Commencement(7)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]
そんなの、解ってる。
言われなくたって。
想像だけじゃ、今にきっと足りなくなる。
子供の頃に感じていた純粋な≪好き≫と、今の≪好き≫とは、既に全く別物なのだ。
子供の頃は、こうした感情に伴う欲望なんて全然知らなかったけれど、今は違う。
あんなに辛いと思っていた中学時代でさえ、ここまで切羽詰まってはいなかった。
まだ体格が同じくらいだったし、力の差もそんなにはなかったから。
でも、今はそうじゃない。
中学の終わり頃から、ぐん、と身長が伸びた竜巳とは違い、悠介は未だに小柄な方だ。
押し倒そうと思えば簡単に出来てしまうだろう。
そうなれば、きっとそこまでじゃ終わらない。
もし万が一にでも、一旦火がついてしまったら、もう自分を止める自信はない。
「俺って汚い・・・」
何度思ったか分からない事を、ぽつりと呟いた。
・・・大事なのに、真実、心から好きなのに、淫らな妄想に悠介を使っている。
自分の快楽を満たすためだけに・・・。
「んな事ないよ」
健一の言葉に、思考を遮られる。
「そんな事、ないよ」
真剣な顔で竜巳を見つめながら、もう1度同じ言葉を、やけにきっぱりと繰り返した健一に、真意を目で問うた。
「しょうがないだろ。好き、なんだから。好きなら、全部欲しくなる。恋愛って綺麗事じゃないよ。本当は、もっともっとしたたかなもんだよ。したくなるのもそうじゃん。体だって欲しくなる。でも、それが自然なんだよ。心だけで満足する恋愛なんてあり得ない」
「健一・・・」
「自分ばっか責めるのはよせよ。可哀想すぎるだろ?」
そう言われた時、竜巳の体から力が抜けた。
「告白。してみろよ。今まで我慢して来たんだから、この辺で自分の気持ち、解放してやってもいいんじゃないか?」
「・・・・・・本当に・・・そう、思う・・・?」
「ああ、思う。取り返しのつかない真似しちゃうよか、そっちの方が全然いいって。大丈夫だよ」
「・・・考えて、みるよ。ありがとう健一。俺、お前に相談してよかった」
やっと見せた笑みに安心したように笑い返した健一が、竜巳の髪を少しだけ乱暴に撫でる。
「頑張れよ。秋本なら、絶対軽蔑なんてしないから。そんな奴じゃないだろ」
その言葉に、竜巳は何も答えなかった。