Lotus-eater(2)
[基明(もとあき)くん)×悠人(ゆうと)くん]
基明の様子がおかしい。
僕といても楽しくないみたいな顔してるし。
何だろ‥悩み事でもあるのかな。
でも、だったら僕に相談してくれてもいいのに・・・どうしたの、って訊いても、返事してくんないしさ。
「ねー、どうしたんだよ?何でそんな顔してんの?」
「・・・何でもねーよ」
「何でもないなら、そんなため息つく理由ないじゃん」
「・・・ほんとに何でもない」
もう・・・何回訊いてもこれ・・・ってそう言えばさっき変な事訊いて来たな・・・来週がどうとか。
あんまり、というか全く全然さっぱり深く考えずに、知らないって答えたけど、あの後くらいから様子がおかしくなったんだ。
だから、もうちょっとしっかりと考える事にする。
でも来週・・・来週って何かあったかなぁ・・・。
まだ学校はあるし(当たり前だ)別に何かの記念日でもないし、基明の誕生日でも僕の誕生日でもないし・・・何だろう・・・?
・・・悠人まで何か考え込んでる。
いきなり難しい顔して眉間に皺まで寄せて・・・見ようによっては怒ってるとも取れる顔をしている。
「悠人?」
「・・・んー?」
「何でそんな顔してんだよ?」
「別に?」
別に、じゃねーだろ、もう・・・。
「・・・あっ!」
解った!
恋人達の聖典・バレンタインだっ!!
来週の今日、バレンタインじゃんっ。
あー‥僕全然気が付かなかったよ・・・これで、基明の様子が変だった理由が判明、した、と思う。
きっとこれだ。
いきなりでかい声を上げた悠人に、心臓が飛び出すかと思ったくらいびっくりした。
飛び上がらんばかりになった俺をまじまじと見つけた後は、動かなくなってる。
「・・・何?」
「何でもない」
一瞬、バレンタインの事が分かったのかと思ったのに、そうじゃなかったらしい。
あーあ。
これじゃきっと、チョコなんか貰えないだろうな・・・。
催促すんのも癪だし、もう考えんのやめよ・・・そう思って、バレンタインの事は、無理矢理頭から追い出した。
・・・で、当日の放課後。
俺の周りの野郎どもは、チョコをいくつ貰っただの、密かに好きな子からもらえないかとか、鼻の下伸ばしまくって俺の周りで騒いでる。
ったくムカつく野郎どもだっ!!
「るせえぇぇっ!!!」
がたがたがたっ、と椅子を蹴倒す。
ついでに机も引っくり返してやろうかと思ったけど、後で片付けるのが大変だから、とやけに冷静に脳の片隅で考えてしまう自分が悲しい・・・。
「・・・何だよ基明。いきなりキレるなよっ怖ぇだろーが」
「俺は謝んねーぞっ!」
「何怒ってんだよー。お前だってもらってたじゃん。他に全然貰えねー可哀想な奴らもいるんだから、嬉しそうにしてりゃいーんだよ」
「誰があんな義理チョコ貰って嬉しいもんかっ!」
「義理じゃないのもあったじゃん」
・・・そりゃあった。
あったけど、そんなの貰ったって、騒動の原因になりこそすれ、ありがたいもんでも何でもないっ。
「・・・俺は、たった一つだけ貰えりゃいーんだよ・・・」
くすん、とわざとらしく泣く真似をする。
その、切実に欲しい、たった一つのチョコを俺はまだゲットしていないんだ。
チョコの数は男のステータス、なんていって、質より量の奴らなんて、俺には信じられない。
俺が欲しいのは、たった一つの本命チョコ。
悠人からだけ貰えればいいのに・・・。
その、当の悠人は、一日俺の事避けてた。
きっと、チョコ買ってないから、バツが悪くて俺から逃げてるんだ。
きっとそうだ、そうに違いない。
「あーあ・・・」
もう一度机に顔を伏せた。
きっと、このまま待ってても、悠人からチョコなんて貰えない。
何かもう、どうでもよくなって来たし・・・。
殆ど自暴自棄に陥りかけてた時、教室のドアがからから、と遠慮がちに開いて、俺の<恋人>相沢悠人が顔を出した。