『三番目の魔女』 レベッカ・ライザード:著 森祐希子:訳 (ポプラ社)

三番目の魔女
三番目の魔女

『ハムレット』『リア王』『オセロー』と並んでシェイクスピア四大悲劇のひとつに数えられる戯曲『マクベス』。名将マクベスは荒野で三人の魔女に出会い、将来、王となるべきことを予言される。予言を信じたマクベスは野心家の妻と共に主君の王を暗殺。王座を手にするも罪の意識に苛まれ、やがて滅びていく。この筋書きを崩さずに、三人の魔女の一人の視点から再構築し、小説化したのが本書だ。
主人公は孤児の少女ギリー。森に住む老婆二人に育てられた彼女は、わけあってマクベスを敵とつけ狙う。
マクベスを呪うために彼の心臓のかけら三つが必要と聞き、ギリーはマクベスの居城に男装して潜入。横暴なコックの下、台所見習いとして働き始める。辛い仕事の合間に人々と触れ合い、愛情や友情を知るギリー。時に復讐を捨てて平穏に暮らすことすら夢見るが、ある日とうとう探すものを見い出し、呪いの道へと己を駆り立てる。
彼女がそんなにも激しくマクベスを憎む理由は後半で明らかに。そしてついに迎えた怨敵との対峙で、ギリーは自分でも意外な行動を取るのだった。
マクベスがダンシネイの城で最期を遂げることは予めわかっているため、その死にギリーの言動がどう絡んでいくのかが読みどころ。ギリーが存在そのものを悪と決めてかかっているマクベスとその夫人の背景にも、一言では切り捨てられない事情がある。「いいは悪いで、悪いはいい」。有名な『マクベス』の魔女の台詞は、この物語の中でも真実だ。『マクベス』中のちょっとした疑問点――マクベスには子どもがないが、マクベス夫人は赤ん坊に乳をあげて育てたと語っている点や、バンクォー将軍暗殺のために遣わされた暗殺者が途中から一人増える点など――も想像力豊かな挿話によって解決され、 二次創作の面目躍如。
思い込みが人間にもたらす強さと危うさが一途な少女の姿から浮き彫りになり、「運命が人を不幸にするのか、人が勝手に不幸になるのか」という古くて新しい問いを考えてみたくなる。
読後、本家本元の『マクベス』や、十六世紀イギリスの荘園の台所風景が魅力的なアリスン・アトリー『時の旅人』、少年好きで醜怪なコックがインパクトを残すマーヴィン・ピークの『ゴーメンガースト』なども再読したくなった。


(ウィークリー出版情報’07年11月3週号掲載)