White Christmas(1)
[空(そら)君x雪(ゆき)君]



「雪、降んねーなぁ・・・」

今日はもう12月23日。
明日はクリスマスイヴだというのに、天気予報でも雪の予報は何もなし。
風が冷たい中でも、空は綺麗に晴れ上がっている。
北の方では、既に今冬初の雪も降り、ホワイトクリスマスは約束されているというのに
空の住んでいる所では、全くその気配はなかった。

「あーあ・・・」

雪へのプレゼントを買っての帰り道、空は、雲一つない青空を見上げて、溜め息をついていた。


空が雪と付き合い始めてから初めての大きなイベントなのに。

子供の頃には、確かに毎年雪が降って、外で遊び回ったものだ。
兄弟で雪合戦をしたり雪だるまを作ったりして、よく遅く迄遊んでいた。
その頃から雪が好きだった空は、どんなに後始末が大変でも雪が大好きだった。
同じ名前だから。
まさか、付き合い始めるとは、当時は思っていなかったけれど、今は、自分の隣には雪がいてくれる。

「‥ただいまぁ」
「お帰りなさい」

雪がリビングのソファで空を迎えた。

「皆は?」

他に、家の中に人の気配がない。
マフラーとコートを脱ぎながら聞く。

「壱(いち)兄と勇(ゆう)兄は買い出し。明(あき)君は友達と遊びに行ってる」

寒かったでしょ、と空に入れたばかりのお茶を渡した。

「ありがと・・・なぁ、雪。明日って暇?」
「明日?何で?」
「何でって事もないけど。折角のイヴだし、雪と2人っきりで過ごしてみたいな、と思って。去年迄は皆でいたけど、イヴくらいさぁ」
「クリスマスは皆で過ごすの?」
「んー、それくらいはな。だから、明日のイヴ。どうかな?」
「ん。いいよ」

滅多に見せてくれない笑顔で申し出を承諾してくれた雪が可愛くて、きゅ、と抱き締めた。


そして翌24日。
イヴ当日。

少しでも、<デート>の気分を味わいたくて、外での待ちあわせにする。
少し時間をずらして、別々に家を出た。
毎日一緒に過ごしているのに、今更ながらどきどきする。
午後も遅くなってからのデート。

「‥空」

後ろからかかった声に、どきん、とする。
振り向くと、そこには空の待ち人が佇んでいた。

「遅くなって御免ね。待った?」

ちょっとだけ済まなそうな顔で謝る雪に首を振る。

「何言ってんだよ。俺だって今来たとこだって。行こ」

一瞬肩を抱こうとして躊躇う。
ちょっと迷った後で、雪の手を引いて歩き出した。

「先にさ、ちょっとお茶しよ。ケーキの美味しいとこ」
「うん」

甘い物が好きな雪の為に、下調べをしておいたのだ。
そこへ連れて行く。
店の雰囲気がちょっと大人向きなそこは、客の年齢層も高い。
イヴのせいもあるのだろう、大通りからはちょっと離れた場所にあるのに、席はほぼ埋まっていた。

「・・空?」
「何?」
「此処‥ちょっと入りづらくない・・・?」

気後れしたような雪を安心させるように、笑顔を向けた。

「いいだろ、デートなんだし、今日は特別な日じゃん。はい、どうぞ」
「‥ありがと」

慣れないながらも自分をエスコートする空に、雪もぎこちなく店に入った。
遠慮がちに店内を見渡すと、学生らしいのは自分達だけだ、という事に気が付く。
緊張して、固くなってしまった雪とは対照的に、空は見た目は堂々としている。
ウェイターに席に案内されると、雪がやっと体の力を抜いた。

「な、雪。此処ってチョコケーキとチーズケーキが美味しいんだって。何にする?」
「んー‥空は?」
「俺はぁ・・・あっじゃさ、チョコケーキとチーズケーキ頼んで、半分こしようぜ」
「うん」

じゃ次は飲み物、という事で、空はコーヒー、雪はミルクティ、に決める。
注文して、それらが来る迄雑談に入った。

「‥にしても空。よくこんな店、知ってたね?」

不思議そうに聞く雪に胸を張る。

「雪が好きだから、ケーキが美味しい店、ってのを片っ端から調べたんだ。で、此処が一番お洒落だったんだよな。イヴなのにうるさい感じの店じゃやだったし、値段もそんなに高くないしさ。気に入った?」
「うん」
先に来たミルクティを飲みながら、こくん、と頷く。生クリームが入っているのか、味が濃い。
美味しそうに二口三口と続けて飲んだ。そんな雪の様子を、空が目を細めて眺める。

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