Although・・・(8)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]
荷物を片手に悠介の家に向かう。
ブロックの角地に建っている悠介の家へ続く道を歩きながら、ふと、まだ片想いだった頃の自分を思い出した。
殆ど幼馴染といってもいいくらいの付き合いだ。
好きだと自覚したのは、あれは小学校2年か3年の頃だったろうか。
初恋が未だだった竜巳だが、悠介を見るとどきどきして、席替えの度に悠介の近くになるようにと祈り、遊んでいる時に手や体が触れると顔が赤くなった。
そしてある時気が付いた。
悠介が好きなんだ、と。
それから高校1年の夏休み直前に告白を決行するまでの、軽蔑される事と、友達に徹する事を天秤にかけた竜巳の努力は、涙ぐましいものだった。
耐え切れず発作的に電話で告白し、いいよ、と言われて思わず泣いた、あの時の気持ちは今でも忘れていない。
悠介が大事だという想いも、初恋を感じたあの日から、変わってはいないのだ。
ここしばらく、ちょっとわがままが過ぎた、と今では反省している。
何を言っても、何を要求しても受け止めてくれる雄介が相手だから。
悠介以外には言えない事も、悠介にしか出来ない事もあるのに、大事にするのを忘れていた。
もう逢わない、と言われた時、目の前が真っ暗になった。
殴られた時ですら感じなかったくらい。
そこまで追い詰めた自分が腹立たしい・・・。
悠介の家の角を曲がり、門を開けようとした時、玄関に誰かがうずくまっているのが見えた。
「なっ・・・悠介!何してんだよっこんなとこで・・・風邪引くだろ、湯上りなんだからっ」
シルエットで、それが誰か解った途端、慌てて駆け寄った。
抱くようにして立たせた悠介の体は、すっかり冷えてしまっている。
確かに乾かした髪さえも、冷たく露に濡れてしまっているし、手などは、まるで氷でも掴んでいたかのようだ。
「ほら、入れよ」
勝手知ったる恋人の家。
ソファにすわらせ、体を温めるために熱いお茶を手渡す。
この時季、夜ともなるとかなり気温は下がる。
なのに、湯上りの体のまま、しかもパジャマでずっと外にいたらしい悠介の体は、小さく震えていた。
礼を言って、受け取ったそれをひと口飲む。
「何であんなとこにいたんだよ?」
「・・・・・・本当に来るかな、と思って・・・」
その答えに脱力。
「お前な・・・来るって言っただろ?スペアだって借りたんだから・・・」
「ん・・・ごめん」
「いいけど・・・少しはあったまった?」
「うん、だいぶ・・・よかった来てくれて。ありがと竜巳」
お茶と竜巳効果か、頬を染めてにこにこしている悠介は、今日の不機嫌を取り戻そうとするかのようだ。
もう一度シャワーを使うか、と訊いた竜巳に、悠介は妙な理屈を述べた。
「ううん、いい。竜巳がいるから、きっとあったかいよ」
よく分からないまま無理矢理納得して、竜巳は悠介と一緒に部屋に戻り、そのまま抱き合って眠りに落ちた。