Although・・・(4)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]
しばらくはどちらも口を利かなかったけれど、先に沈黙を破ったのは健一だった。
「・・・竜巳。お前昨日、秋本に何か無理強いしただろう」
「無理強い?」
「お前な、本当に秋本の事、好きなのか?」
「なっ何でそんな事、お前に言われねーといけねーんだよっ」
「秋本が信じられなくなってるからさ」
「え?」
「本当にお前が自分を好きかどうか。昨日、それ考えてて眠れなかった、って言ってたぞ」
「・・・好きだよ。決まってんじゃん」
「じゃ、何で秋本が嫌だって言ってんのを無理矢理推し進めてんだよ。そんなだから信じられなくなったんだ。ちゃんと話、した方がいいぞ?」
「・・・・・・」
その言葉に何も言えない。
「・・・行ってやれよ。きっと待ってる」
健一が竜巳の背を押す。
逆らわずに、悠介が消えたドアの方に走って行った。
悠介を捜し回るが、教室にはいなかった。
チャイムが鳴り、授業が始まっても悠介は教室に姿を現す事はなかった。
捜しに行く、という名目で教室を抜け出し校舎内中を捜し回っても、しかし、悠介の姿は何処にもなかった。
「・・・まさか帰ったって事、ないよな・・・」
靴を確認したいけれど、1人1人鍵を掛けるスタイルの下駄箱で、それは出来ない。
「何処行ったんだよ、あいつ‥」
途方に暮れて頭上を仰ぐ。
苛立たしげに髪を掻き上げて舌打ちを漏らした。
昨日、昼少し前に待ち合わせをした。
逢って、昼御飯を済ませた後で悠介の提案でカラオケに繰り出した。
2人して散々歌いまくってから、2人きりになりたいという、今度は竜巳の主張で、近くの森林公園に出掛けたのだ。
人がいない場所を探し出し、ようやく見付けた小さな林の一角に、2人で落ち着いた。
しばらくは普通に雑談をしていたのだが、同時に色々ちょっかいを出している内に我慢が出来なくなり、そのままエッチになだれ込んだ。
「あぁもう・・・」
そんなに嫌だとは思っていなかったのだ。
ちゃんと感じてたし、随分と気持ちよさそうな顔で喘いでいたから。
急に腹立たしくなった。
少し頭を冷やそうと、人目につかない屋上に足を向ける。
ドアを開けると、何とそこにはずっと捜しまわっていた悠介が、日だまりで寝転んでいた。
「悠介」
呼びかけても何の反応もない。
足音を忍ばせて近付き、すぐ隣に腰を下ろした。
顔を覗き込んでも、全く気が付く様子はない。
「そういや、寝てないって言ってたっけ・・・」
さっき聞いた健一の言葉を思い出す。初冬の日だまりに、いつしか眠りに誘われたものらしい。時折吹いて来る小さな風に弄ばれている悠介の、柔らかな髪を優しく梳く。
「んー・・・」
僅かに身じろいだ悠介だったが、やはりそのまま眠っている。
いつもの穏やかな寝顔に引き込まれた。「‥悠介。好き、だよ・・・?」
耳元で囁いて、そっと想い人の唇を塞ぐ。
これには、さすがに熟睡中の悠介も気が付いた。
「‥ん・・・っな、んだよっ!」
一気に目が醒めた。
唇を、手の甲で拭う。
「何、やったんだよ、お前っ!!」
「ごめん、悠介」
「俺が何に怒ってんのかも解ってねーくせに謝んなっ!!」
さっきまでの穏やかな空気は、何処かに行ってしまった。
立ち上がろうとする悠介をそうさせず、ぐい、と腕を引く。
バランスを崩しよろけたところと、すかさず抱きとめた。
「離せよ!!」
「いやだ」
「竜巳!!」
闇雲に暴れる悠介をきつく抱く。
「本当にごめん、好きだよ、悠介。愛してる。ごめんな、悪かったよ」
何度も繰り返し同じ事を囁く内に、悠介の抵抗が止んで来た。
「‥だから、もう逢わない、なんて言わないで?俺・・本当にお前が好き、なんだ。お前が俺の側からいなくなるなんて考えも出来ない。頼むから‥」
「・・・・・・」
「頼む、悠介」
「・・・・・・信じない」
「ゆ‥」
「離せよ」
もう用はない、とばかりに吐き捨てる悠介にカッとなる。
乱暴にその場に押し倒した。
「何で解ってくれないんだよ?好きだ、って言ってんだろ?俺には、お前だけなんだよっ」
「やだっ!離‥!」
「悠・・・」
両手を右手でコンクリに押し付けて、そらせようとする顔を左手で固定し、強引に唇を奪う。
「ん・・っん!」
抵抗も出来ずに受け入れている自分自身が悔しくて、悠介の目から涙が零れた。
それに気が付いた竜巳がはっとした顔をするのも直視せず、押さえつけていた手の力が弱まるのと同時に顔を逸らせた。
「悠、介・・・」
「‥っ・・・」
やっと、落ち着いたのに。
バツが悪そうな顔をして、竜巳がゆっくりと悠介を起こす。
「‥ごめん、俺・・・」
「・・・・・・」
一生懸命に泣くのを堪えようと歯を食いしばっている悠介に頭を下げる。
だが、一向に悠介の涙は止まる気配がない。
抱きしめようとした竜巳の腕は、悠介に払いのけられた。
「・・・俺、戻る。落ち着いたら教室帰って来いよ。先生に言っとくから」
「・・・・・・」
「‥じゃ、な」
立ち上がり、ドアの方に歩き出す竜巳を止めようともせずに、悠介はその場で声を殺して泣いた。