名残雪(3)
[圭介(けいすけ)x響(ひびき)]
「そんなの聞かされて、はいそうですか、なんて言えると思ってんのか?」
「だ、って・・・」
「絶対許さねぇ」
「けい・・・ん、ぅ・・・」
言葉遣いが違う。
駅は、寒いせいか普段よりも少ないけど、人通りはちゃんとある。
なのに、その人目も構わずに唇を塞がれた。
強く抱きすくめられてて、ちょっとの身じろぎも出来ない。
いつもみたいな優しいキスじゃない。
苦しくなって、圭介君から離れようとしても全然駄目だった。
何度も繰り返されて力が抜ける。
「・・・お前、この1年、ずっと別れようと思ってたのかよ」
「・・・・・・」
「答えろ響」
やっと解放されたと思ったら、僕には見せた事がないキツい瞳が真っ直ぐ僕を見据えてる。
怖い・・・。
怯えが判ったのか、圭介君は腕の力を緩めてくれたけど、目の光は強いまま。
何の返事も出来なかった。
「俺から離れるなんて、絶対許さねぇ」
「や、ちょっ何・・・」
左手にボストンバッグ、右手に僕の腕を掴んで改札へ向かう。
有無を言わせない力に、僕の声も届いてないみたいだった。
静止も聞かずに2人分の切符を買おうとする圭介君に慌てた。
こんなの、僕の頭にない。
「ちょっと圭介君っ。何、してん・・・」
「お前も、俺と行くんだ」
「何言っ・・・行けない、って言って・・・」
「何でだよ!」
ばん!と券売機を叩く。
ざわめきが、一瞬遠くに消えた。
「何でだよ!お前、それで俺が納得すると思ったのか?するわけねーだろ?!そんな一方的に・・・っ」
ぎゅっと作った握り拳のまま振り返った圭介君の目から、涙がこぼれてる。
「これからも一緒にいられるって思ってた俺は、何だったんだよ!」
「・・・・・・」
「何で・・・俺の、事、嫌いになったのか?」
「・・・」
「響。答えろ。俺の事が、もう、嫌いになったのか?」
「・・・ううん」
うん、って言おうと、瞬間思ったけど・・・出来なかった。
その方が楽なのに・・・でも、そう訊かれて首を振った。
僕・・・やっぱり、圭介君の事好き、なんだぁ・・・。
考えてると、胸の奥が痛くなるくらい・・・幸せで泣きたくなるくらい、圭介君の事・・・。
こんな、最後になっても嘘つけないくらい・・・。