Although・・・(3)
[瀬川竜巳(せがわ・たつみ)×秋本悠介(あきもと・ゆうすけ)]



授業の合間の休み時間にも、竜巳は悠介に頭を下げ続けた。
なのに、悠介の怒りは少しも氷解する気配がない。
見かねた健一が悠介を屋上に呼び出した。


「・・・話って何?」
「竜巳の事だよ」


予想はしていた悠介の目付きが少し変わる。
だが健一は関係ない、と気が付いて光を弱めた。


「秋本。何をそんなに怒ってんだよ?あいつ、へこみまくって鬱陶しいんだけど」
「じゃ放っときゃいいだろ。片山には関係ないんだから」
「そういう訳にも行かないだろ。俺の席、あいつの隣で、ずっとそういうの見ざるを得ないんだから。あいつ、何かしたの?」
「・・・・・・」
「昨日、デートだったんだろ?途中迄は機嫌、よかったって言うじゃんか」
「・・・昨日、ね・・・」


ふん、という感じで横を向いた悠介に、尚も言葉を続ける。


「何か、されたん?」
「・・・嫌だ、って言ったんだ。なのに、全っ然人の言う事聞かなくて。いっつもこうだもん。
俺の事なんて、きっとどうでもいいんだよ。も、疲れちゃった。本当に好きなのかどうかも、もう解んなくなって来ちゃったし・・・」


座り込んで、ふぅ、と重い溜め息をついた悠介の隣に、健一も腰を下ろした。


「・・・ねぇ。俺の事、本当に好きだったら、普通、本当に嫌がってる事はやんないよね?
でも、あの馬鹿は違うんだ。俺が本当に嫌だ、って言ってても、勝手に解釈してさ、無理矢理事を進めるんだ」
「・・・秋本?」
「・・・・・・も、あいつ・・・本当に、俺の事・・・好き、なのかなぁ・・・?」


急に声を詰まらせた悠介に驚いて顔を覗き込むと、俯いたまま喋っていた悠介の目から続けざまに涙が零れているのが見えた。


「おい、秋・・・」
「俺・・・っ昨日、全然・・・眠れなく、って・・・なのに、あの馬鹿・・・っ」


両手を握り締めて、一生懸命に泣くのを堪えようとしているのに、効果はないようだった。
何となく痛くなって、悠介をそっと抱き寄せる。
一瞬硬直した体が、子供をあやすようにぽんぽん、と背を叩くとふっと力が抜けた。


「もう、止めようと思った・・・止めれば、こんな事もないし・・・関係なくなるから・・・でも‥でも俺・・・」
「竜巳の事、好き、なんだろう?」
「・・・っく・・・」
「泣いてていいから。付き合うし、落ち着く迄こうしててやるよ」


それに安心したのか、やっと手を握り締めるのを止め、本格的に泣きに入った。

次の授業を休み、悠介が完全に落ち着く迄そうしていた。


「・・・ごめん片山。付き合わせちゃって・・・」


目を真っ赤にして謝る悠介に、健一は笑顔を向けた。


「いいよ。落ち着いた?」
「うん。何かすっきりした気がする」


本日初の笑みを見せた悠介に安堵する。
いつもは性格と同じような、柔らかい雰囲気でいる悠介なのに、今日は、登校してからずっと硬い表情を崩さなかったのだ。
お陰で他のクラスメイト達迄が何となくぴりぴりしていた。

「・・・皆にも悪い事したな。昨日からずっと気分悪かったから‥後で謝らなきゃ」


そう言って小さな吐息をついた時、鉄の重たいドアが開いた音がした。


「悠介っ」


今さっき、小さいながらも笑みを見せた悠介だったのに、その声を聞いた途端、顔が強張った。


「何でこんなとこで健一と2人っきりでいるんだよっ。授業も出ねーでっ」
「・・・・・・」
「健一!何で悠介が泣いた後、って顔してんだっ。お前、こいつに何かしたんじゃねーだろうな?!」
「‥そんなのお前に関係ないだろ」
「・・・悠?」
「竜巳は、俺の事なんて別に好きでも何でもないんだ」
「秋本‥」
「片山の方がずっと優しい」
「悠介、お前何言って‥」
「・・・しばらく、逢うの止める」
「おい秋本‥」


突然何言い出すんだ、と健一が慌てて止めたが、悠介の硬い表情は変わらなかった。
呆然としている竜巳と、困り切った顔の健一を残し、悠介は校舎内に入ってしまった。

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