俺が冬樹を受け入れた理由(わけ)(2)
[小林冬樹(こばやし・ふゆき)×忍和希(しのぶ・かずき)]
翌日。
ちょっとばかり早目に登校、教室で小林を待つ。
いつもの時間に来た小林は、いつものようにちろっと俺に視線を投げたあとは、何やら真っ赤な顔をしてぎくしゃくと席に着いた。
「おはよう、小林」
「えっあっおっおはおはおはようっ」
何だこいつ・・・何で声、裏返してんだ・・・。
変な奴、という印象を新たにしつつ、昨日渋々決心した事を告げた。
「お前、俺に勉強みてほしいって言ってたよな?」
「えっ、教えてくれるのか?」
「・・・・・・めちゃくちゃ不本意だけどな。成績が平均になる迄、面倒みてやるよ」
「本当にっ?ありがとう忍っ」
「でも、忘れんなよな。あくまで平均迄だから」
「それでもいいっ、やった!」
真っ赤な顔のまま、小林は思い切り嬉しそうな顔で頷いた。
「・・・真面目にやれよっ!!」
数学の教科書をまるめて、遠慮なく小林の頭を叩いてやった。
「‥ってぇ・・・」
角があたったのか、本当に痛そうに頭を押さえている小林を、これも思い切り睨みつけた。
「お前が教えてくれっていうから教えてるのに!ぼやーっとしてんな!俺は構わないんだぞ、お前が留年しようと退学になろうと!
自分の事だろ、ちょっとは真剣に考えてみろってんだ!!」
誰もいなくなった放課後の教室で、俺は激怒していた。
一旦、面倒をみてやる、って決めた以上、これは俺の責任問題だと思ってるし、ちゃんとやってもらわないと俺の精神衛生上問題がある。
「ちゃんとやらないなら、俺帰るっ!」
脅しなんかじゃなく、本当に帰るつもりで席を立つと、小林が俺に縋りついて来た。
「忍っ、ごめん、ちゃんとやりますっ。許して下さいっ」
「・・・・・・本当に悪いと思ってんのか?」
「思ってます。ちゃんと勉強しますから、今度だけ許して下さいっ」
「・・・・・・本当に?」
「本当。誓います」
「・・・じゃ、今度だけ許してやる。ちゃんとやれよ小林。俺も、一旦決めたんだから手抜きはしたくないし、第一気になるだろ?」
「え?」
「‥俺は、お前をどうでもいいなんて思ってないから。ごめん、言い過ぎたよ」
小林の涙に、ちょっとだけ悪い事した、と内心反省。
まぁこいつが悪いんだからしょうがないけど。
そう思った矢先、小林の方からも同じ事を言われた。
「謝るなよ、俺が悪いんだから。ごめんなさい、ちゃんと集中します」
そう誓った小林は、それからは勉強中にぼーっとしてる事はなくなったみたいだ。
小林の成績も、だんだん上昇傾向になって来た。
教え始めて3ヶ月弱、スピードとしては上々だ。
小テストも含めたテストが返って来る度に、奴の成績を見に行く。
そしてその都度、本当に少しずつだけど、成績は着実に上がって来ていた。
「お前のおかげだよー、本当にありがとうっ」
「そうだよ、感謝しろよな」
俺の、こいつに対する態度も、当初の物とは大分違って来つつある。
軽口も叩けるようになった。
慣れた、って事なんだろう。
いい事なのかどうなのか判らないけど、友達、って枠には入れられる迄にはなっていた。
「何だよそれ。偉そー」
くすくす笑っていた小林が不意に真面目な顔になる。
「忍・・・俺・・・・」
「何?」
「あの・・・あの、俺・・」
なのに、この所、前にも増して小林の様子はおかしい。
俺に何か言いたげなのに、言えずに口ごもる、ってのが頻繁にある。
聞いても、はっきりとした答えは返って来ないんだ。
「だから何さ」
「・・・・や、何でもない。勉強、本当にありがとな」
「・・うん・・・?」
それからも、そんな妙な反応を示す小林の勉強は見てやった。
平均になる迄、のつもりだったけど、応用が全くきかないらしく、理数は単元毎に頭を抱えていて、前のを理解させても、新しい所もそうだとは限らないから。
まぁ、昔みたいに、毛嫌いする、って感じでもないから、別に構わなくなって来てたんだけど。
なのに、折角こいつにも慣れ、楽しくなって来た高校生活も半ばを過ぎた頃、いきなりと言えばいきなり、俺は小林に告白されたんだ。