不安の癒し方(3)
[淳(じゅん)×弘一(こういち)]



「・・・って‥ぇ」


ほんの少し動いただけで体中が痛い。
ぎし、というベッドの軋みに、広田が目を覚ました。


「・・・んだ‥も、起きたのか・・・」


おはよう、とすっかり日常のように弘一にキスを落す。
体のだるさに、思うような抵抗も出来ず、弘一はそれを受け入れてしまった。


「今日休みでよかったな。起きられるか?」
「・・・・・・」
「弘一?どうしたんだよ?」
「・・・・・・」
「どっか痛いのか?」
「・・・んで‥俺・・・」

「‥ずっと、見てたんだ」
「え?」
意外な言葉に、次の反応が思いつかない。


「元気がないお前なんて見たくない。そんなに辛いなら、止めちまえって。俺なら、絶対お前にそんな顔、させとかねーよ」
「先輩・・・」
「な?俺にしろよ」


いつもの顔じゃない。
気持ちの深さが、何も言わなくても伝わってくるような深い色を湛えた瞳に見据えられる。
淳のものより逞しい腕に抱きしめられ、ここずっと感じた事がなかった充足感に包まれた。


「弘一。俺なら、お前に寂しい思いなんて感じさせない。本気で好きなんだ。
この1年、お前が入社して来てから今迄・・・ずっと、お前だけ、見てたんだ」
「・・・・・・」
「俺と、付き合ってくれ」
「・・・・・・」


自分の心の隙間に入り込んで来る言葉に、思わず頷きそうになる。

淳が、自分に見切りをつけているのなら、このまま広田と付き合ってもいいのかもしれない。
 広田なら、きっと自分を大事にしてくれる。
この1年、淳からこんな風に好きだと言われた事があっただろうか。
自分はこんなに好きなのに、その想いに応えてくれた事が、あっただろうか・・・。


「弘一」
「・・・は・・・」


い、と言おうとした。
言ってもよかった。
 きっと、淳にとってゃ自分の存在は迷惑なんだろうから。
・・・なのに、この瀬戸際に淳の顔がちらつく。
今迄の6年間の、淳との色々な出来事が、自分の頭によみがえる。


「・・・っ」


瞬きもせずに自分をじっと見つめている広田から顔をそらせた瞬間、ぽろっと涙が毀れた。


「・・・弘一?」
「・・・っく・・・」


 止まらない涙を零している弘一を、広田がもう一度強く抱きしめた。


「何泣いてんだよ?」
「‥ってっ‥俺・・・っ」
「今すぐに返事しろなんて言わねーよ。泣くなって。いい返事は欲しいけど、ちょっと考えてみてくれればいいんだ。な?泣くなよ」
「‥は、い・・・」


優しい声音で囁かれて、こくん、と頷く。
自分が、小さな子どもになったみたいで・・・初めて、安心した。

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