Top of the World(1)
[高橋耀一(たかはし・よういち)x中河京(なかがわ・みやこ)]



「…滝川第一中学から来ました、中河京です。あの…これから、よろしくお願いします」


中学3年のゴールデンウィーク直後。
耀一のクラスに、1人の転校生が来た。

真っ赤な顔は緊張のせいか、一生懸命、というよりも必死な様子で挨拶をしている。
席に着くように言われた京が、皆の注視の中かちかちになりつつも、彼に与えられた一番後ろの席に着く。


(…かわいー…)


京の姿を目で追っていた耀一に、席に着いた京がやっと肩の力を抜いたのが見えた。
目が離せずにずっと見つめていたら、京がその視線に気が付いた。
頭をめぐらせて視線の主を探す。
はた、と耀一のそれとぶつかった。


「あ…」


慌てて逸らそうとした瞬間、京が、にこ、と笑みを見せた。
咄嗟に反応出来ず、思いっ切りそっぽを向く。
それから、そうっと返り見ると、京が寂しげな顔で、下を向いてしまっているのが判った。
やばい、と思ったけれど、時は既に遅かった…。

内気な性格の京は、クラスに馴染むのも早くはなかった。
一生懸命溶け込もうと努力はしているのだが、生来の引っ込み思案な性格ゆえに、上手く人付き合いが出来ないでいた。
しかも3年になってからの転校とあって、余計に難しい。


「…はぁあ…」


その日日直だった京は放課後、誰もいなくなった教室で1人頬杖をついていた。
転校して来て、もうひと月が過ぎようとしているのに、まだ慣れない。


「何で僕、こうなんだろ…」


初めての転校で勝手がつかめないのだ。
前の中学では、半数が同じ小学校からの持ち上がりだったから、そんなに辛くなかったのに…。


「…すぐ赤くなるしさ…」


そう。
京は極度の赤面症で、人から話しかけられたりすると耳や首まで真っ赤になってしまうのだ。
今までからかいの対象になっていたそれが、京のコンプレックスともなってしまっている。
それはこの中学でも変わらず、既に何人かから指摘されてしまっている。
あーあ、ともう一度大きく息を吐いた時、がらっ、と教室のドアが開いた。
誰もいない、と思っていた教室に京が1人で座っているのを認め、そこで脚をとめてしまったのは耀一だった。


「…何やってんだよ?」
「え…別に……」


真っ赤になって、小さな声で返事をした。
一番最初にそっぽを向かれてしまった相手だから、他の人に接するよりも緊張する…。


「か、帰らないの?」
「お前は?」
「え、僕…?」


実は、耀一も、京に劣らず緊張していた。
京が好き、と既に自覚してしまっているためで、必要以上に素っ気なくしてしまうのは、気が付かれたくないのと、やはり少し照れてしまうからだ。
ひと月経った今でも、京とはまともに口を利いていない。


「え、と…あの…帰ろう、かな…」


居心地悪そうにしていた京が、カバンを片手におずおずと立ち上がった。


「あ、の…高橋君、は…?」
「…俺、用事あるから」
「あ…そ、なんだ…じゃ…僕…帰るね?」
「……」
「…ばいばい」


京がそう言ってくれたのに答えられず、小さな溜息をついて出て行くのを、ただ聞いた。

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