俺が冬樹を受け入れた理由(わけ)(4)
[小林冬樹(こばやし・ふゆき)×忍和希(しのぶ・かずき)]
そのままの勢いで教室に走る。
山下が驚いて声をかけて来たけれど、そんなのに落ち着いて返事出来るような精神状態じゃなかった。
こいつも無視してカバンを掴み、俺はそのまま帰宅した。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!!!」
息が切れる迄部屋で怒鳴る。
幸い今日は、両親共に外出している。
どれだけ怒鳴り散らしても、誰にも迷惑なんかかけない。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬・・・はーぁ疲れたぁ・・・」
制服のままベッドに転がった。
力み過ぎてふらふらする頭で、しばらくぼうっとする。
「・・・ったくあの馬鹿っ」
俺が、好きだぁ?
付き合えだとぉ?
っざけんなっ!!!
「俺は、そういうつもりで勉強、教えてやってたんじゃないぞっ」
友達、だと思ってたのに。
そりゃ、最初は渋々だったけど、今はそうじゃないのに。
冬樹の成績が、ちょっとずつでも上がってくのが、素直に嬉しいから・・・だから、自分の勉強も後回しにして、あいつに付き合ってたんじゃないかっ。
顔を枕にばふん、とあてて、もう一度、あの馬鹿っ、と呟いた。
その夜は、大袈裟ではなく、本当に眠れなかった。
明日から、冬樹に対してどういう態度を取っていいのか解らない。
苛々する。
居ても立ってもいられない、っていうのは、こういうのを言うんだろう。
寝返りを何度も打って一応眠ろうと努力はしていたけれど、苛立ちの方が先に立ってしまい、結局、気が付いたら夏の空は白み始めていた。
「・・・あーもう・・・」
今からじゃ寝たってしょうがない。
ちょっとだけごろごろしてから、思い切って起き出してしまった。
「あら、もう起きたの」
「うん・・・はよ」
母さんが驚くのも無理はない、いつもより1時間も早いんだからな・・・。
でもまぁ、学校は開いてるし。
冬樹に会いたくないからって、休む訳にもいかないしな。
軽めに朝食を済ませ、何となく心配そうな母さんに手を振って登校した。
「あー・・・もうやだなぁ・・・」
こんな状況に身を置くなんて・・・大体、告白なんてされたの、俺にとってはこれが初めてになるんだ。
どうしていいやら・・・・・・。
あの苛立ちは一先ず収まっていて、それはありがたかった。
とりあえず、昨日の冬樹の様子を思い浮かべてみる。
あのまま帰って来ちゃったから、捨て台詞を残したあとの様子が判らない。
どうしたかな・・・ちょっと、馬鹿、は言い過ぎだったかも・・・。
悪い事した、って初めて思った・・・あれだけは謝った方がいい・・・かも。
「来たら、先に謝っちゃおう」
そう思って待っていたのに、冬樹は学校に来なかった。
昨日は元気そうだったのに・・・。
「‥なぁ、山下。昨日冬樹に会った?」
「あん、小林?」
「うん。俺が帰ってから、会った?」
「うん」
「‥あの・・・どっか様子変だった、とか・・・なかった?」
「別に?いつもと変わんなかったぜ。何で?」
「・・・何でもない」
好奇心が強い山下に、変に興味をもたれたらヤバい。
適当にその場をごまかし、授業に入った。
遅刻という事もなく、冬樹は来ないまま放課後になってしまった。
絶対、俺のせいだ。
あの告白がなかったら別に気にする事もなかったんだけど、昨日の事もあるし・・・帰宅途中、家に寄ってみる事にした。