同和教育用童話

「七色の村」






はじめに

 これは猫の国、ワイヘ共和国のお話です。この国は緑豊かな山河に恵まれ、昔から七色の名前からなる七つの村が仲良く暮らしていました。七つの村は、順番に当番を決めて、ワイヘ共和国を治めていました。



一番猫から四番猫まで

 ある年、赤村が当番となりました。赤村の村長はわがままで乱暴なゴロ太。ゴロ太は紫村が子供の時から大嫌いだったので、お触れを出しました。



 お触れが出ると、ワイヘ共和国は大騒動になりました。今まで問題もなく、七つの村がみんな仲良く暮らしていたのに、紫村だけを仲間はずれにしようというのですから、みんなビックリ。橙村でも、黄色村でも、緑村でも、青村でも。藍村でもテンヤワンヤの大騒ぎ。多くの猫が集まって、いろんな意見が出ました。

 ゴロ太の赤村でも、長老のニャン吉がみんなを相手に話しました。

 「紫村がそんな村だったなんて聞いたことがない。ゴロ太の作り話だよ。みんな信じるな」

 「本当だと誰かが言っていたぞ。えーっと誰だっけかなあ。忘れたけれど」

 「いや百歩譲って、いや万歩譲って、その話が本当だとしても、そんな昔のことにこだわるのはおかしいじゃないか」

 「でも、そういや紫村には悪い猫が多いように思うなあ。きっと、昔の名残だよ」

 「そんなことはないぞ。この赤村にも悪い猫はいるじゃないか」

 「ヒソヒソ−−−−。ニャン吉様の言うことも分かるけれど、ゴロ太は村長だし、大統領だ。それにあいつにさからうのは恐いぞ−−ヒソヒソ−−」



 みんなが大騒ぎをして七日が過ぎました。ある猫はゴロ太を支持し、またはゴロ太にこびを売って賛成しました。しかしゴロ太を批判し、大統領から外そうという声も上がりました。

 ゴロ太は「しまった」と思いましたが、自分が折角なったワイヘ共和国の大統領の椅子から追われたくない、とも考えました。

 あくる日から、ゴロ太は反対派の弾圧を始めました。ニャン吉は一番に牢屋に入れられ、勇気のある猫たちは殺され、あるいは村を追われていったのです。

 そして数日後、ゴロ太に反対するものは、赤村から一匹もいなくなりました。

 ゴロ太は次のお触れを出しました。



 またまた、みんなが大騒ぎをして七日が過ぎました。橙村や黄色村では反対もありましたが、ゴロ太の言いなりになる赤村から、仕打ちを受けるのが恐かったのです。

 ある日、ゴロ太がやってきて言いました。

 「君たちは二番猫だ。しかし、君たちの下には三番猫も四番猫もいるぞ。君たちはましなんだぞ」



 それから二つの村の猫たちは、自分たちよりも下の村が四つもあることで、我慢しようということになりました。

 藍村では大きな反対運動が起こりました。しかし小さな村でしたので、ゴロ太たちが弾圧にかかると、あっという間に押しつぶされてしまいました。そしてゴロ太は、次のお触れをだしたのです。



 こうなると緑村、青村の猫は困ってしまいました。自分たちはゴロ太に逆らうだけの力はないし、藍村みたいになるのは嫌だし。みんなは議論をしましたが、よい案はありません。ゴロ太はやってきて言いました。

 「君たちは三番猫だ。しかし、君たちの下には四番猫がいるぞ。君たちはましなんだぞ」

 それから二つの村の猫たちは、自分たちよりも下の村が二つもあることで、我慢しようということになりました。
 こうして、緑豊かな山河に恵まれ、昔から仲良く暮らしていたワイヘ共和国は、赤村を頂点とした四つの身分からなる国になってしまいました。




生まれが違う?

 ワイヘ共和国。昔は七色の名前のついた七つの村が仲良く暮らしていた猫の国。今は赤村の猫が、他の六つの村を下にして治めています。そして、赤村の猫の支配に不満が出るたびに、いくつものお触れを出しました。





一番猫である赤村の猫は、二番猫の不満は三番猫をいじめることで解消させ、三番猫の不満は四番猫をいじめることで解消させていきました。

 たまらないのは四番猫。いわれもないのに四番猫にされた、藍村と紫村の猫たち。

 昔は、お腹一杯にネズミを食べられたのに。毛並を整える時間もたっぷりあって、清潔な猫でいられたのに。猫学もしっかりと勉強して、教養ある猫でいられたのに。

 いつの間にか四番猫にならされて、ネズミの少ない山に追いやられ、食べるだけでも大変。ネズミを追いかけるのに精一杯で、毛並を整える時間もなく、猫学を学ぶ時間もない。

 月日が経つうち、四番猫は昔の面影もない、みすぼらしい猫になっていきました。いや、ならされたと言った方が正しいのでしょう。

四番猫にとって最も恐ろしかったのは、一番猫だけでなく、二番猫や三番猫たちから、

「藍村の猫は毛づくろいもしないで、不潔な猫だ。だから四番猫になったんだぞ。汚いなあ」

「紫村の猫は頭が悪いなあ。大人の猫に教養がないし、子どもは乱暴だし。四番猫とは付き合いたくないなあ」

「四番猫とぼくらは、やっぱり生まれが違うんだなあ」

と言われることでした。いわれのない最低の猫の名前「四番猫」が、いつの間にか、いわれのあるようになっていくことでした。そうして、生まれが違う猫たちの村として、四番猫の村がますます他の村から孤立していきました。




仲良しの国に

ワイヘ共和国。昔は七色の名前のついた七つの村が仲良く暮らしていた猫の国。しかし、三百年の間、赤村の猫が他の六つの村を下にして治めています。

 ますます赤村の一番猫の態度がひどくなってきました。二番猫も、三番猫も、そして四番猫もひどく怒っていました。そして、ついに怒りが爆発しました。六つの村の猫たちが集まって、赤村の猫に迫ったのです。

「赤村だけが、なぜ一番猫なんだ」

「昔のように、みんなを平等にせよ」

「ぼくらに、猫らしい暮しをさせろ」

 六つの村の猫たちの怒りは激しく、赤村の猫たちは震え上がりました。そうして、ついに新しいお触れが出されたのです。



 二番猫も、三番猫も、大いに喜びました。そして一番喜んだのは四番猫でした。

「これからは僕らもみんなと同じ。ただの猫だぞう」

藍村でも、紫村でも、家々に提灯が飾られ、花火が上げられました。何日もの間、猫たちは浮かれて踊り狂い、百年の祭りが一度にやってきたようでした。昔のとおり、七つの村が仲良く暮らしていた、緑豊かな猫の国に戻ったと。




でも、でも、でも

 三百年もの間、ネズミを追いかけるのが精一杯で、毛づくろいもろくにできなかった藍村と紫村の猫たち。他の村の猫たちと、ほんの少しだけど習慣が違ってきた。そして、今もネズミを追いかけるだけで精一杯の暮し。どうしたら元のように戻れる。

 三百年もの間、猫学もろくに勉強できなかった藍村と紫村の猫たち。他の村の猫たちと、教養の程度が違ってきた。そして、今もネズミを追いかけるだけで精一杯の暮し。どうしたら元のように戻れる。

それでも、猫たちは努力した。そう、本当に努力した。三百年の遅れを取り戻そうと。自分たちのせいではないけれど、今こそ七つの村が、元通りに仲良く暮らせるチャンスなのだから。

 猫学の学者になる猫も出てきました。猫劇で人気役者になる猫も出てきました。あらゆる世界で活躍するようになりました。

 でも、でも、でも。まだ多くの猫たちはネズミを追いかけるのに精一杯の暮し。藍村も、紫村も、まだまだ、みすぼらしい猫が多いのはしかたないのに。

 「あの猫は四番猫だったんですよ」

 「ああ、やっぱり。どこか私たちと違いますね」

 「教養のない四番猫と付き合ったらいけませんね」




新しいお触れ



 お触れが出ても、みんな同じにしても、三百年の遅れをみんなで考えなければ、みんなの気持ちが同じにならなければ、元の暮しは取り戻せません。

 ある年、黄色村のミー子村長が大統領になり、お触れを出しました。



 猫たちの中には、

 「藍村と紫村だけ得をして」
 
 「やっぱり、四番猫とは付き合いたくないですね」

という猫もいますが、

 「歴史も勉強していない、教養のない猫だ」

 「あんな猫がいるから、いつまでたっても仲の良いワイヘ共和国になれないんだ」

と他の猫から言われています。

 今日も虹がかかる、緑豊かなワイヘ共和国。三百年のしこりが今も残る七つの村。でも多くの猫が昔を懐かしみ、暮しの中から「四番猫」を無くす努力を今日もしています。七つの色の村が、虹のようにひとつになって、平和な国ができるのも、あとわずかでしょう。




おわりに

 これで、お話はおしまいです。どうでしたか。

 「先生、ワイヘ共和国なんて聞いたことがありませんが、いったいどこにあるんですか」

「なんか、私たちの国のお話みたいね」

 そうですね、このワイヘ共和国は、実は私たちの国なんですよ。私たちの国で実際にあったお話なんです。

 「そうか。僕たちの国のお話か。へー、僕たちの国の・・・」

 あれっ?ニャン太君。キョロキョロして、どうしたの。

「あのう、先生。この中で四番猫は誰だろうって探していたんです。でも、しっぽの先の毛を切られた猫なんか見たこともないし・・・。いったい、誰が四番猫の子孫なんだろう」

あのね、ニャン太君。このお話はずい分前のお話なんですよ。だから、しっぽの先の毛を切られた猫は、今ではもういないんですよ。だから、誰が四番猫の子孫かは、一目見ただけで誰にも分かりません。みんなが苦労して、「四番猫」を無くす努力をしましたからね。
 ところでニャン太君。なぜ、誰が四番猫の子孫かということを知りたかったのですか。教えて下さい。

「あのう。それは、何となく興味があって・・・」

 そう。では、みなさん。もう少しお話を聞いて下さい。

 先生はね。「七色の村」のお話を、誰にもしなくてよい時がくるのを楽しみにしているのです。

「えーっ。こんなにおもしろくて、いいお話なのに」

 そうですね。でもね、このお話を聞いて「もう悲しい四番猫の歴史を繰り返すのはやめよう」と思ってくれる猫ばかりではないんですよ。中には「四番猫」という言葉を知って、昔四番猫と言われた猫たちを探して、仲間はずれにしたりする猫もいるんです。自分たちだけが、さも偉い猫だとでも言いたげに、一緒に仕事をしたくないと言ったり、結婚を反対したり。

 「まだそんな教養のない猫がいるんですか。今でも」

 そう。悲しいけれどね。正しい歴史を知っても、今までのみんなの努力があっても。まだ四番猫にこだわる大人の猫がいるんですよ。
 あれっ、ニャン太君。どうしたんですか。

「ごめんなさい。ぼくも仲間はずれをしてしまいそうでした。興味だけで誰が四番猫だろうって探したことは、四番猫の正しい歴史を忘れていたからですね。今ごろ、お空の上でニャン吉様に笑われているんじゃないかなあ。きっと僕は教養のない猫なんですね」

「先生、実は私もニャン太君と同じことを考えていました。ごめんなさい」

「あのー」

 はい、ネネさん。どうしたんですか。

 「先生。私も四番猫のお話がおもしろかっただけに、四番猫ごっこをしたかもしれません。もう少しで教養のない猫になるところでした」

 いやいや。でもみなさん、いいところに気づいてくれました。三百年の四番猫の歴史の中で、いやそれよりも後にも、多くの猫が傷ついてきました。時には命さえも落とした猫も多いのです。そのことを忘れないで下さい。

 今日はみなさんの話を聞いて、この国が仲良く楽しく暮らせる国に、また一歩近づいたように思います。みなさんが、きちんと四番猫の歴史を学んでくれたなら、先生が誰にも「七色の村」のお話をしなくて良いときがくるのも近いように思います。






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