アメ or ムチ(4)
[藤川哲也(ふじかわ・てつや)×高宮蛍(たかみや・けい)]



それが、螢が中学3年の時だった。
あれから2年。
今、2人は恋人同士だ。
去年、教科担任だった哲也の告白を受け止めてくれたから。


「・・・好きなんだ」


2人きりの教員室で告げた。

話がある。
部活動が終わってから、教員室へ来るように。

その日の授業後、そう告げた哲也に、螢は何の不審も抱かずに素直に頷いた。


「螢・・・お前は、俺を、どう・・・思ってる・・・?」


既に校内は人はまばらで、教員室にも他には誰もいない。
それにも関わらず、声を落として告白をする。
初めて自分の気持ちを告げたのだ。
拒絶され、逃げられる可能性もないとは言えない。
名前で呼ぶのすら初めて。
これまで、他の生徒と同じように、苗字の呼び捨てを通して来たからだ。


「・・・螢?」
「・・・・・・僕・・・」
「遊びなんかじゃなくて、本気で、好きなんだ。あの日から、お前の事が頭から離れない」
「せん・・・」
「哲也、って呼んで欲しい」


真剣な眼差しで、自分の言葉に対する返事を待つ。
俯いたまま、小声の哲也よりももっと小さな声で、はい、と返事をした螢を、初めて自分の腕で抱きしめた。


「せっせせせせんせっ」
「・・・哲也」


受け入れさせたついでに、自分に対する呼び方も訂正させなければいけない。
だが、真っ赤な顔で、哲也の腕の中で硬直している螢には、そんな事に構っている余裕などない。


「せっせんせっ人が・・・っ」
「哲也って呼んでくれたら離してやるよ」
「でででもっ」
「じゃ、このままいる」


事態の深刻さに気が付いて、やっと逃れ始めようとしている螢を逃がさないように腕に力をこめる。


「〜〜〜〜〜哲也っ」
「・・・」


自分で言った手前、渋々体を離した直後、それにほっとした顔をした螢の腰に手を回し再び強く抱き寄せた。
いきなりの強い力にびっくりしている螢の唇を、そのまま塞ぐ。
最初から深い。
閉じた口を割り、螢の舌を誘い出す。
止められなかった。
重ねた瞬間に抵抗した螢だったけれど、それを押さえ込み尚も繰り返しキスをする。


「ふ、っ・・・んっん・・・」
「・・・好きだよ、螢・・・」


抵抗が止み、自分に体を預けて来た螢に優しく囁く。
キスに酔った目で空ろに自分を見つめ、頷いた螢が、誰より愛しかった。

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