インターネット時代の
           モンゴル産業の進むべき方向
 

                        99. 10. 1
                             伊藤  征一

 

   今回のモンゴル視察におけるシンポジウムやビジネス交流会では、モ
ンゴルの重要産業として「観光産業」が話題に上った。また、企業の見学
では、「カシミヤ工場」 の生産現場を見ながら説明を受けた。以下におい
ては、それらの見聞をもとに、インターネット時代におけるこれら産業の方
向性について考察してみることとする。

(1)観光産業

   「観光産業」に関しては、観光サービスの「流通」をどう考えるかが重要
である。『日経PC21』(1998年12月号)の記事「情報流通業としての代理
店が旅行業会の構造を変えていく」によれば、アメリカではマイクロソフト
がインターネット上に旅行サービス販売のホームページを運営しており、そ
の1ヶ月の利用者は200万人、売上高は約2,400万ドルに達しているといわ
れている。このように、インターネットを使って、旅行とは関係のない情報サ
ービス業者が、旅行サービスの「流通分野」に参入してきたのである。

   モンゴルの観光産業にとって、この「流通分野」でインターネットを活用
したビジネスを行うことの意義と可能性は大きい。「モンゴルの現在の貧
弱なインターネット環境の中で、観光サービス商品をインターネットで販売
することは無理ではないか」などと考える必要はない。重要なのはサー
ビスの消費地におけるインターネット環境であって、供給地のインタ
ーネット環境ではない。モンゴル人が一人も見てくれないホームページ
であっても、消費地の日本人やアメリカ人が見てくれればよいのである。

   インターネットを利用してサービスを提供することは思ったより簡単であ
る。「リンク機能」を利用すれば、他のホームページの情報やサービス機
能をみずからのホームページに組み込むことができる。航空券の予約や
決済などの基本サービスも、アメリカや日本の企業がネットワーク上に構
築した既存の機能を取り込んで利用することができる。逆に、自らのホー
ムページを、利用者の多いマイクロソフトのホームページに組み込んでも
らうことも可能である。このような便利な機能を持つインターネットを活用す
れば、モンゴルに居ながら世界中に観光サービスを販売することができる
ようになる。

   その場合、旅行商品をインターネットを通じて注文し料金を払い込むの
は、最新のインターネットを使っている日本やアメリカの消費者である。
ンゴルのインターネット環境がどうあれ、モンゴル企業がグローバル
な営業を展開しようと思うなら、消費地のネットワーク環境の中に入
り込み、そこで用いられている先端的な機能を使いこなすことが求め
られる。また、そのことによって、モンゴルと消費地の間の企業レベルの
平準化も進むことになるのである。
 
(2)カシミヤ産業

   次に、カシミヤ産業であるが、これも、消費地のアパレル産業の中に組み
込まれる必要がある。現在、わが国の繊維業界では、原糸メーカー、アパ
レル、小売りなどが統一的な業界ネットワーク・システムを構築し、業界全
体で情報を共有しながら生産・流通の期間を短縮し、市場ニーズにすばや
く対応できるような体制(QR:quick response)の構築に取り組んでいる。
モンゴルのカシミヤ産業がこのようなシステムに組み込まれることで、
日本企業と同じ発想、同じレベルの生産体制が実現できるようになる。

   これまでは、生産地と消費地との間に商社が入っていたため、両者が直
接結びつくことは無く、それぞれ独自の世界が温存されてきた。これからの
インターネット時代には、生産者が消費地のアパレル業者や小売り業者と
直接ネットワークで結びつき、標準的なシステムの下で情報を共有しながら、
共同で顧客の要望に応じた生産活動を展開していくことが可能となる。かく
して、グローバル調達を推進しようという日本の繊維業界と、その中に組み
入れられて変身を図ろうというモンゴルのカシミヤ業界の一体化が進展する
こととなる。

   そうなれば、モンゴルの生産者の意識や技術水準・ノウハウが、消
費地のアパレル業者や小売り業者と同じレベルにならざるを得なくな
る。このような体制に組み込まれることにより、付加価値の低い製品を作っ
ている生産者の意識改革も進むだろう。こうしたプロセスを経て、モンゴルの
カシミヤ産業が高付加価値型のファッション産業に変貌していくことが期待さ
れる。

(3)今後の方向

   以上、モンゴルの2つの産業に関して、インターネット時代への対応につ
いて考察を試みたが、両者に共通していえることは、モンゴルの企業は消
費地の関連産業ネットワークに組み込まれるべきであるということであ
る。ンターネットによってグローバル化された世界では、モンゴルの
企業であるということには意味がなくなり、消費地の関連産業ネットワ
ークの一員であるということが意味を持つようになる。国籍よりはネット
ワークの構成要員としての役割が重要になるのである。

   そうなると、ネットワーク内の企業の技術やノウハウのレベルに関す
る平準化が必要となり、必然的にモンゴル企業のレベルが消費地の
企業レベルに合わされることになる。ネットワーク化によって、モンゴル
企業のレベルは世界の最先端レベルに引き上げられることになるので
ある。

   モンゴル以外の他の国や他の産業についても、類似の議論を展開する
ことができる。このようなネットワーク連携により、「北東アジア経済圏」は、
「経済圏」という言葉どおりの機能を果たすようになるだろう。(財)環日本海
経済研究所では、このような問題意識の下で、新潟県と北東アジア各国の
企業間ネットワークについて、調査研究を開始したところである。今後、イン
ターネット上の電子会議室で議論を進めていく予定であり、各国関係者の
電子会議への参加を期待している。

 
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              日中東北開発協会 北東アジア経済委員会
     「’99モンゴル経済視察団報告書」(99年10月)より
                           (電話  03-3592-6891)
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(追加情報-1  2000年1月     ---本稿(2)関連---

   アパレル産業のネットワーク化の一例として、五泉市のニットメーカー
「坪川」のインターネット上のブティック「サンクフォンテーヌ」の紹介記事
「ネットブティック”開店”」(新潟日報1月23日「十字路」より)の一部を以
下に引用する。

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   五泉市のニットメーカー「坪川」(坪川直宏社長)は、このほどインター
ネットのホームページにブティック「サンクフォンテーヌ(フランス語で五つ
の泉)を”開店”させ電子商取引の実証実験を始めた。実際に一般顧客
からの注文を受けて消費者のニーズを見ながら、メーカーとしても協業、
分業化の可能性や製品の売り上げ・出庫・在庫データ管理などメリット
などを探る。
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   モンゴルのカシミア産業も、このような電子商取引ネットワークに原料
供給者として組み込まれるか、あるいは、みずからトータルネットワーク
を構築することも考えられる。
 

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(追加情報-2  2000年2月     ---本稿(1)関連--- 

   日中東北開発協会の機関紙「日中東北」の99年12月号によれば、
同協会の「2000年度重点事業構想」の中の「協力プロジェクト」の一つ
として、「観光分野における事業化検討」が挙げられている。

   当プロジェクトは、「研修生受入(モンゴルおよび中国各1名実現見通
し)」および「インターネット活用によるモンゴル観光PR(モンゴル大
使館中心)促進の試み」などを契機として、旅行業界との協力により推
することになっている。

   また、その他の重点事業として、「インターネット活用推進」が挙
げられ、その具体的事業として、財団法人環日本海経済研究所の
「情報通信ネットワークによる北東アジアの企業連携」に関する
調査研究への協力、および、モンゴル観光PR促進協力が計画されて
いる。

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