名残雪(2)
[圭介(けいすけ)x響(ひびき)]
「響っ。もう来てたのか、遅れて悪い」
「・・・」
「響?」
大きなボストンバッグを持って走って来た圭介君は、手ぶらの僕を見て怪訝な顔をした。
「響・・・荷物は?」
「・・・僕・・・」
「ん?」
足元に荷物を置いて、俯いてる僕の顔を覗き込んで来る。
いつも見てた優しい瞳・・・もう、見られなくなるんだ・・・。
「響?どした?」
「・・・」
「泣くなよ。荷物、あとから送って来るのか?ならいいけど」
行こうぜ、って肩を抱かれたけどそれに逆らう。
「・・・響?」
「・・・ごめん、僕・・・」
「ん?」
「・・・僕・・・行けない」
「・・・何?」
「さよなら、しに・・・来たんだ」
肩を抱かれたまま、辛うじてそれだけを口にする。
びっくりして立ち止まった圭介君が、僕の前に立った。
じっと僕を見つめてるけど、顔なんかまともに見らんないよ。
さっきから、泣くの堪えてるだけで精一杯。
言わなきゃ。
この1年、ずっと僕の中にあった気持ちを、圭介君に。
だって、今日が最後になるんだもん。
ここでさよならしたらもう逢えないんだから・・・今言わないといけない。
圭介君が何か言う前に言わなきゃ。
「ひび・・・」
「僕。ずっと考えてたんだ」
圭介君の言葉を遮って口を開く。
「圭介君が、県外に行こうって言った時から、ずっと考えてた。
圭介君は、これからもっと上に行く人だよ。
東京に行ったら、きっともっと楽しい事が待ってる。
僕なんかよりももっといい人、絶対見付かるから。僕は、ここから離れられない・・・一緒には、行けないよ」
「・・・」
「ごめんね。今まで付き合っててくれてありがと。すごく、楽しかっ・・・」
言い終わる前に、突然思い切り抱きしめられた。
「圭介・・・」
「うるさい」
黙れ、と言わんばかりに低くなった声。
聞いた事がない声音に気圧される。