崩れ落ちました。
場内に流れていた曲、
それは私の胸をかきむしるかの名曲――『STAR LIGHT』(爆)。
こ、こんなところで、この曲に出会おうとは(*>_<*)。
その他、『仮面舞踏会』やら何やら、
それこそまだ私が生まれていない頃の歌謡曲が流れていたのですが、
でもそれはアイドルとして登場するメルスのイメージに繋がっていて。
舞台装置も
焼け野原のようなセットが舞台上を覆っていて
どうやって場面転換するのかと思いきや
そのまますべて上にあがっていったり、
物干し台が逆から見ると軍艦の指揮台になっていたり、
まったくもって無駄のない濃密な空間。
もちろんキャストも凄かった。
今回、一番うちのめされたのは古田新太。
こちら岸の大地主と、あちら岸の刑事役。
その二役の中でもさまざまに姿勢から声音から七変化。
こないだの「新選組!」でちょっとだけ出ていたけど、
本当に役不足だったことが分かりました。もったいなかった。
(でもそれだけでも、真摯な武士で素敵だったけどね)
そういえば今回のキャストには「新選組!」メンバーが多いのよね。
野田秀樹からして勝海舟だったし。
勝海舟、見ていたときは
喋り口調からエキセントリックなオーラから
「うわー、野田秀樹だ〜」って感じでしたが(笑)、
今日はもう、まさしくすべてが野田秀樹(当たり前)。
大奥様も桐島洋子(この役名は彼の通し役なの?
名乗ったときに客席に笑いが起きていて、
野田ワールド初心者の私は「?」と思ったのですが)も、
ものすごいパワーで…ていうか、この方おいくつなんでしょ。
ものすごい身体能力。
もう一人の「新選組!」は藤堂平助だった中村勘太郎。
お顔が三枚目キャラなためか(ゴメンね(^ ^;;)、
今回もへなちょこな下着泥棒役がとてもハマってました☆
でも最終的には彼が主役だったんだろうなあ(*^ ^*)。
とても熱い演技で素敵でしたわ。
相変わらず深津絵理ちゃんの特徴ある声は劇場に通ってたし、
メルスファンの桐島三姉妹(峯村リエ、濱田マリ、池谷のぶえ)は
いいキャラだったし(ちょっと我が身にかぶってイタかった(笑))、
その他の皆さまもさすがでした。
何より今回初めて「昔の野田芝居」に接して、
「ああ、これが野田芝居の言葉遊びなんだ!」と納得しました。
本当に、言葉の嵐。
もう意味さえ聞こえてこないほどの音の羅列。
実際、パンフレットを読むとそういう部分もあったらしくて安心したけど、
でもお芝居が始まった当初は
(自分がぼーっとしていたのもあって)
なかなかついていけなかったのもホント。
私には何を言ってるのか分からないのに
隣の見知らぬおじさまが大声で笑ってたりして、
「あ、置いてかれた。ついてかなくちゃ」と気合いを入れ直しました(>_<)。
でもその速さに耳が慣れてくると、
その意味のなさそうな言葉の中に、
実は大きなテーマが隠されていたりして。
すごいな、恐ろしいなあ。
帰りのロビーで戯曲が売られてましたが、
欲しくなる人の気持ちがちょっと分かりました。
あと、あんなにきめ細かにお芝居が決められてそうなのに、
実はアドリブが入ってたりするのに驚きました!
野田秀樹と古田新太が、
赤ちゃんをあやして抱いていると、
突然ラグビーボールになって走り回って(笑)。
しかも何度も何度も、ラグビーボールにもバスケボールにもなって
走り回って、シュートして(笑)。
しまいには古田さんせき込んじゃうし、
野田さんは「こんなことしたいんじゃない(笑)」ってはあはあしてるし。
こんなお芝居の中でも自由があるって、すごいよね。
すっかり野田ワールドにひたりきり、
現実を忘れ去っていた私ですが、
ラスト、超個人的な理由により現実を思い出してしまったのだけが
残念でした(^ ^;;。
鏡のこちら岸とあちら岸で
「お里に火をつけろ」「お砂糖に火をつけろ」と声を掛け合うのですが、
遠くに呼びかけるために声を伸ばしてたんですね。
「おさ〜〜〜〜と〜〜〜〜〜〜〜に〜〜〜!」
「おさ〜〜〜〜とう〜〜〜〜〜〜に〜〜〜!」
…おさ? オサ? オサちゃん? 春野寿美礼サマ?(爆)
…ああ、もうオサアサのお芝居が見られないのね…(T_T;
――なんてことを思い出してる暇はなかったのにね。
fin
|