前日に山梨を出発し、午前1時半頃槍見温泉近くの無料駐車場(緊急ヘリポート?)に到着。朝は5時起床。前日の夜、雨がしとしとと降っていた。岩の状態が非常に心配である。一応、朝起きてみると晴れそうな感じではあった。 しかし、この駐車場、トイレが無くて困った。向かい側に魅力的なトイレがあったが施設利用以外使用禁止。というか、夜間使用禁止のため、どっちみち使用出来なかった。 今日は、初めての本チャン。1年ほど前に、三つ峠で中央カンテを登ったのと瑞垣に行ったくらいで、あとは、本を読んだり家で仮想的に練習をしたのみ。本番では、冷静に落ち着いてロープワークが出来れば幸いだ!うぅ〜緊張。インクノット結びもかなり練習したし、ルベルソの使い方も前日出発直前まで何回も確認して、それでもなんだか心配だった。 |
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なんと言っても私にとっては、もしかしたら取り付きが一番の「核心」かもしれない。体力無しなので早く歩けないし、どんくさいので藪やら岩がごろごろした道はかなり鈍足になってしまう。一番の苦手は、沢を渡ること。どこに行っても沢を渡る都度、「あぁ沢登になんて行けないなぁ」と思ってしまう。しかし、錫杖はかなり取り付きが楽な方であるらしい。とりあえずもっと修行を積まないと他のアルパインルートに行くのは厳しいかも…。 ひぃひぃ言いながら歩いていると、なんと、錫杖岳がどぉーんと聳え立っているではないか!その屹立している様と言ったら、なんとも言えない格好良い姿である。昨日まで心配していた気持ちも一気に吹っ飛び、「あぁあそこを登るんだなぁ」と感慨深く思っていたら、同行していたオノ君が「あぁ、また錫杖に来たいですねぇ〜」と言っていた。まだ、錫杖、登っていないのに…、なぜかもうまとめに入るオノ君。 しかし、取り付きに到着するまでに、一般登山道を1時間歩き、その後、プチ沢登りあり、プチ藪漕ぎありのバラエティ富んだ道程であった。この季節、湿気が高くかなり汗をかいてしまうし、藪は元気一杯こちらの都合も構わず繁り放題。沢を越えた後の岩がごろごろの道は、前日の雨も手伝って湿り放題。自然って厳しさを再確認。 |
![]() 第一の核心「沢」。昨日の雨で増水中。 ![]() どうだぁ〜。森の要塞。 |
やっと取り付きに到着する。時間は午前8時半頃。出発したのは午前6時だったので、2時間半もかかってしまった。もう暑さにやられっぱなし。ひょっとすると、ここは、真夏に来る所ではないのかもしれない。取り付き部分を見ると、やはり少し湿っているみたい。前日の雨のせいか?しかし取り付きに到着した途端、オノ君は、「やっぱり山の後は、ビールですよねぇ」と言っていた。もう彼は下山した気分でいるらしい。転ばぬ先の杖。常に未来の事を考えて行動するのは良いことです。って、なんでやねーん! 1ピッチ目はJにおまかせ、私はフォローに。今日、初めての本チャンなので、リードしてみたいけどなるべく簡単な所だけを選びリードしたい。事前に「日本のクラシックルート」を熟読したところによると、ルートは全部で8ピッチで行けるらしく、2,4,6,8ピッチを行くのが一番無難そう。V+だけは、絶対絶対絶対避けたい。というか不可能。なるべく無理はせず、出来そうな所だけリードするつもりである。本により、ピッチの切り方や書いてある内容が違うが(グレードは大体同じように記載されているみたいだけど)私的に一番気に入ったものを採用した。 最初は、完全つるべで行く気など毛頭なかった。本当は1ピッチ目はV級なので私がリードしたいところなのだが、朝一でリードしたくない…と言う気持ちと、もしも全つるべで行った場合、上述のように2,4,6,8と行くのが無難なので、つるべで行く可能性を残しておきたかった。緊張の第一歩を踏み出す! |
![]() 取り付きに到着! ![]() アルパイン本の例に出てきそうな格好だなぁ ![]() ついにアルパインデビューした私。 |
やっと1ピッチ目登ったぁ〜。あぁ疲れた。と思ったら、よくよく考えるとつるべで行くのでまた私が登るのだ…。しかもリード。いくら核心が無いとは言え、ちゃんと支点が分かるかどうかが一番の心配事だった。予定通りにピッチを切りたい。 岩溝を直上する。登っていると、非常に支点に出来そうな安定した場所を発見する。リングボルトが2つとハーケンが一つ打ってある。ピナクルを左に回り込みテラスに出たところでピッチが切れるはずである。しかし、夢中で登っていたため、なんだか40mも登った気がしない。もしかしたらもう少し登ったところで切るのかもしれない。と思っていたら下からJの「あと10メートル」のコールが聞こえる。ということは、40m程登ったと言うことだ。ここで切ってしまおう!!やったー良かった。 まずリングボルトにヌンチャクをかけ、インクノットで確保。2本目のロープも反対側のリングボルトにヌンチャクをかけてようと思ったら、非常に遠くて届かない。少し登り、長目のスリングをかけて、それにヌンチャクをかけて、インクノット結びで確保。それとは別にもう一つ、デイジーチェーンでハーケンにセルフを取る。そして、残置スリングにルベルソをセットして「ビレー解除」とコール。ロープを手繰り寄せ、ビレー準備完了。J側のロープを一度引っ張ってみて、確かに自動的にテンションがかかると止まることを確認。あぁ私の役目ほぼ終了。 |
![]() 初リード後の景色は格別! ![]() 後発隊の姿を発見。そっか、あの木も良い支点になりそうだ! |
しかし、先ほどもう一段上に上がってしまった方が良いのかな?などと考えていたが、下に留まって大正解だった。このすぐ上が本日の核心部分だったのだ。もし上がってしまっていたらとんでもないことになっていた。本で読んでいても実際に来ると中々分かりにくいものだなぁと思った。 私のビレー点からすぐのところが核心部だったので、Jが「ここがガバだから、ここを掴むまではなんとかがんばって体をあげてね。」と教えてくれた。この情報が後に多いに役立った。ガバがあると知らなかったら、きっと怖くて体をあげることが出来なかったかもしれない。かなりのっぺりしたフェイスで、足はスメアだ。改めて、こんな所リードしたくないなぁと感じた。 Jの姿が見えなくなりしばらくしてから、「あと何メートル?」と言うJの声が。「大体20mくらい」とコールするとまた少し登り始めたようだった。このときJは、まだロープがあると言うことでチムニー手前までリードする。 |
![]() 本日の核心部その1.わぉ! ![]() 核心部を越えてホッとする私。 |
次は私の番。チムニーを行くのだが…。昨日の雨のせいで、岩はびしょびしょ。湿っているとかいうレベルではない。しかし、アルパインは初めての私。ここはW級のはずだし行けるはずなのだと全く疑問視しない私。それにアルパインってこういうものなのかもしれない。もしフリーだったら、間違いなく登ろうなんて思わないくらいの濡れ様だった。でもきっとこんなものなんだろうなぁーって思いながらリードする。しかし、後にリーダー古屋さん&Jの話によると、「よくあんなに濡れて怖いところをリードしたね。」と言われる…。え”…そうなんだ…とそのときにやっと怖ーいと感じる。って遅すぎ! チムニーを越えて一安心したところで、下からJのコールが「まだ全然ロープ残ってる!」と。ということは、もう少し先に行って良いのかぁーと思い、なんと、自分でも気づかないうちにX級のフェイスを取り付いてしまう。これも後に知り青ざめる。フェースを登っていたら、結構距離が長く、「あと10メートル」と言うコールが聞こえても、支点になりそうなところがない。もう少し上に上るしかないけど、ロープが足りなくなったらどうすれば良いのだろう…。まさか空中ビレイ?すぐ左側と右側に木が見える。どっちが支点になりそうなんだろう。右側の方が少し遠いけど、なんだかしっかりしてそうでテラスっぽくなっているように見える。 ということで、右側の木を目指して登る。しかし、ここはリングボルトがやたら近距離で打ってある。なぜなんだろう?と思いつつ、最初全部ヌンチャクをかけながら登っていたら、だんだん心細くなるくらいヌンチャクを使い果たしてしまう。これはやばいと途中で気づき、少し距離をおいてヌンチャクをかけることにする。なぜ、こんなにリングボルトが打ってあるかというと、アブミがかけられるようにと言うことらしい。 そんなこんなで、テラスに到着したところで「あと5メートル」のコール。あぁ良かった。ここで良かったんだ!木にはたくさん残置スリングもある。 |
![]() ロープのかけ方、物凄い下手ですね…私 ![]() ビレー器も安全環が欲しい。バックアップも取らないと…私 ![]() J発見! |
次はJがリード。少し登ったところで「後何メートル?」と聞かれ「20メートルくらい」と答える。すると「今核心部手前に居るからもう少し登ってしまうねー」と言う声が聞こえる。本日の核心部その2、クラック手前にいるようだ。こちらからは全く姿を見ることは出来ない。 しばらく経って、「ビレー解除」のコールが聞こえる。どうやら、無事到着したようだ。良かった。V+なんて、ぜひフォローで行きたい所だ。 V級のルートを登るとかなり広いテラスに出た。そして、上を見ると、ぎょっ!Jが空中ビレイしている。怖い…。フォローと言えどもかなり緊張する。 最初は近くの木を利用して登る。もう何でもありさ!少し登ると腕が張ってきそうになるが、テンションなんてしたくない。ということで、A0。しかし、回収するときに気づいたがちょうどA0に使ったのは、Jがセットしたカムだった。どうしても、最近購入したカムが使いたかったらしいが、ちょうどそのカム様をA0に利用するとは。 やっと空中ビレー中のJに到着。Jが、「もう核心は終わっているからこのままリードしてしまうか?」と問う。「それとも、空中ビレーするので良ければリードするけど?」と。なんだか究極の選択のような気が…。空中ビレーの交代なんて怖いので、リードを選択する私。 |
![]() 空中ビレー中のJ。ひぇ〜。 ![]() クラック登ってる私。 |
まず岩の右側がなんとなくガバがありそうに感じたので右を登ろうとするが、実際触ってみるとガバではない。少しあたふたした後、左側から登ることに変更。こっちもガバ様がいらっしゃらない。でも、まさかここから降りて空中ビレー?嫌だ、嫌だ。足は置き場があったので体をあげてみればホールドがあるかもしれない。しかし、ハーケンもあまり無く、必殺A0が使えない…。しかしもう核心部ではないはずなので、体を持ち上げて乗り越す。 物凄い高度感だ。より一層恐怖心を掻き立てられる。しかし、のっぺりしている。ホールドもあまりよくなく足もスメアだ。しかし、乗り越すと傾斜はかなり緩いのでそんなに辛くはない。と思ったらロープが来なくなった。「ちょっと、ロープ出してよぉ」と言ったら「え、出してるよ。」とJ。は?と思ってよくみたら…なんと岩角の窪みにロープがしっかり食い込んでいる…ぎゃー。そのロープをはずすためにロープを引いたり緩めたり、ホールドもしっかししてないこんな場所で、しかもこの高度感…。相当怖かった。ハーケンにもまだ届いていなかったのだ。 そして、最後の脆いフェイス手前に良い支点になりそうな場所が出てくる。リングボルト3つにハーケン一つ。もうさっきの乗り越しで精魂使い果たした私は、ここでリードを終わりにしたい。よくみると気持ちよさそうなフェイスだが少し悩んだ末、ここで切る事にする。実質上、今日の私の大仕事おしまいの瞬間であった。 |
![]() この乗り越し物凄く怖かった。 ![]() しかし眺めは良かった。 |
気持ちよさそうなフェイスに見えたが、ここのフレーク、かなり脆い。足の置き場もたくさんあり、ガバ様もたくさんいらっしゃるが、岩がカタカタいう箇所があった。ハーケンもやたら遠い。やっぱりフォローでよかった。もう、疲労困憊だ。 |
![]() なんだかガスって来たよ。 |
最後はクラミングと呼んで良いのか分からないくらいの代物だった。歩き+ちょっとした岩。しかし岩は濡れていた。最後の最後に嫌な感じ。終了点を通りすぎて上の草原まで出た。そこで後発隊を待つことに。 |
![]() 感動の終了点! |
最後は思わずJと握手。成功して良かった〜。感動である。と言ってもまだ緊張の懸垂が待ってるんだけど…。5から10分くらい後発隊を待ったのだが、どうしても我慢できずお先にお昼を頂戴することに…。ごめんなさい。お腹が空いて死にそうだったのです。しかし、とても感動しているせいか、なんとJが私におにぎりを分けてくれるというのだ。普段、食べ物でけんかばかりしている私達がおにぎりを分け合うなんて…。偉大なるアルパイン。山は人を優しくしてくれる。 取り付きから午前9時出発で、終了点に到着は午後12時過ぎだった。大体3時間かかった。本には2から4時間と記載されていたので、まぁまぁ丁度良いタイムだったのだろうか? |
![]() 頂上の草原にて。 |
懸垂すること8回で漸く取り付きまで到着。やはり2パーティ5人だったため時間が少しかかり取り付きに到着して、帰りの準備をし駐車場に向かおうとしたら午後5時半だった。思っていたより大分時間がかかってしまった。 実は、のみ子さんと一緒に駐車場まで来ていたのだ。そして、のみ子さんだけ焼岳を登っていたのである。午前10時半頃、頂上に到着したとの連絡があったので、かなり待ちくたびれているに違いない。きっと心の中で「遅いわぁ」と言っているに違いない…。 駐車場に到着したのは、なんと7時15分。錫杖は熊が出るとのうわさ。最後は暗くなってきて熊が出るんじゃないかと冷や冷やした。いろんな冷や冷や体験をしたかも。登山口の電話ボックスを見た時は心底安堵した。 本当に取り付きから駐車場までの間、往復とも非常に歩きが遅いのに付き合って下さった古屋会長様ありがとうございました。まだまだ山歩きが不得意な私…。得意になる日が来るんだろうか…。今日は岩が湿っていて本当に歩き辛かったなぁ。 |
![]() 恐怖の懸垂 ![]() さようならぁ〜錫杖 ![]() 今日のアルパインにご満悦のご様子 |
今日一番のベストショット。さわやか満面の笑みを浮かべていらっしゃいます。本当に今日は充実した一日でした。 |
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