Lotus-eater(3)
[基明(もとあき)くん)×悠人(ゆうと)くん]
教室に入ってみたら、既に誰もいなくて、基明だけが自分の席に座っているのが見えた。
何か、滅茶苦茶元気なさそうな顔してる。
「基明?どしたの、んな顔して・・・」
「・・・何でもねーよ」
「皆は?」
「・・・もう帰ったんじゃねーの?」
「ふぅん、そっか。じゃ僕達も帰る?」
「・・・うん」
わざとらしくよろけながら立ち上がって、コートを手にする。
どーしよ・・今渡しちゃった方がいいのかな‥折角誰もいないし・・・。
ものすごく元気なさげな顔してる基明・・・今すぐ元気な顔、見たいしな・・・。
「あの・・・ね、基明?」
「んー?」
‥何かいつもと口調が違う。
不機嫌そうで、ちょっと勇気が萎えた。
でも、チョコ折角持って来たし、カバンの中から出して基明にあげるだけなんだよね。
だから、居心地が悪いのを我慢して、自分の席に歩いて行った。
机の横にかけてあるカバンを開けて、準備して来た箱を出す。
「悠人ぉ、帰んねーの?」
後ろで基明が訊くのには返事をしないで、綺麗に包まれたプレゼントを手に、くるっと振り返った。
手は後ろに回したまま。
「・・・何?」
「えへへー‥んーとね、僕、基明に渡す物があるんだぁ」
渡す物・・・それを聞いた途端、自分の顔が明るくなったのを自覚した。
ちょっと上目遣いに俺を見上げてる悠人の、後ろに回された手に、きっとチョコがあるんだっ。
「欲しい?」
んな、焦らすような事言うなよっ。
欲しいに決まってんだろっ。
「何を?」
・・・でも俺も意外と素直じゃない・・・待ってたみたいに思われるのも癪で、気にしてないって態度を取ってしまった。
「んー・・・えーとね、これっ」
ぱっと目の前に差し出されたのは、思った通りの、掌サイズの箱だった。
基明の目の前にチョコを出した瞬間の顔。
きっといつまでも僕の宝物になる。
今にも蕩けそうな顔してた。
「悠人ぉ・・・」
「ん?」
何だか僕まで嬉しくなる。
あげたチョコを手に、今にも泣き出しそうな顔してる基明に、ちょっと甘えた声で訊いてみる。
「へへ。嬉しい?」
「当たり前だろ?これだけ欲しかったんだ」
他のなんてゴミだよ、とか言い出す。
他の、って何だよ。
知らないぞ、そんなのっ。
「もーとーあーきー?」
「何?」
さっきまでは確かに嬉しかった、基明のでれでれした顔を睨む。
「お前ぇ、他のって何だよっ。僕以外からも貰ったって事ぉ?!」
「うっ!」
しまった、つい口が滑って・・・慌てて言い添えた。
「言っただろ?他のなんてゴミだよゴミっ。俺は悠人のだけあればいいんだから、あー嬉しいなー本当生きててよかったぜ」
ほら帰ろうぜ、と促すと、ちょっと不信そうな顔をしつつも頷いてくれた。
助かった・・・・・・。
寄ってけよ、と家に悠人を連れ込んだ。
何か食べたい、と言い出した悠人に、今日貰った義理チョコ軍団を手渡す。
「・・・お前こんな沢山・・・いつの間に・・・」
テーブルに置かれた、確かにちょっと多いかなと思える量のチョコを、悠人が呆れ半分、怒り半分の顔で眺めてる。
うおーヤバい、早く何とかごまかさないと!
「でっでもほら、お前のおやつ代わりになるじゃん。俺は悠人からのチョコだけあればいいんだから、全部食っていいぜ」
「うー・・・」
「ほら唸ってねーでさ」
「うー・・・わかったよ」
食べ始めた悠人を残し、大事な大事な本命チョコを机の上に飾りに行った。
色々眺めて、完璧な位置に置く。
「ちょっと僕のも食べてよね」
「食う?お前のを?やだよっ」
「・・・はぁ?」
「勿体無くて食えるわけねーだろ?このまま飾っとくよ」
決まってんじゃん、と胸を張ると、悠人のさっきまでの怒り半分の顔が、完全な呆れ顔になった。
「じゃ、チョコ食べないの?」
「俺はいいよ。全部悠人に譲る」
「ふぅん、結構美味しいのにさ・・・じゃあさ基明、ちょっとこっち来て?」
呼ばれて悠人の隣に座る。
「何?」
「んーとね、ちょっと目、瞑ってくれる?」
「・・・いいけど?」
怪訝に思いつつも、言われた通りに目を閉じた。
「見えてない?」
「うん、何も。何なんだ?」
「いいから。目開けちゃ駄目だよ」
「・・・うん」
小さな、かさこそいう音がした後、いきなり唇を塞がれた。
悠人がキスしてる、ってすぐに解る。
同時に口の中が甘くなった。
一瞬離れた悠人の唇を追う。
腰に手を回して抱き寄せた。
「・・・どう?」
「美味しい」
「でしょ?」
くすくす笑ってる悠人に、おねだり。
「悠人・・もう一回、して?」
いいよ、って笑って、小さなチョコのかけらを口に放り込んだ悠人に、間をおかずにキスを仕掛けた。
やっぱり甘いキス。
我慢出来なくて、そのままその場に悠人を押し倒した。
一番欲しかった悠人からのチョコは、今でも俺の机に飾ってある。
今度は俺の番。
もうすぐにある、ホワイトデーの日、悠人にあげるお返しにどんな趣向を凝らそうかと、今から色々考えてるとこだ。
・・・ところで、悠人はバレンタインにチョコ、貰ったのかなぁ・・・。
あの時は何も考えてなかったけど、今になってちょっと気になり始めてるんだ。
巷じゃ、女の子が男の子のチョコをあげる、って行事なんだから、悠人だって誰かから貰ってないとも言い切れない。
あんなに可愛いんだし・・・でも訊くのがちょっと怖くて、その質問は今の所保留にしてある。
いつか訊けるかどうかは・・・神のみぞ知る。
ユリ様へのプレゼント。
意味は辞書に載っております。
このCPも、私は大好きなんです。
竜巳x悠介のバレンタインネタと同時進行してました。
この話は、ユリの文体を真似し、1つの話で2視点から。
初の試み、でした。
2002年2月5日上がり。