―二人?の親友―

王都フィルディンからチブリ村へ続く静かな街道を俺は、 親友であるマイルと歩いていた。

「確か、この辺りだって言ってたな?」

「うん、気を引き締めて行かないとね」

フィルディンまでおつかいを頼まれた俺とマイルは、ついでにちょっとばかりのロゼを稼ぐため、冒険者ギルドに顔を出した。
そしてマイスターから魔獣大量発生の話を聞いて、受けることになった。
被害報告は今の所はないらしいが、早く魔獣を退治して町の人達を安心させてやらないとな。

そしてフィルディンを出発してから数百ミロ。お、少し先で魔獣がうようよしてるぜ。

「あれだな、大量発生したってのは」

「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・5匹ってとこだね。大量発生と呼ぶにはちょっと少ないんじゃないかな?」

「じゃあ、あいつらじゃないのか?」

と、話をしているうちに魔獣も俺達に気づいたのか、一斉にこっちを睨んできた。
そして一つ間を置いてにじりよってきた。

「・・・話は後だな、行くぞマイル!」

「待って!後ろからも魔獣が・・・」

後ろを振り返るとそこには前方にいる魔獣と同じ魔獣が数匹ほどいた。
前後の数を合わせれば10匹はいるだろう。

「・・・囲まれたか。だが、これだけの数なら十分、大量発生と言えるぜ」

前方、後方には魔獣。左側には壁。そして右側には小さな湖。

追い詰められた俺達は、湖の方へと一歩一歩後ずさる。そこへ魔獣も集まってくる。
後がなくなったが、全員魔法の射程範囲に入ったな。一掃してやるぜ!

「・・・・・・・・・・・エアリアル・ラブリス!!」

周囲を巻き込む竜巻を発生させ、範囲内の敵を上空に飛ばす黒魔法。
見事に全員を巻き込めた竜巻を見上げる俺と、その後ろで同じく見上げているマイル。

と、そんな時、がらっという音と同時に相棒の叫び声が聞こえた。

「え?うわぁっ!」

どっぼーん!!

「マイルッ!?」

魔法を使い終わり、魔獣を全滅させた俺が後ろを振り返ると、そこにマイルの姿はなかった。
そういえば水に落ちる音がしたな・・・。

淵から湖を覗き込んでもう一度名前を呼ぶ。

「マイル!大丈夫か!?」

・・・・・・。

しばらく待ってみたが浮かんでくる様子がない。
何かあったのか?・・・くそっ、今助けるからな!

そして俺も湖に飛び込もうとしたその時。突然まばゆい光が湖から発せられた。

「・・・うわっ、な、なんだ?」

やっと光がおさまったかと思うと、湖には長髪の女が浮かんでいた。
その女は俺と目があうやいなや質問を投げかけてきた。

「あなたが落としたのはこの金髪のマイルですか?
それともこちらの銀髪のマイルですか?」

見ると、女の両側には金髪と銀髪、二人のマイルがいた。

ん・・・?金髪?銀髪?・・・二人!?何だ、このおかしな光景は・・・幻か?

目をこすって、再び湖の方を見る。

・・・。やっぱりマイルが二人いる。もちろん、あの女も・・・。
幻じゃないのなら・・・そうか!これは夢だ、夢!同じ人間が二人もいてたまるか!

「さあ、どちらですか?」

どっちって、そりゃぁ・・・。

「そっちのマイル」

俺は金髪のマイルを指差して答えた。

「正直な方ですね。そんなあなたには両方のマイルを差し上げましょう」

は?両方って・・・・・・あれ?だんだん頭が・・・ぼ〜・・・っと・・・・。





「・・・ん」

まだ重い瞼をゆっくり開けると、よく見慣れた天井が目に入ってきた。
そして布団の感触、窓から差し込んでくる眩しい太陽の光。朝か・・・。

ん・・・何かあったような・・・何だったかな。
・・・・・・。ダメだ、思い出せねえ。まあ、いい。
それより、ルティスのナイフが飛んでこないうちにさっさと起きるか。

起き上がって台所へ向かうと、いつものようにルティスが朝食の準備をしていた。

「・・・おはよう」

「アヴィン!よかった、やっと目を覚ましたのね・・・
お腹すいたでしょ?今、朝ご飯の支度してるからもうちょっと待っててね」

よかった?やっと目を覚ました?って・・・どういうことだ?・・・・・・。
まあ、いいか。飯が出来るまでもう少しかかるみたいだし、井戸で水を汲んでくるか。

ばしゃばしゃ・・・。

汲み上げた水で顔を洗う。う〜・・・水が冷てぇ・・・。
さて、そろそろ飯は出来たかな。

持ってきたタオルで顔を拭いていると、すぐ後ろで呼ばれた声がした。
・・・マイルの声だ。

「マイル、おは・・・・・・!!!」

振り返った俺はマイルを見て絶句した。理由は・・・。

「おはよう。気分はどうだい?」

「お前・・・その髪の色は・・・」

そう、髪の色があの目立つ金髪ではないということ。
今、俺の目の前にいるマイルの髪はあの時と・・・「生命の書」の力で生き返った時と同じ銀色。
口調と雰囲気はいつもと変わらないが、何故か違う髪。

「髪?元から銀色だけど?」

「・・・な、何冗談言ってんだよ。あんまり笑えないぜ?」

「・・・その様子だと覚えてないみたいだね。
まあ、順を追って説明するからさ、ちょっと・・・ん?いいところに帰ってきてくれたみたいだね」

・・・ドダダダダダダッッッ!!!

何かが・・・いや、誰かがものすごい勢いでこっちに向かってくる。あれは・・・。

「アヴィン!!!」

「!!!」

マイル・・・しかも金髪の・・・。けど、俺の目の前には銀髪のマイルもいる。

「マイルが・・・二人・・・?」

思わず口に出してしまったが、本当にどうなってんだ!?

「さて、メンバーがそろったところで今までのことを話さないとね」

同じ人物が二人いるという奇妙な光景の中で、銀髪のマイルは話し始めた。

「フィルディンで魔獣退治の依頼を受けたことは覚えてるかな?」

「・・・そういえばそんな依頼も受けたな。それと何の関係があるんだよ?」

「はいはい、焦らないで。
それで、魔獣を一掃したまではよかったんだけど、その直後に金髪の「僕」が湖に落ちちゃったんだよね」

俺は無言で金髪マイルの方を見た。視線に気付くと、肯定の頷きを見せた。

「そしたら湖の精霊が『あなたが落としたのはこの金髪のマイルですか?それともこちらの銀髪のマイルですか?』って君に質問したんだ。
君はその問いに正直に答えた」

湖の精霊・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「あ〜〜〜っ!!!そうか、思い出した!髪の長い女がそんなこと言ってたぞ!」

「思い出してくれてよかったよ。実はその女性があの湖の精霊なんだよ」

な、なんだって・・・?湖に精霊なんていたのかよ。

「話を続けるよ。精霊の問いに正直に答えた人には両方ともあげることになっていてね。
で、僕が出てきたわけ」

「じゃあ、お前は精霊の力によって生み出されたもう一人の・・・」

「そう、もう一人の「マイル」だよ」

ばかばかしい話だが、これが嘘だとマイルが二人いる理由がつかない。
まだ夢を見ているのかもしれないと思ったが、顔を洗った時の冷たい水の感触が、夢じゃないことを証明している。

頭が痛てぇ・・・。

「ついでに言うと、君をここまで運んだのは僕だよ。
テレポートを使えばすぐなんだからね」

「運んだ?俺、気絶しちまったのか?」

テレポート・・・俺は使えないが、あれは確か黒魔法に分類されるはず。
こいつ、黒魔法が使えるのか。そんな所まであの時のマイルと同じとは・・・。

「うん。フィルディンの宿屋へ連れて行ってもよかったんだけど、
どうせなら君の家の方がいいかなと思って。そっちの方が安心するだろ?」

「まぁ・・・」

「で、僕を置いて行ったのは、どうしてなのかな?」

それまで黙っていた金髪マイルがやっと口を開いた。
が、まだ酸素が足りないといった感じだ。
そういえばものすごい勢いでここに来たが、慌てて駆け込んできたのは置いて行かれたからだったのか。

「どうしてだろうね?」

金髪マイルと銀髪マイルの視線がぶつかった。なんだか怖い・・・。

「まあ、そういうこと。さて、改めてこれからよろしくね、アヴィン」

「ちょっと、よろしくってどういうこと?」

俺が真っ先に聞こうとしたセリフを取るなよ・・・。
いや、それよりも、既に口調がいつものマイルじゃない。
そりゃあ、自分と同じ人間が目の前にいたら混乱するのもわかるがな。

「そのまんまだよ。僕、ここに住んでるんだし」

は?

「住んでる?ここに?見晴らし小屋に・・・?」

「うん、ルティスとアイメルにはもう全部話したよ。
そしたらアイメルが、ここに住まないかって言ってくれてさ、だからお言葉に甘えさせてもらってるんだ」

「「な、なんだってぇ〜〜〜!?!?!?」」

俺と金髪マイルは同時に声をあげた。

いつの間にそんなことになったんだ?・・・そういえばさっき、ルティスが「やっと目を覚ましたのね」とか言ってたな。

「・・・俺、どのくらい寝てたんだ?」

「そうだね、丸二日ってとこかな。よっぽど疲れてたんだね。
・・・あ、いい匂いがしてきた。
さあ、いつまでも細かいことを気にしてないで、早く朝ご飯を食べに行こうよ」

「「細かくな〜〜〜い!!!」」

これからもう一人のマイルとも生活していくことになるのか。
どうなっちまうんだ、この先・・・。


END





魔法はまわりを確かめてから使いましょう(爆)。
ものすごい勢いで走ってくるマイル・・・なんだかかわいいです。
しかし、この不条理(?)に動じない女性陣。たくましい・・・(爆死)
ほんとにこの先どうなるのでしょうか。非常に楽しみです。




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