Commencement(8)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]
その日から、考えに考えた。
学校でも難しい顔で人との接触を避け、家でも部屋に閉じこもり・・・再び悠介が心配し出したくらい真剣に、頑なに自分の殻に閉じこもった。
健一の言う事もっともだ。
変に取り返しのつかない真似をするくらいなら、いっそ思い切って告白した方がいい。
そう考えもした。
でも、もし本当に玉砕したら、きっと立ち直れない。
いくら必死に考えても、同じ迷路をぐるぐる回っているだけで、きっちりとした答えは出せずにいた。
そんな毎日も1週間が過ぎた頃。
とうとう考えが煮詰まった。
発作的に、悠介の家に電話をかける。
『もしもし、秋本ですけど』
平日の夕方。
夜中にならないと帰宅しない両親を持つ悠介が、当然の事ながら電話に出た。
「あ・・・悠介?俺・・・」
『竜巳?』
途端に、悠介が嬉しそうな声になる。
それでなくてもこの1週間、誰とも接触しなかった竜巳を心配していたのだ。
『どうしたの?何かあった?』
「あー・・・うん、ちっとな・・・」
『何か悩み事?俺でよかったら相談に乗るよ?』
決心がついたわけではない。
無意識に、手がダイヤルを回していたのだ。
口ごもっていると、悠介の心配そうな声が聞こえて来た。
『竜巳、どしたの?何でも言って?気なんて遣う必要ないから』
「・・・うん・・・あのな・・・あの、俺・・・」
『うん?』
「あの・・・・・・あの俺、実は言いたい事が、あるん、だ、けど・・・」
悠介の優しい声に促されるようにして口を開く。
手には汗を握り、心臓は今にも飛び出しそうだ。
出る声まで震えている気がする。
『うん、何?何でも聞くよ?相談?』
その声をバックに、大きく深呼吸した竜巳が、次の瞬間、一気に告げた。
「悠介。俺実はずっとお前が好きだったんだ。俺と付き合って下さいっ」