Hushaby(1)
[空(そら)君x雪(ゆき)君]
「えーん、えーん‥空ぁ・・・」
「雪、大丈夫だから」
誰か、泣いてる。
誰・・・?
そう思って目を開けると、そこに、真っ赤な顔で俺を見つめてる雪の顔があった。
「空。空大丈夫っ?」
目からぽろぽろと涙を零している雪を宥めているのは、壱兄。
そうだ。
俺、風邪こじらせたんだっけ・・・。
軽い風邪だと思って油断したのが悪かったのか、昨日からぐんと熱が上がった。
滅多に風邪なんか引かないのに、いやむしろそれがアダになったのか、起き上がれもしない。
何も食べられず、ただ寝てるだけでも辛い。
「けほけほっ‥ったぁ・・・」
咳き込むだけでも咽喉が痛い。
「空っ。痛いの、何処っ?」
「雪。大丈夫だから落ち着けよ」
「だって、だって空がっ・・・」
まるで、俺が死んじゃうと思ってるみたいに泣いてる。
壱兄が、あっちに行こうって雪の手を引いても、布団を掴んで抵抗してる。
「ゆきぃ‥」
「何っ?何空、どっか痛いの?」
・・・ったく、俺より死にそうな顔してるよ・・・。
心配かけたくなくて、苦しいけど笑って見せた。
「だいじょぶ。だいじょぶだから、泣くなよ」
俺の、ぎゅっと握られている手を逆にする。
力なんかあんまり入らないけど、それだけでも、雪がちょっと安心したみたいになった。
「ほら雪。空に薬・・・」
「僕っ。僕やるっ」
壱兄から水と薬を引ったくり、俺の方に向き直った。
「空、薬飲める?」
「あー・・・うん・・・・ってぇ‥」
飲み込んだ水が咽喉にしみた。
顔をしかめた俺にちょっと待つように言って、雪が部屋から飛び出して行った。
本当だったら、今日は皆で動物園に行こう、って約束、だったんだ。
壱兄と勇兄と雪と明と俺で・・・ずっと楽しみにしてたんだ。
特に明には初めての動物園で・・・ずっとずっとその事ばかり話してたっけ。
でも、俺のせいで行けなくなっちゃったんだ・・・。
「はぁ・・・」
「・・・おい大丈夫か?」
壱兄が顔を覗き込んで来た。
「うん‥ごめんね」
「何が」
「今日、皆で遊ぶはずだったのに・・・」
「何言ってんだよ。風邪なんだから仕方ないだろう。いいから早く治せよ、でないと雪が大変だぞ」
水を取り替えに行った壱兄と入れ違いに、雪が部屋に戻って来た。
「空これ。これ貼っとくといいよ」
「何それ」
「前に、勇兄に教えてもらったの。咽喉痛い時にね、これが効くって言ってた・・・はい」
「うん、ありがと」
「すうっとして来るって。きっと早く治るよ、空・・・あ、それからね、これ明君から」
「え?」
「早く治るように、って。字も自分で書くって、勇兄にお手本書いてもらって自分で書いたんだよ。本当はね、自分で空に渡すって言ってたんだけど、風邪がうつると困るからって、今向こうで勇兄が宥めてるんだ」
渡されたそれは、大きなカードだった。
『そらにいちゃん。かぜ、はやくなおってね。あき』
って書いてある。
中を開けたら絵が描いてあった。
「それ、何の絵か解る?」
「・・・うん」
急に涙が出て来て焦った。
そこには、今日皆で行くはずだった動物園の絵が描かれていた。
想像して描いたみたいで、見た事がない、よくわからない動物と、壱兄と勇兄と雪と俺、それと自分。
明の手には風船が握られていて、もう片方の手は壱兄とつないでる。
勇兄は何か食べてて、雪は明のすぐ隣を歩いてる。
俺は、皆からちょっと離れた、動物が入ってる檻の前で、皆を呼んでるみたいに手を振っていた。
「・・・っく」
「そっ空?どうしたの?どっか痛いの?何で泣いてんの?空ぁ、泣かないでよぉ・・・」
戻って来た壱兄が、半分呆れた声を出す。
「‥今度は何?」
「うっ・・・空がね、空が、泣いてんのぉ・・・」
「‥空。何で泣いてんだ?」
「‥これ」
今貰ったカードを壱兄に渡す。
知ってたみたいで、俺の頭をくしゃくしゃ、と撫でてくれた。
「壱兄‥明と、会っても、いい?すぐ帰すから」
「そしたら、休むんだぞ?」
「うん」
目を擦りながら頷く。
壱兄と雪が出て行った後、入れ違いに明が部屋に入って来た。
「空兄ちゃん?何?」
「明。これありがとな」
「うんっ」
にこにこしながら、明がこっちに来た。
「明ね、頑張って描いたんだよ」
「‥ごめんな。楽しみにしてたのに」
「うん‥でもいい。早く治ってね?」
小さな手で、俺の頭を撫でてくれる。
頷いた時、壱兄が来た。
「ほら、明。空は寝ないといけないから。あっちで遊ぼう」
「うん。じゃね、空兄ちゃん。また来るね」
手を振って、壱兄に手を引かれて出て行った。
きっと、来週の休みには皆で遊びに行ける。
壱兄と勇兄、雪と明と俺で動物園に行くんだ。
そして、いつもはうるさいだけの明と、遊んでやるんだ。
ちょっと残ってるお小遣いで、明に風船、買ってやるんだ。
きっと楽しい1日になる。
明日には治ってるように、もう、皆に心配かけないように、ってお願いして、俺は目を瞑った。
ユリさんへのプレゼント。
「White Christmas」を貰って頂けたので、かなり調子に乗りどかどか送っておりました。
このCPで描写は無理です。
2002年1月14日上がり。
「White Christmas」についてユリからの返事のメールが来たその日にたーっと書き上げた記憶があります。
だって嬉しかったんだもの・・・。