phrase BY きゅろんさん



焼き上がったばかりのCDロムをケースに収めて、カバンの中にしまい込む。
少し疲れた目をこすりながら、たった今完成したばかりのメロディをもう一度聞きなおす。
大丈夫、今回の曲は自信作。フレーズとぴったりマッチしてるはず。僕は天井を見上げると、そのままゆっくりと目を閉じて、サウンドの波に身をゆだねる。


きっかけは、楽譜だった。ピアノをやっている僕が落とした、たった一枚の五線紙。拾ったのがあいつ。そのときまでは存在すら知らなかった。
楽譜を一通り眺めて、あいつは言った。学園祭でバンドするんだけど、仲間に入らないか、と。
「キーボードが足りないから、ぜひ頼みたいんだ」
キーボードなんてやったことないし、学園祭まで3ヶ月しかない。迷っていたら、あいつは一枚のレポート用紙を差し出すと、
「これ、俺が作った歌詞なんだ。キーボードがムリなら、せめて曲をつけてくれないか」
受け取って読もうとするとあいつは、今から練習があるからと逃げるように走っていった。
あっけにとられつつ、そのペラペラな紙に走り書きされたあいつの詩を読んでみた。飾りのない愛の言葉の羅列。なんとなく、あいつの性格が現れてるような気がした。
話したこともない相手に、いきなり自作の作品を見せるなんて変わってる。
僕は、あいつの詩よりも、あいつ自身に興味を持ち始めていた。
それが、ちょうどバレンタインデーのことだった。


デスクに置かれたその歌詞を読み返す。もう、何度も読んで憶えてしまったのに、それでも新鮮さは変わらない。出来たばかりのメロディを口ずさみながら、いつもの空想にふける。


学園祭当日。ステージの上に立つのは、あいつと僕と、バンドの仲間達。最後
の歌の前に、あいつが客席に向かって言うんだ。
「この曲を俺の愛する人に捧げます!それじゃあ、行くぜ!」
あいつが上げた右手に合わせて、僕は最初の音を弾き出す。それが合図。僕達
の創り上げた世界が、4分あまりの間、講堂という小さな空間を埋め尽くす。

―どうして気付かないんだ、僕の想いに
―どうして目をそらすんだ、君の気持ちから
―いいさ、分からせてやるさ、すべてを壊しても
―そうさ、君のためなら、なんだってやるさ

そして、最後のフレーズの時に、あいつが僕の目をはっきりと見つめて歌うんだ。

―死が二人を分かつまで、お前を愛すると誓わせてくれ

僕はウインクで答えると、そのままラストまで弾き続ける。あいつに視線をあわせたままで。
アンコールの嵐にあいつは両手で応えると、僕に近づいてきて、そして…。


ヘッドフォンをはずすと、そのままベッドに身を沈める。空想は空虚、現実は事実。こんな夢なんて絶対に叶わないのは分かってる。学園祭が終わったら、ただの『元・バンド仲間』になるんだって分かってる。
告白してしまえたらいいのに。でも、言ってしまえば、最悪の結末を迎えてしまうかもしれない。
あの時貰ったレポート用紙を、天井のライトに透かしてみる。目に入ったフレーズを何度も繰り返し呟いてみる。自分に言い聞かせるように。
「すべてを壊しても…、か」
ゆっくりと起き上がると、カバンの中からさっき焼いたCDを取り出して、机の中にしまった。パソコンに向かい、プリンタの電源を入れる。出来たての二人の歌を五線紙に打ち出すために。
明日は、キーボードで弾いてやろう。あの歌詞を付けて歌ってやろう。あいつに目線をあわせて。僕の想いを込めて。



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お友達・きゅろん様から、以前の5000ヒット記念に頂戴したお話ですv
伏線があるのですが、お気付きでしょうか?
うちは教えてもらう迄全く気付きませんでした!
そういうのには弱いんだ・・・。
きゅろん様の他のお話は「Writing Sites」(Eternal Reborn様)へ飛んで下さいね♪