歌舞伎町での遊び方

    
伊藤 征一





  若い頃は、酒を飲んだ帰りに新宿の歌舞伎町あたりによく寄ったものですが、
最近は、夜の新宿にはすっかりご無沙汰しています。世の中の激しい変動の中で、
酒ののみ方、遊び方もどんどん変わってしまい、新宿の街も大きく変貌していく
なかで、昔の歌舞伎町の雰囲気を書き留めておきたいという気持から、歌舞伎町
で遊んだ思い出話を記してみます。


 時は、第一次オイルショックという、わが国経済の歴史的転換点(昭和48年
12月)より前にさかのぼります。オイルショック以前と現在とは、貨幣価値が
全く違いますので、その辺を勘案して読んでください(第一次オイルショックか!。
出だしは格調高いぞ<笑>)。


 舞台は、新宿歌舞伎町のキャッチバーです。友人の結婚式の帰りに、ほろ酔い
気分で歌舞伎町を歩いていたら、狐のような顔のホステスに呼び止められました。
中にはいると、わーっとホステスたちが寄ってきて、引出物のバウムクーヘンを
あっと言う間に食べられてしまいました。その後、みんなにあれこれ飲まれて、
確か3万円くらい取られたと思います。それでも、その場の雰囲気は、みんなで
楽しくお話をしましたという感じでした。狐顔のホステスは、「自分は東北の旅
館の一人娘だが、気に入らない医者と結婚させられそうになったので、家出して
きた」などと見えすいた作り話をして、それなりのサービスはしてくれました。
それにしても、結婚式の礼服を着て、よくそんなところに行ったなーと、今から
考えると冷汗が出ます。

 その後、投資を回収すべく一計を案じ、大成功を収めましたので、その話をし
ましょう。まず、出陣前に1万円札を10枚の千円札に変えておきます。そして、
一枚だけを財布にいれて、残りをポケットに隠しておきます。その軽い財布をも
って、ホステスの呼び込みを待つわけです。お兄さん寄ってらっしゃいと言われ
たら嬉しそうな顔をして財布を広げ、「あれ!、千円しかないや、残念だなー」
と、未練たらしくしていると、「いいから寄ってらっしゃい」ということになる
のです。客はほとんどいないし固定費もかかっていることなので、少しでも取れ
ればいいということなのでしょう。

 中に入ったらすぐに、必ず前金で千円を渡して、「悪いなー、千円で長居はで
きないから、10分したら帰るよ」と宣言してしまうことが重要です。これで料
金問題はクリアーされ、あとは安心して飲むことができます。ころあいを見計ら
って、「いやー、もうこんなに時間がたってしまった。わるいから帰るよ」とい
えば、気持ちよく出ることができます。

 外に出たら、また千円を補給して、次の呼び込みに備えます。これを4、5回
繰り返せば、5千円で一時間位は楽しめます。ただし、この金額は、第一次オイ
ルショック以前の・・・(しつこいなあー。要するに、金額は3倍して考えてく
ださい)。

 上のようなやりかたを何回もやってみましたが、一度も失敗したことはありま
せん。相手も、普段は少しでも長くいてもらおうとしているのに、逆に、「長居
して悪いなー、もうすぐ帰るからかんべんしてよ」などといわれると調子が狂っ
てしまい、「面白いからもっといなさいよ」などと言ってくれたりすることもあ
って、お互いに楽しめました。

 このように話してくると、当時の歌舞伎町は、のどかな街だったように聞こえ
ますが、本質は今と変わらず恐い街でした。ただ、当時は、中国人のマフィアな
どもおらず、ぼられるといっても同じ日本人同士で気心が知れていましたから、
手口も、慣れてくれば予測のつくものばかりでした。最近は、文化の違う外人が
いて何をやられるかわからないと思いますので、あまりこういう所へは行かない
方がいいでしょう。

 以上、昔の歌舞伎町での遊びの一端をお話しました。

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