アメ or ムチ(6)
[藤川哲也(ふじかわ・てつや)×高宮蛍(たかみや・けい)]



「・・・ぁん・・・っ、あ・・・あっ」


後ろから抱きすくめて貫く。
首筋からすぅっと舌をそよがせると、ふるふるっと体を震わせた。
両腕を、自分のすぐ後ろにいる哲也の首に回してそのままキスをねだった螢に応えてやりながら、ゆっくりと腰を使い始める。
1つ突いただけなのに、螢が息を止めた。


「・・・キツいか?」
「んっ・・・んん・・・」


さらっとした髪が揺れる。
抱きしめていた腕をゆっくりと下に滑らせ、既に数回達し濡れそぼっている螢自身を緩く掴んだ。
そのまま、あくまで優しく擦る。


「や、やぁんっ」


体をひねって逃れようとしたけれど、貫かれたままではままならなかった。
そして哲也も、逃がさないように、下で蠢かしている右手ではなく、左手でしっかりと抱き込んでしまっているのだ。


「だめ・・・て、つや・・・っ」
「感じてろ」


確実に螢を上り詰めさせて行く。
後ろに感じる熱さと、自分の限界に、螢は際限なく乱れて行った。
新たな汗が、螢の滑らかな肌を伝い落ちる。
体を揺らす度に、それはシーツを濡らした。


「ひ・・・ぁっ哲也・・・哲也、お願いっ・・・」
「・・・何?」
「もっ駄目っ、イカせ・・・」


入れられた後は散々焦らされている。
もう我慢出来ない。
いつもはすぐに、螢の感じる所を突くのに、今日は未だ殆ど刺激されていなかった。


「イキたいのか?」
「んっ、願い・・・は、あんっ!」


後ろから腰を固定し、螢の懇願に沿う。
もう少し焦らすつもりだったけれど、自分のモノを包んでいる内壁にキツく締められ、哲也の方も一気に限界になった。


「あっんっ、あんっあんっんんっ!」
「・・・!」


最後に思い切り挿し入れる。
息を呑んだ螢の中に、全て流し入れた。


「・・・熱い・・・」
「ん?」


自分の腕の中にいる螢の声が聞き取れずに聞き返す。


「熱い、って言ったんだ」
「熱い?具合でも悪いのか?」


慌てて額に手を当てる。
既にシャワーは済ませ、一応さっぱりした顔はしていた。


「ううん、違うよ。未だ中が熱いんだ」
「・・・中?」
「うん。だって・・・初めて、だったし・・・」


言ってから、ぼっと顔が赤くなった。
行為自体は、もちろん初めてではないけれど、後ろから、というのは経験がなかった。
いつもと、体に残る感覚が違う。


「何だ。未だし足りないのか?」
「なっ・・・違うよ!!」


慌てて、必要以上に強く否定する。
自分の言葉をまともに受け取ってどぎまぎする螢が可愛くて、ついからかいたくなるのだ。


「誰もそんな事言ってないじゃん!絶対違うからね!!」
「へぇ、そうなのか?でもこっちは、もしかしたら反応してるんじゃないのか?」
「いっ何し・・・!」


前に触られそうになって、慌てて哲也の体を押す。


「んー?」
「てっ哲也っ・・・ちょ・・・だっ、や、って・・・」


こんな雰囲気の中にいたらまずい。
半泣きになった螢に気付いて、哲也が笑顔になる。
どんな状況下でも、螢の涙にだけは弱い。


「冗談だよ。今日はもうしないって。・・・本当に泣き虫なんだから」
「・・・・・・泣いてないもん」


この口調。
どう見ても高校2年には見えないが、これでも、弓道の世界ではトップクラスに入るのだ・・・実際自分の目で確かめないと信じがたいけれど。

今でも、螢の試合は必ず見に行く。
部活動でも試合形式の練習が多いので、それも興味があるからという理由で、殆ど欠かさず見学に行く。
姿を見せると、螢が頬を染めて嬉しそうな顔になるのだが、一旦弓を手にすると外界の全てを遮断するらしく、少し前に見せた笑顔の欠片すら、その表情には残らない。
ただ、自分と的だけ。
その中に自分が存在しない事を、ちょっと残念に思ったりもするけれど、その、人を寄せ付けない雰囲気が高貴なものに思え、そういう空気を持てる螢に見とれてしまう。

逢った時と全く変わらない。
この、螢だけの雰囲気に惹かれたのだ。
これからも見ていたいと思わせる何かが、そこにはある。


「な、螢。ちょっと休んだら、外に出ような」
「え、どこ行くの?」
「『風車』。昼、あそこにしよう」
「えっ本当に?連れてってくれるのっ?」
「いやか?」
「ううんっやじゃないっ」


風車、というのは、螢お気に入りの和食亭だ。
佇まいのわりに値段が安く、量も多い。
ただ、少し遠いので、なかなか簡単には行けない。
車でも、少しかかるのだ。


「嬉しいなぁ、何食べよう・・・」


早くも食事の算段に入っている。
この笑顔が見たかったから、面倒な『風車』行きを提案したのである。
当然だ。
誰より愛しい人が幸せになれるのなら、そんなの何でもないではないか。


「・・・ね、哲也。デート、だよね?」


確かめるように、ちょっと首を傾げて問う螢に苦笑する。


「何心配してるんだよ。デートがてらの遠出のつもりなんだぞ、俺は」
「うん。へへ」


いつもと同じように頬を染め、哲也にぴとっと体をつけた。

昼前に車を出した・・・もちろん、助手席には螢を乗せて。
これから数時間の、ちょっとしたドライブが始まるのだ。
普段の日で、車や人通りも少ない道路を、螢と2人。
ちょっとした悪戯心からの自主休校だったけれど、幸せなものになりそうだった。




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ずっと以前の、初キリリク小説でした。
生徒・先生モノ、と頼まれて書いた記憶があります。
初めて年の差モノを書いたけど、難しいですねぇ…2002年3月9日上がり。