俺が冬樹を受け入れた理由(わけ)(3)
[小林冬樹(こばやし・ふゆき)×忍和希(しのぶ・かずき)]



その日の朝、珍しくも正門前で、俺の前を歩いていた冬樹・・・既に名前で呼ぶようになっている・・・を見つけた。
足を速めて、後ろから肩を叩く。


「おはよ、冬樹。宿題やって来た?」
「あっおはっおはようっ」
「・・・声が裏返ってるけど、どうかした?」


もうこれにも慣れた・・・見る度変だという印象は新たにしてるけど。


「なっ何でもねーよ・・・で、何?」
「宿題だよ。やって来たんだろうね?物理の石川、怒ると怖いぜ?」
「大丈夫、珍しくやって来た・・・あのな、忍っ‥あのっ・・・」
「何?」
「う・・・何でもない」


・・・変な奴っ。


その日の冬樹は、いつにも増して妙だった。
授業中指名されても、突拍子もない事を言い出す。
聞いてるこっちがはらはらする、何やってんだよあの馬鹿は・・・。
これじゃ、折角勉強見てやってんのに意味ないじゃん。
そう思っていた。



「忍っ!」


昼休み、憩っていたらいきなり喧嘩腰で呼びかけられて、ちょっとむっとしながらそっちを見ると、冬樹がすぐ側に立っていて俺の事睨んでる。


「何だよ」
「放課後。話がある。屋上迄来てくれっ」
「話?今じゃ駄目なのか?」
「・・・駄目。放課後、屋上」
「・・・・・・いいけど」


めんどくさいなぁ・・・いやいや承諾すると、冬樹は、怒った顔のまま戻って行った。


放課後。
委員長の雑務を終えてから屋上へ出向く。
既に奴は先に来ていて、片隅に佇んでいた。


「冬樹」


俺の呼びかけに振り向いた顔は、やっぱりちょっと怒ったような、あんまり見た事がない真面目な顔をしている。


「何?こんなとこに呼び出して。今朝から、というかお前って逢った時から少し、いやかなり変だったけど、今日はまた格別だったよな。
俺のとこにも全然来なかったし。相談なら、アドバイスはしないけど、聞くだけ聞くぞ?」


俺の方は、一応友達だと思ってるから、悩み事でもあるのかと思って訊いてみた。
なのに、冬樹は、いきなりとんでもない事を口にしたんだ。


「忍!お前が好きだっ!!」


それを聞いた時、一瞬気が遠くなった。
危うくよろけそうになる足を踏みしめて、黙って冬樹を見つめる。
しばらく、見つめ合ったまま時は流れた。


「・・・忍?あの‥俺は、お前が、好きだ」


・・・多分、俺が聞こえてなかったと思ったんだろう、その、変な台詞を、冬樹が繰り返した。


「聞いたよ」


俺の短い返答のあと、また沈黙。


冬樹が何も言わないから、他に言う事はないのかと、先に沈黙を破った。


「・・・・・・それで?」
「え‥それで、って?」
「だから、好きだってのは聞いた。他には?」
「え。ほ、他には、って?」


飲み込みが悪い冬樹に苛立つ。


「俺に、どうしろってんだよ?」
「え?」
「・・・・・・」


何で、俺が話を進めないといけないんだよっ。
俺は、呼び出しを受けた方だぞっ。


「あの‥答えが、欲しいかも・・・」


ぼそぼそと呟いている冬樹を睨む。


「答え?答えって何のだよ?」
「う‥だから、俺と付き合って・・・くれるか‥どうか、の・・・・・・」
「・・・・・・」
「‥忍?」
「馬鹿っ!!!」


それだけ叩きつけて、呆然としている冬樹をその場に残し、校舎内に駆け込んだ。

TOPSITEMAPNOVEL