泉の精ぱーと14


ガガーブ3地方の情報収集で寝不足が続き、
半分意識を手放しながら森の中を歩いていたミッシェル。
うっかり自分のローブを踏んづけてしまった。
「おおっとっとっと・・・」

よろけるミッシェル。
連日の寝不足のおかげで足に踏ん張りが利かず、泉に落ちてしまった。

ざざざざ〜〜〜

「あなたが落としたのは・・・あら?」
辺りを見まわすが、誰もいなかった。

泉の精は泉に、いや、正確には泉の中のミッシェルに呼びかけた。
「あの・・・もしかしてひとりで歩いてて落ちたんですか?」
ミッシェルは苦笑しながら答えた。
「恥ずかしながら・・・何かまずかったですか?」

「いえ、まずいということはないんですが・・・
恒例の質問はどなたにしたものかと」
「わたしでいいんじゃないですか?落としたのは私自身ですし」
泉の精はしばし考え込んだ。

「そうですね。ではいつものように・・・」

「あなたが落としたのはこの金のミッシェルさんですか?」

「いえ、私が落としたのはここにいる私自身です」

「正直な方ですね。
正直の御褒美に金のミッシェルさんと銀のミッシェルさんを・・」

さし上げましょうと言いかけた泉の精の言葉をミッシェルがさえぎった。
「ちょっと待ってください」

「落としたのはこの私自身で、金色や銀色の私も私なのですから、
私が私でいるか否か決定するのもほかの誰でもなくこの私自身なのであって、
それは私が私でいたいかどうかで決まることと思いますし
せめて選択権くらいは頂きたいのですが」

泉の精の頭を頭痛が襲った。

「ややこしいことをおっしゃいますわね・・・
では、どんなあなたが御望みなのです?」
「この私自身です」
「は?」
おもわず頓狂な声を出してしまう泉の精。

「私を下さい。」
「あの・・・それはつまり・・・」
「私と寸分たがわぬ私が欲しいのです」
「・・・」
「訳を説明しましょうか?」

説明しようとしたミッシェルを泉の精は慌てて制した。

「わわわわかりました。
これ以上私の頭をウニにしないで下さいな」

極上の微笑を浮かべたミッシェル。
「わかっていただければいいのです」

泉の精をケムにまき、
ミッシェルが3人になってしまった。

お互い顔を見合わせるミッシェル×3。

「ふむ」
「それぞれがまた泉に落ちて増殖すれば」
「ひとりが3人、3人が9人・・・」
「どこまで増えるのでしょうね」
「実践あるのみ。試してみましょう」
「そうですね」

数時間後。
3回増殖を繰り返したミッシェルが最初の泉に集った。

「おおお・・・」
「これは壮観ですね」
「こうなったら・・・」
「行くところはひとつですね」
「では参りましょうか」

ひゅんっ×81

トーマスの枕もとに立つ81人のミッシェル。

「トーマス〜〜〜」
ひとりひとりは静かに囁いているのだが、81人ともなれば大合唱になってしまった。

寝ぼけまなこをこすりながら体を起こすトーマス。
「ぅん・・・?」

トーマスが世にも恐ろしい光景に気がつくのは一瞬の後である。




教訓:正直者は神の最も見事な作品である(ポープ)







泉の広場に戻る