一番のプレゼント(2)
[小林冬樹(こばやし・ふゆき)×忍和希(しのぶ・かずき)]
「何だよ」
「・・・なぁ。もうじき忍の誕生日じゃん」
「・・・あぁ」
やっと合点が行った、という顔になった。
「何だ、それでプレゼントでもやろうか、って考えてんだ?マメだねお前も」
「当たり前じゃねーかっ。忍の誕生した日だぞ?感謝しないとだし」
「・・・何馬鹿言ってんだよ・・・」
「あ、それでさ、こんなん忍に聞く訳にも行かないからお前に聞くけど、何か忍の喜びそうなプレゼントってないかなぁ?此処しばらくずっと考えてんだけど
全く思い付かないんだよ」
「和希の喜ぶもの?んなの決まってんじゃんか。お前解んねーの?」
あっさり言われて狼狽えた。
親友に判って恋人には判らない???何だよそりゃ。
「・・・・・・判んねー」
「お前、本気で言ってる?本当に判んねーの?」
「・・・・・・うん」
「はーもう・・・和希が一番欲しいものって言ったら、そんなのお前に決まってんだろ?お前さえいりゃいいって思ってるって。他には絶対何も要らねーよ」
「え、えっ?!」
真っ赤になった俺を、半分面白そうに山下が眺めた。
「何、和希って、そういう事はお前には言わねーの?俺には散々のろけてる癖して」
「の、のろけてる?忍が?」
「ああ。もうあてられっぱなしだよ。お前って、席、一番前だろ?俺達のって後ろじゃん。授業中とか、あの和希がぽーっとした顔して、お前の事見てるもんな。それでも席次が下がんないのはさすがだけど。だから、お前以外は要らないって思ってるぜ、絶対。聞いてみろよ」
「・・・・・・」
知らなかった。
そんなの全然。
唖然としていたら、山下がにやにや笑いながらこんな事を俺に進言して来た。
「なぁ、小林。今度授業中に、そうだな、時間半分経った頃、和希の方見てみろよ。あの和希のぽーっとした顔が見られるぜ?本当、顔赤くして見てんだもん。ひと頃のあいつからは想像もつかねーよ」
・・・という訳で、俺はそれを次の時間に実行に移す事にした。
既に半日授業になっている。
午前最後のその授業中、山下の進言通り、半分経った頃いきなり後ろを振り返ってみた。
すると、その瞬間に、確かに俺を見ていたと思しき忍の視線とばっちりかち合った。
忍の隣席の山下が、俺に目配せをして来たけれど、本当に真っ赤な顔をして慌てて視線を逸らせた忍が俺の視界に入った。
「こら小林っ!」
ぱかん、と頭を叩かれて我に返る。
目の前には、この時間の担当教師が立っていた。
「あ、せんせー」
「あ、せんせーじゃない。何をよそ見してるんだ。この原文に返り点を付けろっ」
「はーい」
文系は割と強いから、あっさりとそれをこなして着席した。
「こら、誰が座っていいって言ったんだ」
「へ?」
「返り点の次もやれ」
「えー、返り点だけって言ったじゃないっすか。ずるいよ」
「よそ見してた罰だ。ほらやれ」
「ちぇっ」
結局書き下し文と現代語訳迄やらされてしまった。
よく出来たな、と妙に嬉しそうな教師なんて、俺にはどうでもいい。
さっき見た、真っ赤な顔の忍の方が気になる。
早く終われ、と執念にも似た気持ちで祈り続けた。