Commencement(5)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]
ぎくりとした。
咄嗟に何の反応も出来ずにその場に硬直する。
「竜巳?いるんだろ、入ってもいい?」
「・・・開いてるよ」
返事をしてしまった以上、無視するわけにもいかない。
かちゃ、とドアが開いて、絶対絶対、今この瞬間一番逢いたくなかった人間・秋本悠介が顔を覗かせた。
「いきなりごめん。寝てた?」
「・・・や、んな事、ない、けど・・・入れよ」
さりげなく、さっき放り投げたタオルを拾い上げ、椅子を勧める。
「・・・何か用?」
「用ってわけじゃないけど・・・ちょっと、話があるんだ」
「何?」
「ん・・・あのね、聞きたい事が、あるんだ」
「・・・・・・」
黙ったまま先を促す。
「お前、最近俺の事避けてるみたいだから・・・理由、訊きたいと思って・・・」
「・・・・・・」
「俺、何か気に障る事したかな?」
「・・・・・・」
「それとも、何か悩み事でもあるの?俺でよかったら何でも相談に乗る。何でも言って?友達じゃん。ここんとこ、お前ずっと元気ないし・・・何か、やなんだよ、竜巳が元気ないのって・・・」
散々悩んだ末の直談判なのだろう。
何やら泣きそうな顔で訴えている。
でも、竜巳だって、こういう答えを出す前に悩みまくったのだ。
こうする以外ない。
他に選択肢なんて存在しないのだ。
だから、何も言えずにただ黙ってうなだれた。
「・・・竜巳?」
そっと立ち上がった悠介が、ベッドに座っている竜巳の隣に腰を下ろした。
「なぁ?何でそんなに元気ないの?」
「・・・・・・」
「・・・俺が、邪魔?」
その言葉にはっとして顔を上げる。
目の前に、自分を心配している悠介の顔があった。
「俺、うるさい?もしそれが原因なら・・・」
「違うよっ」
「え?」
「違うよっ。お前が邪魔なわけ、ないだろ?ちょっとここんとこ・・・考え事が、あっただけ、だよ」
「・・・本当に?」
「ああ、本当」
悠介を無視していた間、辛かったのは自分だけじゃなかった。
自分と同じくらい、悠介も悩んでいたんだ。
自分が辛いだけならまだしも、悠介まで巻き込んでいたなんて思いもしなかった。
ずっと自分の事ばかり考えていたから。
でもこれ以上、悠介を巻き込むわけにはいかない。
再び決意した。
これからは、友達、に徹しよう。
「・・・ごめんな、悠介」
1ヶ月ぶりにまともに悠介を見ると、悠介はほっとしたような笑顔になった。
本当に久し振りに見るそれは、以前と全然変わらない、柔らかいものだった。