〜泉の精2〜




魔獣が出るという水源である森の泉の調査にマーティは来ていた。
―――ガサッ―――
「何者です?」
念のため剣を構え何時でも魔法を発動できるよう印を組む。
気配は一つよほどの魔獣でなければ遅れはとらないだろう。

・・・・・・・・・・・
「動きませんね。動物ではない。魔獣の類でもなさそうですね。」
・・・・・・・・・・・

「いい加減出てきて下さい、殿下。」
剣を鞘に納めながら木の陰に隠れる者に問いかける。
「よく気付いたわね。腕上がった?」

バツが悪そうに一人の女性が出てくる。
「・・・何度も同じ事があれば予測は付きますよ。また城を抜け出しましたね?」と問いかける。
ミューズ「えっと、その、あれよ・・・そう、マーティのお弁当を届けに外出を・・・」
マーティ「まったく・・・僕も一緒にディレン将軍にお説教されるんですよ。」
ミューズ「まぁ、旅は道連れ世は情けとも言いますわ。
細かいことを気にしていては大物にはなれないわよ。
それにお弁当は本当に持ってきましたのよ。」
マーティは言葉の意味が間違っていると言う突っ込みすら入れる気にはならなかった。

マーティ「・・・(溜息)、まったく。所でそのお弁当は殿下が?」
ミューズ「エッ、その、宿の食堂のマスターに・・・」
マーティ「では安心ですね。」
ミューズ「ちょっと、それどういう意味かしら?」
マーティ「い、いえ、別に・・・(汗)」
ミューズ「まぁ、いいわ。所で調査の結果は?」
マーティ「泉の水が魔獣の障気に汚されていませんので水源として今まで同様に使っても問題はありません。
魔獣も通りすがりか何かでしょう。姿も気配もありません。
念のため一週間ばかりギルドに見張りのための冒険者の手配をしておけば十分でしょう。」
ミューズ「そう。では帰り次第ギルドへの手続きをお願いします。」
マーティ「わかりました。それでは殿下、街へ戻りましょう。」
ミューズ「ちょっと、お待ちなさい。」
マーティ「何か?」
殿下の危機感ある呼び声にとりあえず辺りに注意を配りながら振り返る。

ミューズ「折角ですのでお弁当を食べてから帰りましょう♪」
マーティ「は、はぁ。」
ついとぼけた返事を返してしまう。
そういうわけでランチタイム♪

マーティ「さすがマスターの作ったお弁当美味しいですね。」
ミューズ「ほんと、美味しい。自然の中で食事するのっていいわね。」
まぁ、毎日城の中では退屈なのだろうと思いながら水筒に手を伸ばす。
マーティ「あれ?」
中身が空だった。

ミューズ「ごめんなさい。全部飲んでしまったわ。汲んでくるわ。」
そう言いマーティが持つ水筒を奪うと泉に近づいていった。
マーティ「ちょ、ちょっと殿下いいですよ。」
ミューズ「いちいち気にしない。」
マーティ「透明度が高いから見た目より深いんです。それに周囲の岩は滑りや・・・」
言葉の途中で「キャッ!」と短い悲鳴。バシャンという水音と飛沫が上がる。

「で、殿下」あわてて泉に駆け寄る。
湧水だし冷たいだろうな、心臓に良くないよ、
呼吸と心停止していたら心臓マッサージに人工呼吸・・・こ、心の準備がなどと
冷静なのかパニック状態なのかわからない思考のまま泉に駆け寄り飛び込もうとした瞬間・・・

ブクブクブク
ザババババー
と水面が泡立ち一人の水の精霊が現れた。

精霊「若者よ汝が落としたのがこの姫か?」
そう言うと精霊の隣にとても優しげな表情のミューズが現れにっこりマーティに微笑みかける。
ついマーティの頬が朱に染まる。が気を持ち直し、
マーティ「いえ、そんな優しげで、お淑やかそうでないです。
志は高いけど我侭で、じゃじゃ馬で、腕に自信ありだからってすぐ戦闘の最前線に行こうとする、
非常に世話の焼ける王女殿下です。」
精霊「あなたは正直者ですね。褒美に両方差し上げます。それでは」
そう言い残すと精霊は殿下と姫二人を残し泉の底に消えていった。

ミルディーヌ姫「マーティ様、助けていただいてありがとうございます。」
ミューズ「マーティ、あなたがどんな目で私を見ているかとても非常に良くわかりましたわ。覚悟なさい。」
そう言うと鞭を構える。

マーティ「あぅ、その、なんて言うか、えっと、その正直に言わないと殿下は助からなかったわけで・・・
そ、そんなことよりもずぶ濡れのままでは風邪を引いてしまいますよ・・・」
ミューズ「ほほぅ、正直ね・・・フッ、それではお言葉に甘えて暖まりましょうか。」
指先に炎の力が収束し精霊の実体を持ち始める。
更なる墓穴を掘った事を気付かされるマーティ。その時・・・

ミルディーヌ姫「おやめなさい。彼は私達を助けてくれた恩人なのですよ。そのような無礼は許されません。」
と言いマーティとミューズとの間に立ちはだかる。
ミューズ「マーティなら良いのよ。魔法耐性があるから。
だ・か・ら・そこをお退きなさい。」
さすがに同じ顔の人間を攻撃する気にはならないらしい。
ミルディーヌ姫「いえ、退きません。」
そのお淑やかな物腰からは想像できない凛とした態度で対峙する。
ミューズ「お退きなさい。」
ミルディーヌ姫「退きません。」
ミューズ「お退きなさい。」
ミルディーヌ姫「退きません。」
マーティ「あのー、そろそろ帰りません?その件に関しては帰ってからということで。」
「あなたは黙ってなさい!」×2
マーティ「は、はい。」
マーティは二人の性格が同一になった錯覚を覚えた。
言い争いは日が暮れる前まで続いたのだった。マーティの苦労はまだまだ続くだろう・・・

教訓:正直な答えが良い結果をもたらすとは限らない




被害者はマーティですね・・。
ダブルミューズ・・・想像するだに恐ろしい(爆死)。
若い身空でえらい苦労を背負い込んでしまったマーティに幸あれ・・・





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