I xxxx you.(1)
[椎南(しいな)x薫(かおる)]



「‥送ってくれてありがと、椎南」
「ああ、うん」
「ってお隣だけどね」
「まーな」


学校からの帰りや、どこかに遊びに言っての帰り、いつも玄関先まで椎南が送ってくれる。
駅からだと、椎南の家の方が近いのに、わざわざ俺の家まで来てくれるんだ。
ま、お隣同士だから違わないって言ったら違わないのかもしれないけどさ。

椎南との関係が変わってから、そろそろ1年くらい・・・かな。
学校では、2年になってから違うクラスになっちゃったんだけど、俺達の関係は至って良好。
普通に、世間並みな恋人同士。
2人きりになると、それなりに甘い雰囲気になったり・・・も、する。

その雰囲気に飲まれて緊張する俺に、椎南は気付いてると思う。
何かたくなってんだよ、とかたまに言われるし、ちょっとふざけた仕草で俺の頬を軽くつねったりする事あるし・・・俺も、空気をごまかしたくて、逆に突っかかってく時もあるけど、基本的に、椎南と2人きり、というのは・・・緊張、する。
嫌な感じじゃないんだけど、勿論。


「あの・・・椎南?」
「ん?何?」


帰ろうとしてた椎南を呼び止める。


いつも見てる笑顔に、何かすごく安心。
俺だけが見る事が出来る椎南のこの笑顔・・・好き、なんだなぁ・・・。


「あの、ね?」
「うん」
「ちょっとだけ・・・寄ってかない?」
「え?」


このままさよならするのは、少しだけ勿体無い気がしたから誘ってみたんだけど・・・困惑した表情を見せた椎南に、内心焦る。


「あっでも椎南に用事があるなら別にいいんだけどっ。ごめん急に。あの、じゃまたねっ」
「ちょ待った」


背を向けた俺の腕を、椎南が掴む。
強い力にびっくりして振り返った。


「用事なんかねーよ。俺も・・・もうちょっとだけ、お前と、いたい」
「・・・じゃ、寄ってく?」
「うん」

「あら、椎南君。久しぶりねぇ」
「こんばんは。すみません、あの・・・すぐ帰りますから」
「いいわよ、隣なんだし。夕飯食べた?まだならよばれてってちょうだい?」
「あ、はい、ありがとうございます」
「薫は?食べる?」
「うん」


2人でテレビを観ながら、残ってた夕飯全部綺麗に平らげた。
それから、明日休みだし、部屋でゲームでもしよう、と話がまとまって、椎南を部屋に誘った。


「ねー椎南。どうせだから泊まってく?いいよ、パジャマあるし」
「え、でも俺・・・」
「・・・いや?」


一緒に、いたいんだ。
お願い椎南、拒否、しないで・・・?

ちょっとの間躊躇っていた椎南が、次の瞬間小さな笑顔になった。


「・・・なんて顔してんだよ、お前」
「え?」
「んな顔されたら、嫌だなんて言えねーだろ」
「え・・・変な顔してる?」
「変な顔つーか・・・置いてきぼりくらった仔犬みてーな顔してる」
「置いてきぼりって・・・」
「そういう顔もするんだな、お前」


顔を覗き込まれると、頬が熱くなった。
視線から顔をそらせて立ち上がり、箪笥からパジャマを取り出す。


「はいこれ。先に渡しとく」
「あ、さんきゅ」
「先にお風呂入っちゃう?後が楽だし」
「・・・」
「椎南?」
「え、あ、ああうん、そだな」
「じゃあお湯はって来るよ。ちゃんと入るでしょ?」
「あ、うん」


どこか戸惑ってる椎南を残して、バスルームへ。
戻って来ると、椎南が、所在なげに佇んでいた。

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