不安の癒し方(1)
[淳(じゅん)×弘一(こういち)]
最近、淳が冷たい。
「ふ・・・っ」
タイを緩めてそのままベッドに転がり、すっかり癖になってしまった溜息を漏らす。
今日も、仕事が忙しいとかで、たった一行の社内メールをよこしたっきり、何の音沙汰もなかったのだ。
逢って話がしたくても、部が違うためになかなか思うようにならない。
人事ってなぁ、そんなに仕事があるのかよっ、と毒づいてみた瞬間、肩を落とす。
せめて帰りくらい・・・と思っても、残業だ何だと色々理由をつけられ、結局、ここ数週間、まともに逢ってもいなかった。
携帯を鳴らしても、いつでも留守録になっている。
夜だろうが朝だろうが、いつでもだ。
「あーもう・・・何でだよー・・・」
折角、同じ会社に入社したのに・・・。
淳と弘一は、高校からの付き合いだ。
かれこれもう6年は経つ。
弘一に一目惚れをした淳に押し切られた形で付き合い始めたけれど、今ではおそらく、弘一の方が淳に惚れ込んでいるだろう。
自分で自覚している。
嫌われたくなくて、淳の負担になりたくなくて、自分の不安を淳に言えない。
たとえそれが、抱えきれないくらい大きくなっても。
「・・・やっぱ俺の事、嫌いになったのかなぁ・・・」
絶対に考えたくなかった事だけれど、もうこれ以外考えられない気がする。
でもなければ、こんなに自分と逢うのを拒否する理由がないではないか。
弘一はもう一度大きな溜息をつき、布団をかぶった。
そんな考えが浮かんでしまうと、メールも電話も出来なくなった。
稀に社内で姿を見かけても、ちら、と視線を送るだけで声をかける事すら出来ない。
駆け寄って、会話の1つでも交わしたいのは山々なのに、気持ちが怯んでしまって、講堂に移せないのだ。
そんな不安だらけの毎日の中、3年ばかり先輩の広田(ひろた)に声をかけられた。
「よぉ。何しけたツラしてんだよ?」
「あ‥いえ何でも・・・」
慌てて笑顔を取り繕う。
入社当時から、広田には世話になっている。
体育系らしく体格がいい。
頭も切れるし、社内ではそれなりに人望は厚かった。
頼りになる先輩、なのである。
「んだよ、元気ねーなぁ。彼女と喧嘩でもしたのか?」
「・・・・・・」
「あー、もしかして図星?元気出せよ。あそうだ、お前今日の夜暇?明日から連休だし、景気づけにぱーっと飲みにでも行こうぜっ。な?」
「え、でも俺・・・」
「いーからいーから。俺が奢ってやるって、な?はい決まり。仕事終わったらちょっと待ってろよ」
「・・・・・・」
勝手に予定を立てられてしまったが、弘一には逆らう気力すらない。
浮かない顔のまま、はぁ、と返事をしてしまった。