<錬金術入門>授業書ノート

第3部

黄血塩

 1gの黄血塩を、水20mlにとかします。

 これより少しくらい濃くても薄くてもかまいません。

 弁当のしょう油入れのような1滴づつ出せる入れ物に入れておくと使いやすいです。残った溶液はふたをしっかりしておけば、数年たっても使えます。 

 化学式は、K4Fe(CN)6 でヘキサシアノ鉄()酸カリウムといいます。かっては、フェロシアン化カリウムといいました。化学式と名称がよく似た薬品(K3Fe(CN)6、ヘキサシアノ鉄(。)酸カリウム)があるので、間違わないように注意してください。こちらは、赤血塩という赤い結晶です。

 黄血塩にはシアンが入っているので、使用後流しに捨てたらいけないという意見があります。無毒ではありませんが、この実験で使う程度の量なら問題ないと思います。

 黄血塩は分解しにくく、銅の化合物を飲んだときの解毒剤としても使われています。

 黄血塩を、銅をとかした溶液に入れると、こげ茶色の沈でんができますが、そのほかの金属でも沈でんができます。ニッケルは抹茶色、亜鉛は白色の沈でんですが、銅やこの後に出てくる鉄と比べると、沈でんのでき方が少ないです。また、黄血塩で似たような色の沈殿を作る金属が他にもあるので、銅と鉄以外の金属の分析はできません。

 授業書では「沈でんができる」という言い方ではなく、見えたままの「にごる」という表現にしてあります。溶けないものができると溶液がにごります。溶けないものは遅かれ早かれ沈でんしてくるので、沈でんが見えなくても、液がにごっていれば沈でんができたといいます。

[問題1]

用意するもの

 金属溶解液に、銅線、ニッケルをとかしたもの。

 黄血塩溶液

 試験管、試験管立

 銅をとかした溶液の一部を試験管にとって、黄血塩をいれてください。銅をとかした溶液を残しておくのは、溶液の色をいつでも比べられるようにするためです。

 塩酸の濃度が高いと、黄血塩との反応が弱くなるので金属を溶かした溶液は、水で2倍くらいに薄めてから黄血塩を入れてください。

 

[問題2、3]

用意するもの

 金属溶解液に、白銅、黄銅をとかしたもの。

 黄血塩溶液

 試験管、試験管立

 白銅、黄銅をとかした溶液も、その一部を試験管にとって水でうすめてから、黄血塩を入れてください。残りの溶液は色を比べるのに使います。 

 白銅は、銅とニッケルの合金ですから、黄血塩を入れると、銅でできる茶色の沈殿にニッケルでできる抹茶色の沈殿がまじっています。ニッケルの量が銅の4分の1で沈殿のでき方が少ないので、銅だけの溶液と見わけがつきません。

 亜鉛だけをとかした溶液に黄血塩を入れると白くにごります。亜鉛では沈でんが少ししかできないので、亜鉛を十分溶かした溶液で実験してください。

 銅、白銅、黄銅を金属溶解液にとかした緑色の溶液3つと、それぞれに黄血塩を入れてこげ茶色ににごったもの3つを揃えて、最後にしっかり見比べましょう。

 

[問題4]

用意するもの

 金属溶解液に、鉄くぎをとかしたもの。

 黄血塩溶液、試験管、試験管立

 一部を試験管にとって水で薄めてから、黄血塩を入れます。(残りは、[問題5]で使う。)

 鉄くぎを金属溶解液にとかして、黄血塩を入れると濃い青色になりますが、塩酸の濃度が高すぎると青くならないことがあります。水で2倍くらいに薄めてから黄血塩を入れるとまちがいなく青くなり、しばらくすると青い沈殿が底に沈むのを観察できます。

 鉄は塩酸だけでもとけますが、塩酸だけでとかした鉄の溶液に黄血塩を入れても濃い青色になりません。鉄の原子は、電子が2個少ない鉄イオン(Fe2+)と、3個少ない鉄イオン(Fe3+)になるからです。塩酸だけでとかすと、大部分がFe2+になっています。金属溶解液では、過酸化水素があるためにFe3+になります。

 黄血塩で青くなるのは、3価の鉄イオン(Fe3+)だけです。

 

[問題5]

用意するもの

 金属溶解液に、鉄くぎをとかしたもの。

  ([問題4]の残りを使う。)

 黄血塩溶液

 水槽、ガラス棒

 水槽に水をいっぱい入れて、1本の鉄くぎをとかした溶液をいれてかきまぜます。そこまでやって見せてから、これに黄血塩を入れたら青くなるか?と予想を聞いてください。

 黄血塩は2、3滴より多く入れたほうが結果がはっきりします。かきまぜると全体が青くなります。ときたま、すぐに青くならないことがあります。黄血塩を入れたところが青くなったのが見えたときは、少し時間がたつと青くなってきますのであせらずに待ってください。

 この実験は、鉄くぎをとかした溶液を薄めても青くなるか調べるものですが、それだけではなく、黄血塩で全体が青くなるのを見ると、鉄くぎがとけて拡がっていることを実感できます。1本の鉄くぎが「金属溶解液」でとかされるとバラバラになって、水槽いっぱいの水でも一様にまじり、拡がっていることにも注意を向けてください。

 

おはなし 黄血塩と化学分析

 金属が金属溶解液に泡を出しながらあっという間にとけてしまうのを見るのは、それだけでも楽しい体験ですが、ただ見るだけでは見世物的たのしさと変わりないともいえます。溶液の中では目に見えないけれども、鉄や銅のイオン拡がっています。そんなことを頭の中で思い描けるようになってほしいです。

 

[研究問題1]

用意するもの

 金属溶解液(1:1:2)

 黄血塩溶液(弁当などのしょう油入れなどに入れて1滴づつ出せるようにするとよい。)

 試験管、試験管立(または、呈色反応皿)、ガラス棒

 金属製品(クリップ、むしピン、ホチキスの針、画鋲、ペン先、ハサミ、パチンコの玉、ス プーン、鍵、くさり、磁石、その他手にはいるもの。)

 研究問題ですが、時間をゆっくりとって小人数のグループで実験をたのしんでもらいたいものです。

 呈色反応皿は、理化学用の器具のカタログに記載されないようになり、手に入りにくくなりました。

 試験管でできる範囲のものでも十分です。試験管を使うときも、金属溶解液は3滴にします。とけ終わったら残った金属を取り出してから水で薄め、黄血塩を入れます。

 日常使われている金属の大部分は、鉄とその合金(ステンレス)、アルミニウム、銅とその合金ですから、アルミ製品以外は、ほとんど黄血塩で青色かこげ茶色になります。たまにニッケルやクロムでメッキしたものがありますが、これはとけにくいです。

 釣のおもりなどに使われている鉛は、表面が白くなるだけです。質問されたときには、とけてから水に溶けにくい化合物ができるので白くなると答えてください。

 

おはなし プルシアンブルーの発見

  プルシアンブルーの発見者といわれるディースバッハも、本によっては錬金術師と書かれています。染料を作ったり、医薬品を作ったり、金属を取り出したりする仕事に携わる人達が、物質を化学変化させる技術をもっており錬金術師といわれてのでしょう。

[問題6、7]

用意するもの

 ホウレン草(乾燥)とホウレン草の灰、土(赤土は鉄が多い)

 金属溶解液、黄血塩溶液

 蒸発皿、三脚、金網、ロート、ろ紙

 試験管、試験管たて、ガラス棒

 ホウレン草を乾かしてから、蒸発皿に入れて灰にします。煙が出る間は弱火で、全体が黒い炭になったら強火で熱します。黒い炭を灰色の粉にしたいのですが、時間をかけても黒いものは残ります。灰色の粉が半分くらいあれば十分です。ホウレン草を蒸発皿に入れて焼くところをみせるだけにして、あらかじめ作っておいた灰を使って実験してください。

 金属溶解液で灰を溶かしますが、量は灰の上に液が少しあるくらいにして多すぎないようにします。弱火で泡が出なくなるまで熱します。濃い塩酸や過酸化水素は、鉄と黄血塩との反応を邪魔するので、加熱して蒸発または分解します。2mlの水を加えてよくかき混ぜてからろ過します。

 100gのホウレン草に入っている鉄は、3〜8mgです。

[問題7]の土も金属溶解液を加えて弱火で暖めてとかします。液が黄色っぽくなるまで加熱を続けて下さい。有機質の多い土を使うと、金属溶解液を入れたときに過酸化水素の分解が激しく、ネバネバした泡が盛り上がってくることがあります。このような土は蒸発皿に入れて、しばらく焼くと泡が少なくなります。

 金属溶解液に鉄がとけると液が黄色味を帯びてくるので、液の色の変化でとけたことを確認できます。

 

[研究問題2]

用意するもの

 黄鉄鉱、砂鉄、鉄入りの飲物など

 金属溶解液、 黄血塩溶液

 蒸発皿、三脚、金網、ロート、ろ紙、試験管、試験管立、ガラス棒

 黄鉄鉱や砂鉄も金属溶解液に入れて、少し熱すると溶けます。金属の鉄にくらべるとずっと溶けにくいです。

 黄血塩を入れるときは、水を加えて金属溶解液を薄めることを忘れないで下さい。

 鉄入りの健康飲料にはビタミンCが入っているものがあります。ビタミンCは、鉄イオンを2価(Fe2+)にしています。黄血塩で青くならないときは、金属溶解液を1、2滴入れてください。過酸化水素が鉄イオンを黄血塩で青くなる3価(Fe3+)にします。

 

おはなし 植物や動物に含まれている鉄

 新しく書き加えたおはなしです。

 

おはなし パラケルスス

 パラケルススが生まれた1493年という年は、コロンブスがアメリカ大陸を発見した翌年です。大航海の時代がはじまり、ヨーロッパには海外から新しいものがどんどん入ってきましたが、その中には梅毒という新しい悲惨な病気がありました。梅毒は皮膚や粘膜にできものができ、数年後には神経や脳が犯される悲惨な病気です。当時は病気の原因も治療法もわからなかったので、感染した人は末期症状まで進んでしまいました。

 こんな時代背景を適宜補ってください。