Commencement(6)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]
だが、どちらにしろ辛い事には変わりはない。
同じ高校に行こうね、と誘われて断り切れなかった。
入学した高校でも同じクラスになってしまったし、友達でいよう、と決めてからも、悠介を夜のおかずにする事は止めたわけではない。
恋心と自己嫌悪は膨らむばかりだった。
顔を合わせる度に前夜の出来事を思い出し、恥ずかしさに真っ赤になる。
同時に、本当にああいう風に喘いだりするのだろうか、などと考えている自分に気が付いて、愕然とする事もあった。
「あー・・・もう駄目かも・・・」
掃除の終わった放課後の教室で机に突っ伏し、いつにない弱音を吐いた竜巳に、隣の席で、高校からの友人・片山健一が声をかけて来た。
「竜巳?なしたん、お前。妙に疲れてねーか?今日体育もなかったのにさ」
「あー健一ぃ・・・俺もう駄目かも・・・」
「何が」
きょん、とした目をしている友人に、竜巳はこれまでの事を話した。
自分の中ではもう消化し切れない。
誰かに、この気持ちを整理するのを手伝ってもらいたかった。
どう思われるか、なんて事に考えを巡らせる余裕もない。
「・・・ふぅん・・・」
竜巳の、短くもない話を遮る事なく、黙って話を聞いていた健一が嘆息する。
「・・・ごめんな、こんな話して・・・でも、他に誰にも言えないんだよ・・・。悠介に言うわけにもいかないしさぁ・・・」
既に教室には誰もいない。
いつもは一緒に帰る悠介も、今日は用事があるとかで先に帰宅していた。
「それでずっとへこんでたのか・・・」
「・・・今まではずっと我慢してたけど・・・これ以上は、多分もう無理。いつか何かしちゃいそうで、正直、一緒にいるのが辛いんだよ。でも無理すると悠介が傷付くし、それだけは何があっても避けたい・・・かと言って諦めらんねーし・・・。俺、本当にどうしていいのか、もうわかんねーよ・・・」
半分泣き出しそうな顔で訴える。
健一に話しても仕方がないのは百も承知だけれど、本当にもう耐えられなかった。
生き地獄とは、まさにこの事である。
「うーん・・・なぁ、告白するってのは、選択肢に入ってねーのか?」
その問いに、竜巳はふるふると首を振った。
「何で」
「・・・だって、きっと絶対軽蔑される。あいつは俺の事友達だと思ってるし、それ以上でもそれ以下でもないと思ってる。それに、当たって砕けたら、もう元には戻れねーもん。そんな冒険・・・出来ねーよ」
「でもこのまま行ったらお前・・・」
「解ってるよ」
最後までは言わせなかった。