Although・・・(5)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]



1人で戻って来た竜巳に、健一が話し掛ける。
授業中なので、勿論ひそひそ声で。


「‥なぁ。見付からなかったのかよ?」
「いたよ、屋上に」
「じゃ何で一緒じゃないんだ?」
「・・・もう、駄目かも知んない」


呟いて、慌てて目を擦る。


「竜巳?」
「俺・・・完全に嫌われた。もうきっと、俺に笑いかけてくれない」
「何?」
「・・・あーあ‥」


いつもの強引さも元気もすっかりなくして肩を落としている。それを健一は知っている。



今ではすっかり竜巳の方が上にいるような雰囲気の2人なのだが、実は、ずっとずっと想いを寄せていたのは竜巳の方なのだ。
小学校からの友達で、それを不思議にも思っていなかった悠介に対し、竜巳はその頃から悠介1人をずっと想い続けて来た。
高校1年の夏休み直前、思い詰めた挙げ句に電話で告白を決行した。
それだけに、悠介を好きだ、という気持ちは、もしこの先、他の誰かが悠介を好き、になったとしても、気持ちの深さだけは誰にも負けない筈だった。
なのに、ここに来て関係が上手く行かなくなって来たらしい。



「・・・先生。俺ちょっと具合が悪くて‥少し抜けてもいいですか?」


一応の許可を得て、健一は屋上に上がった。


そこには、竜巳の行った通り悠介がいた。
いたのはいいけれど、まだ泣き止んでおらず、立てた膝に顔を埋めて肩を震わせていた。


「秋本?」


呼びかけに、ぴくん、と反応する。


「何で泣いてんだ?落ち着いた、って言ってなかったっけ?」
「・・・・・・」
「秋本、あのな・・・」
「・・・俺・・・何、やってんだろ・・・」
「え?」
「自分で、何、やってんのか・・・も、解んない・・・」


しゃくり上げながらそう言った悠介のすぐ側に座り込む。


「‥なぁ。ちゃんと冷静に竜巳と話してみれば?」
「出来ない、んだよ・・・っ」
「解るけど‥でも、竜巳の事、好きって言ってたじゃん?」
「・・・・・・」
「あのな、多分お前には言ってないだろうから言うけど。竜巳の片想い歴って、10年なんだぜ」
「‥10‥年・・・?」


そこで初めて上げた、涙でぐちゃぐちゃの顔をしている悠介に頷いて見せる。


「そう、10年。そんなに長い間、お前1人を、一途に好き、だったんだ」


ゆっくりと言葉を切りながら話し掛ける。
悠介は黙って聞いた。


「俺な、お前に告白する前に、竜巳から話聞いてたから。そういうの全部知ってるんだ。ずっとずっと好きで、でも言えなかったんだよ。玉砕したら、もう元には戻れないから、って・・・でも、一緒にいるのも辛いから、お前を無視したりしてたんだ」
「‥そ、だったんだ・・・」
「うん。話聞いてたって言っても、あんまり元気がないからどうしたのかと思って聞いてみたらすらすら喋り出したんだよ。よっぽど辛かったらしくて、多分誰かに聞いてもらいたかったんだと思う。なぁ、あいつが何したのか俺は知らないけど、強引な事すんのも、我がまま言うのも、お前に対してしか出来ないんだよ。他の誰かにじゃないんだ。秋本悠介にだけ、なんだよ」
「・・・・・・」
「あいつもな、今、泣いてんだ」
「え?」
「あいつと付き合うのも大変だと思うけどさ、お前って竜巳に取ったら本当に特別な人間なんだよ。それだけでも解ってやってよ」
「‥俺、だって・・・」
「解ってる。だからさ、あいつと話、しろよ。好き同士なんだから、きっと上手く行くって。深く考えんなよ。な?」
「・・・・・・」
「教室。戻ろうぜ。後少しで今日も終わりだし」


行こう?と促すと、少しの間の後で小さく頷いた。
そのまま健一に続いて教室に戻る。
遅れました、とだけ告げ、自分の席に着いた。
竜巳の方は見ない。

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