一番のプレゼント(3)
[小林冬樹(こばやし・ふゆき)×忍和希(しのぶ・かずき)]
・・・キーンコーン・・・。
やっと鳴った終了のチャイムと同時に振り返る。
そしたら、やっぱり忍と視線が合った。
(・・・やっぱ俺の事見てるのか?)
急にどきどきして来た。
そのまま忍の席に歩く。
「忍」
「・・・何?」
ふと見ると、隣で山下がにやにやしている。
「話があるんだけど」
「・・・俺、仕事があるから」
「ちょ、忍っ」
俺の視線を避けるかのように顔を逸らせたまま立ち上がって、教室を出て行ってしまった。
追いかけようとした俺を、山下が引き止める。
「な、小林。言った通りだっただろ?」
「・・・うん」
「だからさ。お前だけいればいいんだよ、和希って。そんな特別に何かをプレゼントしようなんて考えなくてもさ。
それから、今はただ照れてるだけだから。あいつもどうしていいのか解ってねーんだと思うな」
うんうん、と一人で納得している山下に、呆然とした視線を投げる。
照れてる?忍が?
「俺、行って来るっ」
言い残し、忍を捜して教室を出た。
真っ先に屋上に出た。
確信はなかってけれど、何となくいる、と思った。
案の定、忍は、フェンスに寄りかかった姿勢で校庭を眺めていた。
「・・・忍」
呼びかけると、はっとした顔で俺を振り返ったけれど、すぐにすい、と視線を外してしまった。
「忍?」
「・・・何」
「あの‥急にどうしたんだよ。もうじきホームルームが始まるぜ。委員長がいなくてどうすんだよ」
「・・・うん」
ゆっくりと忍の方に歩いて行って隣に並ぶ。
少し間隔をあけたにも関わらず、忍が緊張したのが判った。
「忍」
「・・・俺が見てたの、判った?」
「あー・・・うん」
「・・・ばれちゃったか・・・」
小さな声で呟いた忍を見ると、真っ赤な顔をして俯いている。
「あの・・・忍。俺、ずっと気が付かなくて・・・」
「何に?」
「お前がその・・・」
「冬樹を見てた事?」
「・・・うん」
「・・・俺ね、何か最近・・・変、なんだ」
「え?」
「俺・・・前は全然そんな事なかったのに・・・授業中とかでも、何、しててもずっと冬樹の事が・・・頭から、離れない、んだ」
「・・・」
「そりゃ、前だって考える事はあったけど、そんな四六時中じゃなかった。
それに、考えてたって、切なくなるなんて事なかったのに・・・今は違う。
ずっとずっと冬樹の事、考えまくってて、目の前にいないと苛ついたり・・・でも、本当に目の前にいるとどうしていいのか判らなくなったり・・・緊張したり、嬉しくなったり・・・色んな感情が俺の中で生まれるんだ。全部、冬樹のせい、だよ」
黙ったまま忍の言葉を聞く。
こういう事を言われるのは初めてなんだ。
「今は‥緊張してる。それ以上に冬樹と二人きり、っていうのがあったかくなるくらい嬉しい。でもね、同時に、冬樹がいなくなったらどうしよう、って不安になってる俺もいるんだ。何かの行き違いで喧嘩しちゃったりとか・・・元に戻れればいいけど、そうじゃなかったりしたら・・・俺・・・きっとどうにかなっちゃう。おかしくなるかも知れない。怖いよ」
「忍・・・」
「・・・本当だよ。今が凄く幸せなだけに、これがなくなった時が、物凄く怖い。俺・・・もう、冬樹がいないと、駄目、みたい」
「・・・・・・」
黙ったまま忍を腕の中に入れた。
そのままそこにしゃがみ込む。
何にも抵抗しないで、忍は従ってくれた。
きゅ、と抱き締めると、緊張してる、と言っていた体から力が抜ける。
「ごめん。俺、そんなの全然気が付かなくて・・・そんなに色んな事、考えてたなんて知らなくて・・・ごめんな。
でもそんなに不安になんなくてもいいから。俺は本当に忍が好きだし、忍もそう思っててくれてるなら、終わりになんてなんないよ。
始まったばっかじゃん。約束する。絶対、終わりになんてしない。信じて欲しい」
「・・・本当に?」
「本当。誓うよ。信じてくれる?」
「・・・ん」
「よかった。じゃ、もう不安になんてなんない?俺、忍にはいつ迄も側にいて欲しいし、俺の事でそんな気持ちになって欲しくないんだ」
「・・・うん」
やっと笑みを見せてくれた忍にほっとする。
「ところで忍。ちょっと聞きたい事、あるんだけど」
「ん、何?」
「あの・・・本人に聞く、なんて反則だと思うけど・・・来週お前の誕生日じゃん。何か欲しい物、ある?」
二週間も考えて何も思い付かないんだから、もうこれは本人に聞いてそれをあげるのが一番だろう。
「‥もう貰った」
「え?」
「もう貰ったよ。俺の一番欲しいもの。有り難う冬樹。ずっと考えてくれてたんでしょ。嬉しい」
「・・・何かあげたっけ?」
「うん、今。冬樹の誓いの言葉。他には何も要らない。後は、冬樹が俺の側にいてくれさえすれば、それでいい」
俺の背中に腕を回して自分から抱きつきながら、そんな可愛い事を言い出す。
「冬樹?」
「お前、本当にそんなんでいいのか?もちょっとプレゼントらしき物とかないの?」
「ない。冬樹だけいればいいんだ。一緒にいてくれるなら、それがプレゼントだよ」
図らずも山下の言う通りだった。
安上がりだと言えば言える、忍の一番欲しいものだった。
それでも、学校が春休みに入った後にあった忍の誕生日。
俺はやっぱり散々悩んで、俺と揃いのグラスのセットを贈った。
淡い青のグラスには、表面に細かい亀裂が入っているようなデザインで、前に忍が可愛い、と言っていた奴だ。
それを携えて忍の家にお邪魔した。
一人だから、と言っていたからだけど、俺の想像以上に喜んでくれて、悩んだ甲斐があったと言うものだ。
でもやっぱり、冬樹が来てくれた事が一番嬉しい、と頬を染めながら告白した忍は、世界で一番可愛い、と断言できる。
タイトルが決まらなかったので、お友達のユリ様につけて頂きました。
一番話数が多いこの2人、今書いたらきっと違うようになるんだろう。
2001年10月11日上がり。