衛星通信用2バンドクロスアンテナの検討経過      目次に戻る   2013/02/24  
145MHz 1/2λクロスダイポール/435MHz 3/2λクロス高調波アンテナ   2013/03/14  2013/4/22
2バンドクロスアンテナ(その2) 追加 2013/4/6
2013/4/22



はじめに
衛星通信用クロスダイポールは、JA9BOH/前川さんが145MHz用と435MHz用を、エレメント長差による移相にし
て、それぞれ別々に作ってモービルから運用しFBにQSOしていました。
このアンテナを固定局で使えるようにしたいと考えたのがきっかけです。
このクロスダイポールは、円偏波を作るための移相をエレメント長を変えて行っています。
すなわち1本のダイポールを共振周波数より長くして誘導性とし、クロスするもう一本のダイポールを共振周波数
より短くして容量性にして 90°近い位相にして円偏波にすると共に、誘導性と容量性のリアクタンスを同じにして
クロスダイポールとして共振させるものです。
JA9BOH/前川さんからは、いろいろアドバイスを頂きましたが、この考え方のアンテナはかなり昔から有ったよう
です。
理論的根拠については、JH1GVY/森岡さんのホームページ
http://www003.upp.so-net.ne.jp/JH1GVY/x-dp.html に出ていましたので参考にさせて頂きました。

★★(2013/3/14現在の最終結果です)
2バンドクロスアンテナ(435MHzインピーダンス調整用ディレクター付き、エレメント移相式)
 ★シミュレーションによる検討

下記に記載した、前に検討した145MHzクロスアンテナ(移相式)は、435MHzのインピーダンスが高く、このままでは
2バンドクロスアンテナとしては使えません。435MHzのインピーダンスを50Ωにすべく検討しました。
下図は、145MHzクロスアンテナ(移相式)のシミュレーションで左下表のように、145.9MHzでR=53.9Ω、jX=2.9Ω、
SWR1.10ですが、436.5MHzではR=118.9Ω、jX=-20.7Ωです。
145MHzの水平方向の指向性もやや円に近くなっています。水平方向は直線偏波なら8字、完全な円偏波なら円に
なります。一般に3dB差なら円偏波と云っているようですが、ここでは約7dBになっています。
 
この、436.5MHz、R=118.9Ω、jX=-20.7Ωを、145MHz帯に影響させずに436.5MHz、R=50Ω、jX=0Ωに近づけるため
の検討をします。
435MHz帯は、3/2λクロス高調波アンテナになっています。
この場合は、アンテナとして機能しているのは中心付近の1/2λで、その外側の1/2λは両端の移相が打ち消し
あってアンテナゲインには貢献していません。
従って、中心付近の1/2λに対してエレメントを作用させれば良いことになります。
435MHzのリフレクターを検討したのですが、付けにくいのと、インピーダンスには大きく影響しません。
そこで435MHz1/2λのディレクター(第一導波器)を検討しました。付けるのも簡単です。
長さは、適当に1/2λ(300/435/2=344⇒×0.9=310mm)としました。
シミュレーションでこのクロスディレクターを3/2λクロス高調波アンテナに近づけると、どんどんインピーダンスが下がって
ゆきます。
436.5MHzでエレメント長=310mm(φ6、)、間隔を45mmにするとR=48.8Ω、jX=2.18Ω、SWR=1.05、G=7.27dBとなりました。
これは、435MHzのクロスディレクターと云うよりはインピーダンス調整用エレメントになっています。
ゲインは2dBほどアップしました。
メーカー製多エレメントの八木アンテナでもラジエーターのすぐ近くに第一ディレクターを付けてインピーダンスを
合わせている物があります。
この場合は435MHz帯に共振しているので145MHzには、ほとんど影響しません。

結果は下記の通りです。
 


















←(dBi) です。 



シミュレーションのパターン 
145.9MHz                       436.5MHz
 

シミュレーションのSWR   
145MHz帯                       435MHz帯
 
145MHzがかなり円偏波に近くなり、435MHzでは大きな切れ込みが無くなりました。(黒線、水平偏波)
なお、アンテナ水平、垂直パターンは最もゲインの有るところの一面を表しているだけです。
インピーダンスも50Ω近くなり、共振周波数も144.9MHz/436.5MHzでかなり近づき(0.4%差)ました。
435MHzではゲインが増加しています。(天頂を押さえる性能とは逆になったが)
ただし、エレメント間隔が45mm+0/-1mmとかなり小さい寸法なので精度が問題ですが、最後はアマチュア的
にエレメントを曲げて調整すれば何とかなりそうです。
これから作りますが、その前にインピーダンスの検討経過は?。

 ★クロスアンテナのインピーダンス検討経過
下記グラフは上記の結果や資料にしていないシミュレーション結果から想像したグラフです。
  (こんな感じか
な~

















A 線ポイント
(上図)
145MHzダイポール、クロスする2本のダイポールを同じ長さにすると、75Ωが2本パラ接続なので半分の37.5Ω
になります。一般的な145MHzクロスダイポールです。
この状態で、435MHでは3/2λ高調波アンテナになるのでインピーダンスは105Ωとなり2本パラ接続なので半分の
52.5Ωになります。移相は同相でゼロで、145MHz水平方向のパターンはダイポールと同じ8字特性になります。
435MHz水平方向パターンは四つ葉になります。
A線ポイントの状態では、インピーダンスは435MHzは良いのですが145MHzのインピーダンスが低すぎます。
また偏波も直線偏波です。
B 線ポイント
2本のクロスするアンテナの長さに差を付けて、1本を共振周波数より長くして誘導性とし、もう1本を共振周波数よ
り短くして容量性にして、円偏波にしてゆくと145/435MHz共にインピーダンスが高くなります。
B線ポイントでは、
145.9MHz, R=41.34Ω, jx=7.33Ω, SWR=1.25, Gain=5.20dB 、
436.5MHz, R=61.80Ω ,jX=-7.87Ω, SWR=1.29, Gain=5.23dB となり妥協して何とか使える状態になります。
パターンは、かなり切れ込みが有りかなり直線偏波に近く、多少楕円偏波になっている程度です。
これで作ってしばらく使っていました。
作ったときのSWRは、145.9MHz,SWR=1.26, 436.5MHz,SWR=1.05 でした。
送受の分離はデュープレクサーを2段、3段と入れていましたが、SWRが少しでも高いと、周波数関係によってスポ
ットで少しですが受信にガサガサが入ります。
まだ、水平パターンの切れ込みのためか受信に変動があります。
145MHzと435MHzのインピーダンスをも少し50Ωに近づけ、少しでも円偏波にしたいところです。
C 線ポイント
A線、B線の欠点を少しでも解決したいと検討したのがC線ポイントです。
145MHzは、ほぼ50Ωですが、435MHzは約100Ωです。
これを145MHzに影響させずに435MHzだけ50Ωにすれば良いことになります。

その結果、誕生したのがこの上記の最初に記述した、2バンドクロスアンテナ(435MHzインピーダンス
調整用ディレクター付き、エレメント移相式)です。
以下に試作結果を示します。

 ★2バンドクロスアンテナの試作(435MHzインピーダンス調整用ディレクター(φ6)付き、エレメント移相式)
前記のシミュレーション通りの寸法で作りました。寸法精度は±0.5mmぐらいです。

朝日に輝く 2バンドクロスアンテナ






測定結果(1.8mH)  
   少しエレメントを短くしても良いかな!
 

 

 






 6mHに上げました。





アンテナの帯域が広いので雨でもSWRは変化しません。特にエレメントが水平なので雨の水滴がエレメントに付
くとエレメントが太くなったのと同じで共振周波数が低くなります。
FO-29,VO-52,SO-50でQSO出来ています。特にSSBではEL15~20以上は問題なくQSOできます。
2013/2/27AO-7(1548)天頂オービットで±45°は久しぶりに自局のダウンがSメーターが振ってきました。新アンテ
ナは天頂はバッチリです。見た目が良いと飛びも良いのかな?。
天頂ゲインを押さえて、その分を水平方向にもって行きたいのですが、基本はダイポールなので欲張れません。
アンテナコントロール無しで簡単にサテライトをやってみたい人向けです。
これでサテライトのおもしろさを知って、アンテナコントローラーを作って本格的にQRVとなればと思っています。
2013/3/14 現在、使用中

2バンドクロスアンテナ(その2)   
2013/04/06 2013/4/22
435MHzインピーダンス調整用ディレクター
φ3)付き、エレメント移相式
 ★シミュレーションによる検討


                                         
↑(dBi) です。




 
作りました 2013/04/22
2013/4/6 から使用中








おわり
                                          目次に戻る







補足
以下は、上記の結果が出る前の検討経過です。
145MHzクロスアンテナ
まず単独の周波数のクロスダイポールについてシミュレーションします。
給電点インピーダンスは、145.0MHz 1/2λダイポールでは約75Ωです。
これが2本パラ接続となるので、約37Ωとなるはずです。

インピーダンスはほぼ予想通りです。
アンテナの指向性パターンは2本のダイポールが同相給電なので直線偏波となり、通常のダイポールと同じ8字
特性です。
ただし指向性は2本のダイポールの中間方向で、45°傾くことになります。
435.0MHzでも同じ結果となります。(図示せず)
このクロスダイポールは共振点がエレメント長さで決まってしまうのでエレメント長さを変えてインピーダンスを変え
たりすることは出来なません。マッチングは別の方法で行う必要が有ります。

145MHzクロスアンテナ(移相式)
次に、クロスする2本の1/2λダイポールの長さを変えて2本のアンテナの移相を90°にするシミュレーションをし
ます。
必要な条件は、
1.2本のダイポールで145MHzに共振させる。(クロス2本の±jX=0)
2.2本のダイポールを並列接続して50Ωにする。(100Ω並列=50Ω) 
3.2本のダイポールのR成分とjX成分の値を同じにする。(一本が+45°もう一本が-45°、R=|jX|=100)
としたい。
クロスする2本のダイポールの長さを変えると、その差の違いや長さの違いで、2本の合成インピーダンスが変化
することが分かりました。
シミュレーションの結果、3.項はほとんど実現不可能で、エレメントが長いと物理的にRが大きく、エレメントが短
いとRが小さくなります。
Rの大小によってパワーも2本のアンテナに1/2づつにはなりません。
要件は、
1. 出来るだけ2本の長さの差を大きくして(R=|jX|=100としたい)移相を90°に近づける。
2. 共振周波数でインピーダンスを出来るだけ50Ωにする。
シミュレーション結果です。

共振周波数のインピーダンスについては、ほぼ50Ωにすることが出来ました。
指向性パターンは山谷の差が3dB以内で有れば円偏波と云えるようですが、差は約7dBなので「だ円偏波」となり
ました。
435MHzでも同じ結果になるはずですが、145.9MHzに共振させた状態では参考値のようにR=118.9Ωです。

2バンドクロスアンテナ(移相式)
次に145MHzと435MHzの2波共用を検討します。
145MHzで共振したアンテナは3倍高調波の435MHzでも共振します。
そこで1本のアンテナで145MHzと435MHzの2周波で送受信同時に使えないかと考えました。
これは私のオリジナルです。
送受信周波数の分離はデュープレクサーで行います。
衛星通信の場合は、145MHz又は435MHzで送信しながら435MHz又は145MHzを受信します。
従って、自分の送信電波が衛星から返ってくるのを聞きながらQSOします。
145MHz/435MHzを別々のアンテナを使っても至近距離にあるので送受信の周波数はデュープレクサーと受信プ
リアンプ等を入れて回り込みを防いでいます。
同一アンテナでもほぼ同じ程度です。
アンテナの給電点インピーダンスは、145.0MHz 1/2λダイポールでは約75Ωですが、3倍の周波数435.0MHzでは
約105Ωとなると云われています。
シミュレーション結果は、ほぼ予想通りとなりましたが、145.0MHzに共振したアンテナは正確に3倍ではなくて、
3倍より2.66%高く(446.6MHz)なりました。

145MHzと435MHzの両方で移相条件を満足し、使用できるようにする条件は、
1.145MHzと435MHzで共振させる。(クロス2本の±jX=0)
2.2本並列接続して50Ωにする。(100Ω並列=50Ω) 
3.2本のR成分とjX成分の値を同じにする。(一本が+45°もう一本が-45°、R=|jX|=100)
基本的には単一周波数と同じですが、145MHzと435MHzの両方で共振させる必要が有りますが、前記のように
145.0MHzで共振させると、3倍の435MHzより11MHzも高い446MHzになってしまいます。
従って145MHzは出来るだけ低くして446MHzを出来るだけ低くする必要が有ります。
90°移相よりマッチングを重点にシミュレーションします。



シミュレーション結果は、インピーダンス、リアクタンス共に145MHzと435MHzのほぼ中間になりました。


パターンは、145MHzは山谷の差は12dB、435MHzは2方向に深い切れ込みが有ります。
円偏波は期待できません。
また、山谷の差が大くアンテナを固定して使うので、方向によってアップ/ダウンしないポイントが出そうです。
このアンテナは実際に作ってQSOしました。
EL10~20以上ではほとんどQSOできました。ただし、どの衛星も北上オービットのMEL~LOSが強く送受信で
きました。(右旋円偏波)
以前使っていたビームアンテナでも同じ傾向が有ったのでロケーションかもしれません。
北方向は約40km先の男体山(2486m)までほぼ見通しです。
アンテナの上下をひっくり返して左旋円偏波でやってみましたが、その差は感じませんでした。
このアンテナは固定局で簡単に使えるアンテナです。

2バンドクロスアンテナ(第2エレメント付き、移相式)
条件は、
1. 衛星の電波は天頂は強く、水平方向は弱いので、ゲインを天頂方向は少なく、水平方向を多くしたい。
(他のシミュレーションでクロスダイポールの地上高を0.4λにすると天頂は弱く、水平が強くなることは分かって
いる)
2.145.9MHzの給電点インピーダンスが約41Ωなのをできるだけ50Ωにする。
3.436.5MHzの給電点インピーダンスが約61Ωなのをできるだけ50Ωにする。
4.145.9MHzと436.5MHzの共振点を一致(近づける)させる。
5.そのために第2エレメントを付ける。
シミュレーション結果は、




 
1. このエレメントを付ける事によって、水平方向のゲインが若干アップし、相対的に天頂
方向のゲインが若干低下しました。
2. 145.9MHzの給電点インピーダンスが41Ωより高くなった。
3. 436.5MHzの給電点インピーダンスが61Ωより低くなった。
4. 145.9/436.5MHzの共振周波数が近づいた。
5. SWRはシミュレーションで145.9MHz/436.5MHzで1.16となった。
  
この第2エレメントは、
1.ラジエーターとの間隔が約1/2λで、一般のリフレクターの1/4λと大きく違う。
2.エレメント長さが1mと2本のラジエーター長の中間寸法でラジエーターとほぼ同じ。
  一般のリフレクターはラジエーターより長くしている。
3. ラジエーターと平行に4本なので、ラジアル(放射状)とは言えないか?。
シミュレーションでは、ゲインも少し高くなっている。リフレクター(反射器)とラジアルの機能を少しもっている感じ
なので、「第2エレメント」としました。
使った感じは、2バンドクロスアンテナ(移相式)より少し良いかなと云ったところです。
おわり

                                           目次に戻る