名残雪(4)
[圭介(けいすけ)x響(ひびき)]



「嫌いなはずない。ずっとずっと好きだったんだもん。僕、今でも覚えてる。圭介君が、僕に好きだって言ってくれた時の事。初めてキスしてくれた時の事も、一緒に夜明かしした時の事もちゃんと覚えてる。僕、怖いって泣いたよね。でも圭介君がいてくれたから・・・圭介君が、大丈夫だよって言ってくれたから受け入れられたんだ。好きだよ、今でも。僕には、きっと圭介君しかいな・・・」
「・・・響?」
「ごっ・・・ごめ・・・絶対、泣かないでおこうって、決め・・・ぅ、っく・・・」


僕って根性ない。
絶対笑って見送ろうって思ってたのに、何で泣くんだよっ。
手を握り締めて必死に自分に言い聞かせる。


「・・・東京で、頑張ってね。きっといい事たくさんあるから。こんな小さな町に縛られてる事ないよ。あ、じゃ僕これで」


最後まで強気でいるはずが、予定が狂った。
これ以上は我慢出来ない。
一気に言いたい事だけ言って背を向ける。
そのまま歩き出した僕を、後ろから圭介君が抱きとめた。
肩を引かれて、視線を合わせさせられる。


「お前、大学の入学金とかどうした?」


咽喉が、痛い。


「一緒に手続きしただろ?あれどうした?」
「・・・」
「もう、キャンセルした?」


さっきまでの激情は去ったみたいで、圭介君はいつもの穏やかな口調に戻っていた。
僕達が合格した大学は、ある時期までなら入学金を払い戻し出来る。
その事を言ってるんだろう。
その期限まであと数日あった。
今日の事だけを考えていたから、まだ大学側には連絡してはいなかった。

圭介君には内緒で、僕は地元の大学の合格通知も手にしていた。
親はこっちに行くものと思っている。


「な。今更俺に嘘つくなよ。本当の事言って」
「・・・」
「響」
「・・・まだ、連絡してない」
「そっか。じゃ行こうぜ」
「え?」


改札とは反対に、僕の手を引いて歩き出す。
何?


「け、圭介君?何どこ行くの?」
「お前んち」
「え?」
「お前んとこ行って、俺から頼む。言っただろ、俺はお前と別れるつもりなんてさらさらないからな。出さないって言うなら、俺も残る」
「・・・何?」
「お前がここにいるんなら、俺もここに残るって言ったんだよ」
「なっ・・・そんな何言って」


言葉が出て来ない。
なのに、躊躇いなく歩いている圭介君の横顔は、足取りと同じくらい迷いがなかった。

いつの間にか降り出した雪の中、傘もささずに手を引かれて歩く。
2人とも黙り込んで。
たった一言、寒くないかって訊かれた時見たのは、いつも僕だけに見せてくれてた瞳だった。

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