不安の癒し方(6)
[淳(じゅん)×弘一(こういち)]
・・・場所を決めた。
淳と、逢う。
逢って・・・どうなるんだろう。
ベッドに腰を掛けて、ふっと小さく吐息を漏らす。
元に戻りたいのかどうかも、今は解らない。
どうしよう、と考えている所に、広田が顔を見せた。
「・・・電話した?」
「・・・・・・はい」
「逢いたいって?」
「・・・はい」
「‥そ、か。じゃ送ってくよ。けどその前に、お前もシャワー浴びない?さっぱりするぜ」
「‥お借りします」
もやもやした気持ちを吹っ切りたくて、頭から熱いシャワーを浴びる事にした。
30分くらいしてから、ちゃんと服を着て広田の所に戻る。
「・・・じゃ、行こう」
待ち合わせ場所に着くと、淳が既に先に来て弘一を待っていた。
一緒に現れた広田に、一瞬表情を険しくする。
「‥先輩は関係ないから」
気が付いて先手を打つ。
ちょっと残念そうに、最後に弘一を一度だけ抱き締め、広田は車で帰って行った。
見送っていた弘一がゆっくりと振り返ると、自分をじっと見つめている淳の瞳にぶつかった。
「・・座ろうぜ」
すい、と視線を外し、そばの草地に座る。
真夜中で遠くのネオンが煌いているのが綺麗に映っていた。
何も言わずにすぐ隣に座った淳が、何の躊躇いもせずに弘一を自分の腕の中に入れる。
「‥なぁ。別れるとか言わないでくれよ。何で?何でいきなりそんな事言い出したんだ?」
「・・・・・・」
「俺が、お前の事好きなの、知ってんだろ?愛してる、んだ。な、頼むから‥」
「‥愛してる・・・?」
初めて聞く言葉に呆然とする。
「何、それ・・・じゃ何で・・・」
「何で‥何?」
「何で俺と逢うの‥拒否してたんだよっ」
「拒否?拒否なんてしてないよ。ただ此処ちょっと忙しかっ・・・」
「朝も夜も電話に出られねー程?」
「電話?あぁ携帯?あー‥夜も遅かったりしてたし、帰ったら即効寝てたから・・・もしかして、それが原因?」
ちょっと体を離して弘一の顔を覗き込んで来る。
逸らせようとして、くい、と顎を掴まれてしまった。
「それが、原因?」
「・・・・・・」
「心配する事なかったのに。俺は、弘一がずっと好きなんだから。お前しか、見えてないのに。不安にさせて‥ごめんな。愛してるよ」
そっと、その場に押し倒される。
弘一の負担にならないように乗って来た淳に、唇を塞がれる。
軽いキスを交わしながら、何度も、愛してると囁かれた。
今すぐ触れたい、と言われて数瞬迷った。
「でも俺‥せんぱ‥」
「言うなよ」
「・・・・・・」
「それでも、俺はお前としたいの。今、すぐ。久しぶりにお前に溺れたいんだ。それと・・・」
「!」
耳元で囁かれた言葉に、瞬間的に真っ赤になった。
「・・・な?いい?」
「・・・・・・ん」
「‥も‥駄目・・・」
これ以上はもう動けない。
近場のホテルのベッドで、汗だくの体を投げ出し、そう告げた弘一に、淳が悪戯っぽい笑顔を向けた。
「でも俺は、一番したかった事が出来たから満足だよ」
「・・馬鹿っ」
淳が一番したかった事。
それは、今ずっとしていた、単なる行為を指すのではない。
さっき、囁かれた事を指す。
「お前が先輩と寝たって聞いた時、絶対にしなきゃ、って思ったんだからなっ」
「・・・・・・」
「絶対、離すつもりなんてないから。今度こんな事あったら‥」
「‥何だよ」
「・・・御免な」
てっきり、許さない、とかそういう類の言葉を予想していたのに、淳が口にしたのは謝罪の言葉だった。
「俺が悪かったよ。今度から、ちゃんと掴まえとくから。不安になんて、なんなくていい。
俺が、ずっとお前の側にいるよ。先輩じゃなくて、勿論、他の誰でもない・・・今迄通り、俺が。愛してるよ、弘一」
「・・・俺も」
愛されている、という静かな自信が、弘一の中に生まれた。
追いかけなくてもいい。
100の、どんなに綺麗な言葉よりも、たった1つの愛してる、がこんなに強く心に作用する。
今迄よりも、もっと淳が近くなった。
小さな不安すらも、感じる必要はなかった。
あの時、広田のキスに確かに感じていた物よりも、淳が側にいてくれる事の方が、幸福感は何倍も大きい事も知った・・・
最初から比べる方が間違っているのだが。
「弘一っ」
「あ」
今日も、すぐ側に淳がいてくれる。
呼ばれて、世界で一番大事な恋人の所に駆けて行った。
広田が見たがっていた、あの笑顔で。
ガイア時代の本館でのお友達nekoさんへのBDプレゼントで、初のリクエスト作品(だったのだそうです・・・メモ見る迄忘れてたよ・・・)
大人が読みたい、というリクだったのですが、私は高校生ばかり書いているので・・・初の試みでした。
設定生かせず。
2002年3月1日上がり。