Commencement(3)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]



少し、距離を置いた方がいいのかもしれない。

悩みに悩んで得た答えがこれだった。
死ぬ思いで決意したその日から、竜巳は悠介を避け始めた。

遊びに誘われても、何やかやと理由をつけて断る。
学校で話しかけられても、急に用事を思い出してその場を離れる。

その度に悲しそうな顔をする悠介に、心の中で必死に謝り続けて1ヶ月が過ぎた。
その日も学校で悠介を避けまくり、日増しに大きくなる罪悪感を抱え、ぐったり疲れて帰宅した。


「・・・ただいまぁ・・・」
「あら、お帰りなさい」
「・・・母さん、俺今日夕飯いらない・・・」
「え?」
「何か疲れたからもう寝る・・・」


自室のある2階への階段を上がりかけた竜巳を、母親が呼び止めた。


「竜巳。ちょっと待ちなさい」
「んー?」


もう休みたいんだけど、という顔で振り返る。


「竜巳。あなた最近どうしてそんなに疲れてるの?ご飯もちっとも食べないし・・・成長期なんだから食べなきゃ駄目よ。身長伸びないわよ?」
「・・・わかってるけどさぁ・・・」
「それなら、ご飯くらいちゃんと食べなさい」
「・・・・・・わかったよ」


一瞬反抗しようとして、その気力もないのに気が付く。
仕方なく承知した。

部屋に入り、制服のままベッドに転がった。


「・・・疲れた・・・」


実際、心の底から疲弊していた。
好きな人を無視する事ほど、精神力を消耗する事はない。
つくづく実感していたが、止めるわけには行かないのだ。

じきに中3になる今では、色んな妄想が去来する。
実際には出来ないあんな事やこんな事を、夢で見てしまう事も多々あるのだ。
決して汚したくはない悠介なのに、自分の邪な想像を止められない。
だが同時に、そういう想像に悠介を使っている事への快感、というものも、厳然として存在する。
自己嫌悪と罪悪感と羞恥心とで押し潰されそうだ。
今この瞬間でさえ、悠介の事ばかり考えている・・・体が熱くなるような事を・・・。

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