不安の癒し方(4)
[淳(じゅん)×弘一(こういち)]
あれから、また1週間が経った。
静かに時は流れている。
淳の事も追いかけなくなった。
弘一の側にはいつでも広田がいて、それだけで安心するようになった。
「弘一。帰ろうぜ」
「あ、はい」
微笑んで広田の側に寄り添う。
淳の姿を見かけると胸がちくっとするけれど、それ以上は考えないようにしている。
自分から視線をそらしていた。
「・・・ちょっとは考えてくれたか?」
あの日から、弘一は広田の部屋に寄るようになっていた。
ソファに隣り合って座り、ただ雑談を交わす。
あれから広田は指一本触れていない。
ただ、帰りがけに蕩けそうなくらい甘いキスを与えられるだけだ。
たった一度されただけで、何も考えられなくなるような、甘い、情熱的なキス。
そのあとで、柔らかく抱きしめられて、好きだよ、と耳元で囁かれる瞬間・・・不意に泣きそうになるくらいな幸福感。
「どうかな?まだ答え出ない?」
「‥俺・・・」
「ん?」
「俺・・・先輩は、好き、です」
「本当に?」
一瞬前の不安そうな顔から一転、ぱっと顔を輝かせた。
「はい」
「じゃ、俺と正式に付き合ってくれるか?」
「それは・・・」
「俺の事、隙だって言ってくれたよな?」
「・・・はい」
嫌いじゃない。
今、自分を幸福な気持ちにさせてくれているのは、淳じゃない。
今、笑顔で側にいてくれる広田だ。
「じゃ、俺と付き合ってくれるだろ?」
「・・・は‥」
---プルルルル・・・。
もういい、と返事をしようとした矢先、弘一の携帯がなった。
広田の真剣な視線から逃れるように顔をそらせ、軽く畳んでおいた背広のポケットから携帯を取り出した弘一の動きが止まった。
表示されている番号・・・淳からだった。
まだ鳴っている携帯を手に固まっている弘一を、心配そうな目で見つめていた広田の呼びかけに、我に返る。
ボタンを押し、僅かに震える声を押し出した。
「‥もしもし・・・?」
『弘一?俺、淳だけど』
「・・・・・・」
『どした?今何やってんだよ?』
昔と変わらない口調・・・しばらくぶりに聞く、淳の声だった。
「別に・・・」
『なぁ、今から出て来らんないか?やっと一段楽したんだよ。
久しぶりにゆっくり逢えない?』
「・・・・・・」
『弘一?』
「誰からなんだ?」
割って入った第三者の声に、淳の口調が変わる。
『弘一。誰と一緒なんだ?こんな時間に・・・誰なんだよっ』
「・・・広田先輩だよ」
『広田?広田ってお前の部の・・・』
「・・・俺、先輩から告白されたんだ」
『・・・・・・何?』
「‥好きだって、言われた。一週間前に」
『・・・・・・』
「俺、先輩と寝たんだ」
『こう・・・!』
「お前に、非難されるいわれはない。もう・・・終わりにしたいんだ」
『弘一っ、お前、何・・・何言ってんだよっ?俺と、別れる?馬鹿言うな!そんなの勝手に決め・・・』
「・・・ばいばい」
何も聞かずに電話を切った。
すぐ後ろにいた広田を振り返り、小さな笑顔になる。
「・・・申し出‥受けます」