Commencement(1)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]



----どきどきどき----。

自分の心臓の音が、やけに大きく頭に響く。
いつの頃からか、小学校1年の時に友達になった秋本悠介の姿を見かける度にこうなるようになった。


「・・・ちゃんっ」
「えっ?」


すぐそばで聞こえた声に、現実に引き戻された。
慌ててそちらに顔を向けると、当の悠介がにこにこと笑顔で自分を見つめている。
どきん、と心臓が跳ねた。


「・・・どうしたの?ぼーっとして」
「なっ何でもねーよ」
「そう?」
「そうだよ。で、何?」
「あ、たっちゃん、今日一緒に遊べる?」
「う、うん」


そのままこくこくこく、と続けて頷く。


「ほんと?よかった。んじゃ僕、家に帰ってから遊びに行くよ。何するか決めといて?」
「うん」


あとでね、と手を振って自分の席に戻る悠介を見送り、ほうっと息を吐いた。
顔があっつい・・・。


「竜巳ぃ。何顔赤くしてんだよ?」


友達に訊かれ、慌てて教室の後ろにある鏡に走る。
覗いてみると、確かに真っ赤な顔をしていた。
耳まで赤くなっている。


「風邪?」


近くにいた女の子に聞かれ、違うよ、と返事はしたけれど、じゃどうしたの、という問いには答えられなかった。
ただ悠介を見るとこうなる、という事しか分からない。
でも、何となく人には訊けなかった。
もう一度溜息をついて、授業開始のベルの中、席に戻った・・・。

その奇妙な感情が、悠介が好きだからだ、と気が付いたのは、小学校も3年目を過ぎた頃だった。
周りの女の子達が、早い子は、誰それが好きだとかかっこいいとか、そういう話題で盛り上がっているのを、聞くともなしに聞いた時、その、好きな人を見かけた時の反応が、自分のものとかなり一致する事を知った。


(・・・俺、悠介が好き、なんだぁ・・・)


例え目の前にいなくても、悠介の事を思い浮かべただけでほんわかするのも、ちょっと体が触れただけでどきどきするのも、悠介の笑顔を真っ直ぐ見られないのも、みんなみんな、悠介が好き、だからなんだ・・・。

初恋もまだだった竜巳にも、人よりちょっとだけ遅めの春が来たのだった。

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