White Christmas(2)
[空(そら)君x雪(ゆき)君]
「‥何?」
自分をじっと見つめている空に、ちょっと首を傾げた雪が聞くが
それには答えず、幸せそうな表情を崩さないまま雪を見ている。
「空。あんまり見ないでよ。何か‥恥ずかしいじゃん」
心持ち頬を赤くした雪が、そんな事を言い出したので、やっと視線を外した。
「ほら、コーヒー冷めちゃうよ」
「あ、うん」
雪を眺めるので夢中だったせいで、いつコーヒーが来たのか全然気が付かなかった。
言われて、初めてコーヒーに口を付ける。
そこに、美味しいと評判の、看板ケーキが運ばれて来る。
「‥ごゆっくりどうぞ」
クリスマスに合わせたらしい、小さな柊と真っ赤な小さい実、それに、
細い赤と緑のリボンをあしらったコサージュを胸に付けたウェイターが軽くお辞儀をして下がって行くのを眺めた後
揃ってフォークを手にした。
「さ、食べようぜ」
当初の予定通り、それぞれのケーキを半分に分けて食べる。
「美味しいね」
たかだがケーキなのに、嬉しそうにしている雪に、空迄嬉しくなる。
2人きりでいられるだけで嬉しいのに、その雪が笑顔でいてくれるなんて、これ以上の至福はない。
本当は、甘い物は得意じゃないけれど、此処に来てよかった、と思う。
ずっとにこにこしている雪を目の前にして、ほんわりとあったかくなった。
食べ終わって外に出ると、冬の陽は既に傾いていた。
「‥もう、こんなに暗くなってる」
気温は更に下がって、吐く息も白い。
時折吹く風も、昼間のそれより数段に冷たさが増していた。
「さむ・・・」
隣で、小さく震えた雪をきゅ、と抱き締める。
「そっ空っ」
人目を気にして慌てる雪を逃がさない。
「ちょっとはあったかい?」
耳元で囁くと、雪が小さく頷いた。
そのまま、肩を抱いたまま、空は雪を近くの公園に誘う。
小さな公園で、人は誰もいない。
それでも、昼間は結構人が来るのか、小さい割にはベンチが沢山ある。
その中の1つに、体を寄せ合うようにして腰を下ろした。
また寒いといけない、と思った空が、すかさず雪を腕の中に入れるのを、今度はおとなしくそれに従う。
しばらく、そのままいた。
「‥寒くない?」
「・・・ん」
2人の他には誰もいない。
静かな空間に、2人きり。
「‥あ、空。僕、渡す物があるんだけど・・・」
「え?」
「クリスマスプレゼント」
空の腕の中から少しだけ体を離して、コートのポケットから綺麗に包まれた箱を取り出した。
「はいこれ。気に入ってくれると嬉しい」
そう言った雪の目の前に、空も、前日に買った雪へのプレゼントを差し出した。
「俺も」
一瞬びっくりした顔をした雪が、それでも嬉しそうに受け取る。
「有り難う」
雪から貰った箱を開けると、そこには濃い目の茶色の革ベルトをした腕時計が入っていた。
「空、この前時計が壊れたとか言ってたから。これにしよう、ってずっと決めてたんだ。まだ買ってないよね?」
「うん、まだ。使わせてもらうよ、雪」
早速それを着けた空に、雪が笑顔になる。
「似合うね。よかった、それにして。他のベルトもあったんだけど・・・」
でも、茶色は空が一番好きな色で、一番似合う色でもある。
だから、目移りはしたけれど、結局これにしたのだ。
「俺のも開けてみて」
「うん」
かさかさと包みを開ける雪の様子を、どきどきしながら見つめる。
「あ・・・」
そこに入っていたのは、見た事もないくらいふわふわのマフラーだった。
雪へのプレゼントが決まらずにふらふらしていた昨日、ある店のショーウィンドーに飾ってあったのを見付け
最後の1つを空が手に入れたのだ。
「してみて雪」
「あ‥うん」
手で触れると、柔らかい感触と一緒に、温かさも伝わって来る。
今しているマフラーを外し、空からのプレゼントを首に巻いた。
「どう?」
雪の反応を、わくわくしながら見つめている空に、にこっと笑みを見せる。
「すごく、あったかい」
きゅ、と手でそれを握り締めて、大きく息を吸い込む。
「すごく柔らかいし。ありがと空。今迄貰ったどんなプレゼントより、これが一番嬉しい」
自分から空を抱き締めた。
マフラーが空の頬に触れる。
そこだけ、本当にあったかかった。
「雪」
抱き締められたまま空が雪を呼ぶと、体を離した雪が聞き返すように首を傾げた。
その雪の頬を両手で挟み、軽いキスを落とす。
重ねた瞬間、慌てた様子を見せた雪だったけれど、それはほんの一瞬だった。
何度かついばむ。
「‥やだった?」
首を振った雪をもう一度そっと抱き締めた時、空の視界に小さな物が見えた。
あれ、と思い、僅かに届いていた外灯の明かりを頼りに目を凝らすと、それが、続けざまにはらはらと落ちて来ているのが判る。
「あ・・・」
「‥空?何?」
抱き締められている雪には、何も見えない。
不思議そうに聞いた雪に、空がそれを示す。
「雪‥降ってる」
「え?」
「雪。ほら」
「・・・本当だ」
降り始めたばかりの雪の中で体を添わせる。
雪が降っているくらい寒い筈なのに、寒さなんてちっとも感じない。
「雪の予報なんて出てなかったのに・・・」
「雪。ホワイトクリスマス、だな」
「ん」
いつ止んでしまうのか判らないけれど、家にいたらきっと気が付かなかっただろう小さなプレゼントに
2人はいつ迄もそこで寄り添っていた。
メールマガジンからお友達になったユリさんへの初のプレゼント。
彼女の作品のパロディになりますが、貰ってくれるかどうか判らずにメールで確認
返事が来る迄目茶苦茶どきどきしてました。
2002年1月1日上がり。
大晦日から夜通し書いてた記憶があります。