I xxxx you.(3)
[椎南(しいな)x薫(かおる)]



「好きだよ、薫・・・」
「ん・・し、っ!」


背を、下から撫で上げられて鳥肌が立った。
息を呑み、咄嗟に椎南にしがみつく。


「薫・・・今日、シャンプーかえた?」


耳元で、濡れたみたいな声が訊いて来るのに、急に恥ずかしくなった。
しがみついてた椎南から離れようと、顔を背けて椎南の体を押す。


「薫。逃げないで、こっち来て?」
「何・・椎南・・・!」
「俺もう我慢出来ない。薫・・・」


何が何だか解らないうちに、俺は椎南の下になっていた。
何かを考える暇もなく、椎南の手が俺の体を滑って行く。


「ひ、ぁ・・っ!」
「もう、感じてる?」
「椎南・・やっやだ・・・!」
「怖くないから、薫。な、力抜いて?」


何度もキスを繰り返しながらそんな事を言い出す椎南に混乱する。
そして、急速に湧き上がる恐怖心。


「い、やっ椎南っ。止め、止めてやだっ」
「薫?」
「ふっ・・・ぅ、っ・・・」


体を硬直させたまま涙を浮かべている俺に、椎南の、俺を押さえてた腕の力が抜ける。
ばつの悪そうな顔をしながら、俺をちゃんと起こしてくれた。


「ごっ・・・ごめ、ごめんね椎南、でも俺・・・っ」
「・・・ゃ、俺の方こそ・・・悪かったよ」


真向かいの椎南の顔が見られなくて、下を向いたまま目を擦る。
でも全然止まらない・・・しばらくじっとしてた椎南が、俺を引き寄せた。
でも、手が頬に触れた瞬間、びくりと体が震えてしまう。


「薫?」
「・・・・・・」


さっきの恐怖心が、まだ消えてない。
椎南に、触れられるのが、怖い。
こんなの・・・今迄感じた事なかった・・・椎南が、怖いなんて・・・。


「・・・ごめん、薫、俺やっぱ帰るわ」
「え、えっ?」


思いもかけない言葉に慌てて顔をあげると、椎南は、もうパジャマを脱ぎ始めていた。


「し、椎南。何ちょっと待っ・・・」
「・・・」
「椎南。ごめん怒った?」
「・・・」
「お願い。行かないで、ここにいて?」
「・・・」


すっかり身支度を終える迄、椎南は俺を見なかった。
急に不安になって、立ち上がってカバンを手にした椎南の服を掴んだ。


「椎南。椎南お願い」
「・・・薫」


必死になってる俺の前にしゃがみこんだ椎南は、困った顔をしていた。


「お願い椎南。行かないで?」
「薫」
「ごめんなさい、したいなら、してもいいから」
「薫。ちょっと落ち着けよ」
「俺もう逃げないから。行かないで、ここにいて?」


椎南の、俺の名前を呼ぶ声なんか全然聞こえなかった。
それよりも、このままここに1人で置いて行かれるのが耐えられない。
あんまり必死になりすぎて新たに出て来た涙を、椎南が優しく拭ってくれる。


「薫。俺な、お前に無理して欲しくないんだ。でも、今ここに一緒にいたら、またお前を泣かす事しちまいそうなんだよ。さっき泣いたって事は、まだお前の方で準備が出来てねーって事だと思う」
「・・・・・・」
「逃げないって言ってくれて嬉しいけど、今日は、帰るよ。一緒にいてやりたいけど・・・俺も、自信ないんだ」
「・・・・・・」
「好きだよ薫。どれだけ言っても足りないくらい」
「俺も・・・俺も、椎南が好き。一緒に、いたい」
「・・・ごめん薫。また、な」
「椎南・・・!」


服を掴んでいた手がほどかれる。
1度だけ髪を撫でてから小さな笑顔を見せてくれた椎南は、俺の呼び声を振り切って、部屋を出て行ってしまった。

階段を下りる音に続いて、母さんへの挨拶と、玄関の鍵が閉まる音が微かに聞こえた。

行っちゃった・・・俺・・・俺の、せいだ・・・。
椎南が、したいって言ってるの・・・俺が、泣いたりしたから、きっと、怒ったんだ・・・。

しばらく動けずにいたけれど、カーテン越しに椎南の部屋の明かりがついたのに気が付いて、ベランダに出る。


「椎南」


いつもだったら、笑顔の椎南が開けてくれる窓なのに、カーテンすらも動かない。
電気ついてるのに・・・何で?

そばに、いて欲しいよ、椎南。
寂しい・・・。

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