『フリーキー・グリーンアイ』
ジョイス・キャロル・オーツ:著 大嶌双恵:訳 (ソニー・マガジンズ)

フリーキー・グリーンアイ

主人公は十四歳の少女、フランチェスカ。時々、自分の中に強力で冷徹なもう一人の自分を感じることがある。
彼女は父親に似たその自分を「フリーキー」(いかれた、の意)と呼び、困ったときに頼りにする。フリーキーは主人公の意志をコントロールする。実際の父親がそうであるように。
主人公の父親は、アメリカで有名なスポーツキャスターだ。外では完璧なまでの魅力を振りまくが、身内には威圧的。常に自分の意志が最優先でなければ気が済まない。母親はテレビ局アナウンサーだったが、今では家庭に入っている。両親の仲は最近うまくいっていない。やがて母親が出奔、次いで失踪という事件が持ち上がる。父親の関与はどこまでか。不明のまま物語は進展。 フランチェスカは脅えながらも「フリーキー」の冷静な観察眼で現状を見据え、真実の辛さに迫っていく。
言葉や腕力の暴力に遭っても、主人公とその兄妹は父親への愛情と誇りを持ち続ける。お飾りのような妻の座に反発した母親が父親とぶつかる姿を見ると、父親に逆らう母親が悪いのだと苛立ったりする。学校や家庭など、限られた範囲で生活する主人公たちは、広く世間への影響力を持つ父親に従わざるを得ない。また、従うことが家族の望みであるようにふるまわなければならない。
その息苦しさがフランチェスカの一人称の語りを通じてじわじわと伝わってくる。必死で平常心を保とうとしながら、実は常に追い詰められている子どもたちの心理描写がリアルだ。恐怖小説と呼びたいほどの緊張感があり、行間に垣間見える母親の孤独な日々には、胸塞ぐ思いがする。
タイトルが示すように、主人公は緑色の目をしている。シェイクスピアは『オセロー』で、人の心を苛む嫉妬を「緑の目の怪物」と表現した。主人公は、オセローを俗にしたような父親から継いだ気質を持て余しつつ、成長せざるを得ない。好むと好まざるとに関わらず、子どもは親の遺伝子を半分ずつ受け継ぐ。逃げられない気質と向かい合いながら、勇気ある行動を選ぶ主人公の姿には 救われる。
日本では父親の存在感の薄さが嘆かれて久しいが、この物語のような「強い父」の出現は、御免こうむりたい。


(ウィークリー出版情報’06年2月3週号掲載)