Commencement(2)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]



「・・・み。竜巳、ってばっ」
「・・・え、えっ?なっ何?」
「・・・もう・・・何じゃないよ。今日、借りてたマンガ返したいから、俺んとこ寄ってって言ってんの。何ぼーっとしてんだよ」
「あ、ああごめん」


既に中学に入学している。
小学校以来の恋は、捨てずに温めて来た。
誰にも気付かれないように、そっと大事に育てて来た。


「別に謝ってくんなくてもいいけど・・・寝不足?」
「う、うんそう。テレビ観ちゃってさぁ」


ははは、と笑ってごまかす。


「駄目だよ。夜はちゃんと寝ないと。ぼうっとしてると怪我するよ?」


そう言った悠介の手が、竜巳の方に伸びてきた。
思わず後ずさった竜巳を、別段不審にも思わず、そのまま髪に触れる。


「ゆっ悠介・・・」
「ゴミ、ついてるよ」
「・・・へ?ゴミ?」
「うん、何か白いの。捨てて来る」


後ろにあるゴミ箱に歩いて行く悠介を見て、途端に脱力した。


(何だゴミか・・・あー・・・どきどきして損した・・・)


今、悠介の指が掠った感触が、まだ残っている。
その場所に、そっと手を当ててみた。


(このままだったらヤバいよなぁ・・・どうしよう・・・)


竜巳ももう子供ではない。
そっちの方の知識も、純粋な子供の頃よりも大分仕入れてあるのだ。
今は耐えられているけれど、いつかそういう事を悠介に強要しそうな自分が怖い。

それに、心配事がもう1つある。
悠介の人気だ。
物事をそつなくこなし、いつもにこにこしていて、その笑顔と同じような、柔らかい雰囲気を持つ悠介は、男子にも女子にも人気は高い。
今は、興味がないから、で済ませているみたいだが、これがもし、誰かからの告白を受けた、なんて事にでもなったら・・・!


「・・・う、わっ!」
「・・・」


ふと気が付くと、黙ったまま自分をじぃっと見つめている悠介の顔が目の前にあって、思わず悲鳴をあげてしまった。


「ななな何?!」
「んー、何って事もないけど。竜巳の百面相も、面白いなぁと思って」
「・・・百面相?」
「うん。さっきから、1人でぶつぶつ言いながら」
「え?!なっ何か言ってた?!」
「うん。口の中で。内容までは判んなかったけど」


それを聞いて、ひとまずほっとする。
だが、ここに至り、事態はよんどころない所まで来ている事を、改めて自覚したのであった。

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