通信ネットワークによる北東アジアの企業連携




         (財)環日本海経済研究所

         前 調査研究部長 
伊藤征一
         前 研究員    篠宮宏明


















                 平成13年3月




  (財)環日本海経済研究所の調査研究プロジェクト報告書

   「通信ネットワークによる北東アジアの企業連携」より











                                

1.通信ネットワークによるボーダレス・コラボレーション(国際的協働)の推進

  近年のインターネットを中心とする通信ネットワークの発展は、「距離」や「場所」の概念
を取り払い、グローバルな企業連携を可能にした。本章では、北東アジア各国の企業間で通信
ネットワークを活用したコラボレーションを推進することにより、新たな「北東アジア経済圏」
を構築するための提案を行う。そのため、以下において、ソフトウェア産業、金型産業、アパ
レル・繊維産業、木材・住宅産業について、ボーダレス・コラボレーションのビジネスモデル
を提示し、その実現のための方策を提言する。また、このようなコラボレーションが、途上国
とのデジタル・デバイドの解消に役立つことを示す。

(1)ソフトウェア産業

 我々の研究ではまず、「ソフトウェア産業」をとりあげ、インドのバンガロール地方におけ
るソフトウェア産業の成功例を北東アジアに適用できないかという仮説をたててみた。インド
のバンガロール地方は、アメリカのシリコンバレーからソフトウェア開発の注文を請け、ネッ
トワークを通じて発注者と密接な連携をとりながら開発を行うことにより、今や世界でも有数
のソフトウェアの輸出地域となっている。このことは、国内需要の少ない地域でも、輸出中心
のソフトウェア産業が成り立つ可能性のあることを示している。

北東アジアにおいても、中国の東北地方をバンガロールに対応させ、日本をシリコンバレー
に対応させてみれば、同じことが言えるのではないだろうか。通信ネットワークを通じた両国
企業のコラボレーションにより、中国の安価で良質な労働力と日本の大きな市場や高い技術力
との相互補完を成立させるという、「経済圏」としての理想的な活動を実現することができる
のである。中国にとって、雇用吸収力が大きく簡単な設備投資で手軽に立ち上げることのでき
るソフトウェア産業を、輸出産業として育成するメリットは大きい。

日中のソフトウエア企業の連携事例としては、日本のソフトウェア会社と黒龍江大学とが合
弁で作ったソフトウェア会社である黒龍江イースト社を挙げることができる。かつて日本の大
学、企業に籍を置いた経験がある同社の社長は、黒龍江大学のコンピュータ学部で教鞭をとる
現役の教授で、自分のゼミの学生に日本語を習得させ、それらの学生を卒業後に自社の社員と
して迎え入れたり、社員を日本に研修派遣したりするなど、まさに日本企業からのソフトウェ
ア開発の受注を念頭に置いた体制を確立している。このほかにも、中国の東北地方では、日本
語の習得や日本への研修派遣などに熱心な企業や大学が多い。

(2)金型産業

  次に、通信ネットワークによる企業連携のもう一つの例として、金型産業におけるCAD/CAM
(コンピューターによる設計、製造)と通信ネットワークを活用したコラボレーションが挙げ
られる(金型とはモノを大量生産する際に使う「型」のこと)。例えば、県央にある金型メー
カーT社では、韓国の自動車メーカーから金型の注文を請け、コンピュータ処理された3次元

CAD
のデータを通信ネットワーク上でやり取りしながら、金型の設計・生産を行うことで、自
動車の設計プロセス全体の効率を飛躍的に向上させたという。

ただ、このようなCAD/CAMのデータのやり取りにおいては、金型業者が使用するCAD/CAM
のソフトウェアが発注企業のものと異なる場合、受け取ったデータの処理ができないという問
題がおこる。そのため、種々の
CAD/CAMソフトのデータを統一規格に変換した上でやりとりを
行うことが必要になる。しかながら、このようなデータ変換の仕組みを整備することは、個々
の金型業者にとって負担が大きすぎるため、例えば、リサーチコアのような中立的機関や技術
力のあるハイテク企業が、その仕組みの整備と運用を行いながら、発注者と受注者を結ぶネッ
トワークを構築していくことが考えられる。これにより、CADデータの変換機能とマーケッ
ト機能の両方を併せ持つネットワークが作られることになる。


 上記のようなネットワークサービスとして、U社がASP(アプリケーション・サービス・プロ
バイダ)として提供するサービスの例が報じられている
1。このサービスは、U社のCADソフト
のユーザが、別の
CADソフトのユーザからCADデータを受け取った場合、そのデータをインタ
ーネットを通じて
U社に伝送すれば、U社のCADソフト用に変換して送り返してくれるというも
のである。なお、
ASPとは、遠隔地の顧客に、インターネットを通じて自らのソフトウェアを
使わせるサービス業者のことをいう。

(3)アパレル・繊維産業

上記の金型業者とその発注企業の間の通信ネットワークによるコラボレーション(協働)は、
発注側の企業が
CADによる設計データをインターネットを通じて金型業者に伝送し、金型業者
が受け取ったデータをもとに
CADで金型の設計を行なうというものであった。この金型産業と
同様の企業連携モデルをアパレル・繊維産業でも作ることができる。実際、わが国と中国のア
パレル関連企業の間で、
CADで作られた型紙データなどをインターネットを通じてやり取りし
ながら、コラボレーション(協業)が行われている例が報じられている
2。以下に、その内容を
要約して紹介する。

 C社は、衣料生産に必要な縫製仕様書や型紙データをインターネットで伝送するシステムを開
発した。このシステムにより、日本のアパレル会社と中国の衣料品製造会社との間で、以下の
ようなコラボレーションが円滑に行なえるようになった。すなわち、


 1)日本のアパレル会社がCADにより型紙データや縫製仕様書を作成する
 2)そのデータをインターネットによって対岸の衣料品製造会社に伝送する
 3)衣料品製造会社は受け取ったデータに基づいて衣料品の生産を行なう

  中国など通信事情の悪い地域に情報量の大きい縫製仕様書などのデータをインターネットで
送ろうとした場合、通信がとぎれ失敗する例が多いため、これまで、大半の国内アパレルメー
カーは国際貨物郵便を使って、3日もかけてデータを送っていた。今回のシステムによって、
通信が途切れてもデータ通信がスムースにできるようになったため、中国に30分前後でデー
タを送れるようになり、衣料品生産の大幅な時間短縮が可能となった。

  上記の例は、アパレル・繊維産業における、CADとインターネット伝送を使った日中企業
のコラボレーションであるが、これは、前述の金型産業のモデルと本質は全く同じである。ア
パレル産業も金型産業も、遠隔地の企業同士で、@CADによる設計、Aインターネットによ
る設計データの伝送、B受け取ったデータに基づく製品の生産、といった活動を行っている。

「金型産業」と「アパレル産業」というまったく関係の無さそうな2つの産業が、「通信ネッ
トワークによる企業連携」という観点からみると、同様の製造工程を持つ産業として位置付け
られることになる。

 実は、「本章1.の(2)金型産業」の項で触れた県央にある金型メーカーT社の場合も、
インターネットによるデータ伝送で通信がとぎれて失敗するという問題があった。そのため、
金型産業の場合も、アパレル産業と同様なシステムの適用が必要となっている。

なお、これまで述べた企業連携モデルは、CAD情報の伝送・変換機能という特定の機能を使
った連携モデルであるが、これに企業活動に必要な各種機能を加えて一般化したものがEC
Electric Commerce:電子商取引)といわれるものである(資料1参照)。このECの概念を
使えば、われわれの企業連携モデルを「
ECによる北東アジア各国の企業間コラボレーション・
モデル」と呼ぶことができる。

なお、このようなコラボレーションは、カリブ海周辺でも行われている(資料1参照)。米
国のアパレル企業は、生産を世界中の低賃金国でおこなっており、特にカリブ海周辺は、近年
重要な生産拠点になっている。これは、同地域における
ECシステムの伸展によるところが大き
いといわれている。

(4)木材・住宅産業

CADとインターネットによる上記のビジネスモデルを木材にあてはめると、『わが国の住宅
や家具のメーカーが、
CADによる製材情報をインターネットで原木の生産地に伝送し、現地で
その情報を自動製材機に入力して製材を行なう』というモデルが考えられる。

最近の原木生産地では、原木のままでの輸出を禁ずる動きがある。ロシアのハバロフスク地
方では、
2003年1月から原木の輸出を完全に禁止し、主として材木と建設物を輸出することに
なるという。丸太の輸出禁止は、「半加工木材有効利用発展プログラム」で付加価値をつけた
加工品を輸出することにより、利益と雇用を生み出そうとするものである(資料2参照)。こ
うした動きに対処するため、上記のようなコラボレーション・モデルが必要になると思われる。

2.日中企業連携推進のための方策

(1)中国との企業連携の特徴

前述のソフトウェア開発や、アパレル・繊維産業、木材・住宅産業の企業連携において重要
なことは、日本側が顧客(発注者)であるということである。日本の需要が中国(やロシア)
ECElectric Commerce)の活用を促し、技術移転を促進する原動力になるのである。また、
それが同時に、中国側の輸出振興に貢献することにもなる。

中国の国内企業間のネットワーク化にはかなりの時間を要すると思われるが、日本企業が持
ち込んだネットワークに組み込まれることにより、企業活動におけるネットワーク化が促進さ
れることになる。この場合、顧客である日本側の要望に従って、コミュニケーションは日本語
で行われることになる。

前述のインドのバンガロールの例では、主要顧客はシリコンバレーやヨーロッパであり、英
語で仕事を行なうことができる。そのため、日本語を要求される日本の顧客から受注するより
は、欧米の顧客を優先することになる。このような背景から、日本とインドとの連携は必ずし
も十分な進展を見せているとは言えない。その点では、中国との連携の方が可能性が大きい。

例えば、瀋陽市の東大アルパインソフトウエア会社は、東北大学ソフトウエア研究開発セン
ターと日本のアルパイン株式会社との合弁会社で、中国で最初に株式を上場したソフトウェア
開発会社であり、日中提携の成功例として注目されている。言葉の問題などを考慮すれば、今
後のソフトウェア開発における企業連携の成功事例として、バンガロールに替って取り上げら
れるべき企業であるといえる。

(2)「研究開発拠点」の活用

日中のボーダレス・コラボレーションを推進するための手段として、日本の各地に作られた
「リサーチ・コア」や「サイエンスパーク」などと呼ばれる「研究開発拠点」に中国側がリエ
ーゾンオフィス(連絡調整機関)のようなものを作って企業活動を支援することが考えられる。
前述のように、中国東北地方の企業や大学では日本語の習得や日本への研修派遣などに熱心に
努めるケースが多数ある。そうした人材をこのリエーゾンオフィスに投入し、日本側と協同で
マーケッティングや受注活動、契約手続などの支援サービスを行うのである。商習慣の違いや
言葉の問題も、ここで解消することができる。元来、リサーチ・コア等の研究開発拠点は地域
産業の振興を目的として設置されたものではあるが、グローバル化する企業の活動実態に合わ
せ、外資の誘致を進めているところもある。事実、神奈川県の神奈川サイエンスパークには、
日本と中国の企業の橋渡しをする中国系企業が進出して積極的に活動している。このほか、瀋
陽の企業が東京都心部に会社を作り、東京で受注したソフトウェア開発を瀋陽の本社で行って
いるという事例もある。

 一方、中国でも大学、研究所などの知的資源を産業に結びつけるという目的で、「高新技術
産業開発区」の建設が進められており、東北地方においてもハルビン、長春、瀋陽の各市にそ
れぞれ開設されている。外資に対する優遇策も設けられており、通信ネットワークを活用した
企業連携を考える日本企業がこれら開発区を積極的に活用していくことが期待される。

 高新技術産業開発区やリサーチ・コアなどの研究開発拠点は、企業の研究開発支援を行うと
同時に、様々な支援事例を通して企業の情報やノウハウを蓄積している。海外展開を考える企
業に対して、そのような情報やコンサルティング機能、コーディネーション機能などを提供す
るような仕組みを作ることで、我々の考える通信ネットワークを活用した企業連携をより円滑
に進めていくことが可能になるであろう。

3.わが国と中国東北地方の企業連携を推進するための提言

(1)提言

  標記の目的を達成するため、中国の東北地方とわが国の地方政府および「研究開発拠点」の
関係者に対し、下記の方策を提言する。


  1)ソフトウェア産業、金型産業、アパレル・繊維産業、木材・住宅産業などについて、
   前述のようなコラボレーション事業の具体化計画を企業から募集する。両国の地方政
   府は、それらの中から適切と認めるものをモデル・プロジェクトとして認定し支援する。


  2)日中両国の「研究開発拠点」間に国際ネットワークと国際協力体制を構築し、国際的
   コーディネーション機能を持たせて、上記プロジェクトを支援する。


  3)上記の構想を実現し、有効に機能させるため、両国の地方政府、企業、研究者などに
   よる研究グループを組織し、「電子会議室」などを活用して検討を進める。

(2)提言の具体化

地方政府が上記のような提言を実現するためには次の2つを考慮する必要がある。

  1)モデルプロジェクトへの応募があるか
  2)地方政府による支援の根拠があるか

これらのうち、1)については、新潟市内の事業協同組合が、具体化に向けて動き出している
(本章4.の(4)参照)。また、東京の大手通信会社やアパレル会社が行なっているアパレ
ル関係のコラボレーション事業は、既に運用段階に入っている(本章1.の(3)参照)。こ
れらのプロジェクトが求めるものは、必ずしも資金だけではなく、公的団体による「優良プロ
ジェクトであるというお墨付き」である。その意味で、モデル・プロジェクトとしての認定に
対するインセンティブは大きいといえる。

2)については、現行の「友好姉妹都市協定」を活用することが可能である。例えば、日中両
姉妹都市間の協定の中に、事前に以下のようなプロジェクト支援の具体的項目を作っておくこ
とが考えられる。

  ・「便宜供与リスト」(例:開発区内での一定期間の家賃免除やパソコンなどIT用品の貸与)
  ・トラブル時の特別なサポート(首長直轄のトラブル対処体制)
  ・起業のための手続きの一括代行

 今後、「友好姉妹都市協定」に対しては、単なる挨拶外交ではなく、産業面での具体的協力
など、実利的活動が要求されるようになるだろう。この点に関して、地方政府に一考を望みたい。

4.途上国におけるボーダレス・コラボレーションの意義

これまで述べてきたようなボーダレス・コラボレーションは、途上国と先進国の間のデジタ
ルディバイド(情報格差)の解消のためにも大きな役割を果たすことになる。

デジタルディバイドの解消のために、途上国にパソコンをばらまいたり、過疎地にネットワ
ークを張るというような安直なインフラ整備は効果が小さい。このような発想では、日本の公
共投資が人の通らないところに道を作ったのと同じような無駄を生むことになるだろう。まず
最初に行うべきことは、国内のITインフラを整備することではなく、国外とのネットワーク
化によるIT活用能力の向上を図ることである。以下においては、こうした観点に立って、途
上国のIT振興に対するボーダレス・コラボレーションの意義を考察する。


(1) 従来型産業の先進国ネットワークへの組込み

途上国のIT振興のためにまず行うべきことは何だろうか。国内のネットワーク化をいくら
推進しても、既存の産業がそれらを十分活用できなければ意味が無い。逆に、国内の通信ネッ
トワークが不十分であっても、その国の従来型産業をうまく先進国のネットワークに組み込む
ことができれば、両国の産業が一体となってコラボレーションを行うことにより、技術水準の
平準化やIT活用能力の向上が期待できる。

 例えば、モンゴルの重要産業であるカシミヤ産業について考えてみる。現在、日本の繊維業
界では、原糸メーカー、アパレル、小売りなどが統一的な業界ネットワーク・システムを構築
し、業界全体で情報を共有しながら生産・流通の期間を短縮し、市場ニーズにすばやく対応で
きるような体制(
QRquick response)の構築に取り組んでいる。モンゴルのカシミヤ産業が
このようなコラボレーション・ネットワークに組み込まれることにより、日本企業と同じ発想、
同じレベルの生産体制が実現できるようになる。

 また、モンゴルの観光産業についても、インターネット上で日本人向けの旅行情報の提供や、
旅行サービスの販売を行うことができる。その際、「モンゴルの現在の貧弱なネットワーク環
境の中で、観光サービス商品をインターネットで販売することは難しい」などと考える必要は
ない。重要なのはサービスの消費地におけるネットワーク環境であって、供給地のネットワー
ク環境ではない。モンゴル人が一人も見てくれないホームページであっても、消費地の日本人
が見てくれれば、それでよいのである(資料3参照)。

 日本とのコラボレーションによって、まず既存産業におけるIT活用能力を高め、機が熟し
たところで、国内のネットワーク投資を行えば、砂地が水を吸い込むように
ITの活用が進展す
るだろう。

(2)先進国とのネットワークを利用した垂直分業によるIT産業の育成

 上記(1)では、途上国の既存産業を先進国のネットワークに組み込んで従来型産業のIT
活用能力を十分高めた上で、国内のIT投資を行うことを提案した。一方、国内の「従来型産
業のIT活用」とは無関係に、「IT産業そのものを産業として振興する」ことも考えられる。
インドやシンガポール、マレーシアなどはそのような考え方に立っていると思われる。

 途上国における「IT産業そのものの振興」にあたって重要なことは、先進国との間で垂直
分業を行うことである。インドのバンガロールの場合は、「ソフトウェア開発」という労働集
約型産業が、シリコンバレーの下請基地に徹しながら、輸出産業として大きな成功を収めたと
いえる。これは、シリコンバレーとの間のネットワークによる垂直分業の成功例といえる。

(3)ボーダレス・コラボレーションによるデジタルディバイドの解消

 以上のように、「従来型産業のIT活用」の場合も、「IT産業そのものの振興」の場合も、
どちらもネットワークを活用した先進国とのコラボレーションが重要な手段となる。
単純に、
途上国にIT投資をするという発想では、デジタルディバイドは解消しないだろう。

「従来型産業のIT活用」の場合は、通信ネットワークによるコラボレーションによって、
技術水準の平準化を図ることができる。ネットワークはその構成要素のボトルネックを許さな
い。ボトルネックの存在はネットワーク全体の機能を損なうため、ボトルネックが生じそうに
なれば必死になって、それを取り除こうとする。そのような技術平準化の力学が働いて、途上
国の技術水準が引き上げられるというメカニズムを利用すべきである。通信ネットワークによ
るコラボレーションによって、水が高きから低きに流れるような技術移転のメカニズムを作る
ことができるのである。

また、「IT産業そのものの振興」の場合は、通信ネットワークによるコラボレーションに
よって、安価で良質な労働力と豊富な市場との相互補完を図ることができる。

以上のようなコラボレーションを推進することによって、国際社会におけるデジタルディバ
イドは市場メカニズムを通じて着実に解消し、貧富の格差も縮小して行くものと思われる。

(4)ソフトウェア会社によるコラボレーションのコーディネート

  今回のプロジェクトでは、『ソフトウェア産業の振興』と、『従来型産業のIT活用』のそ
れぞれについて、わが国と北東アジア各地とのコラボレーションの事例調査と提言を行った。
ここでは、さらに、この両者を総合的に推進しようとい
う、新潟市内の事業協同組合とハルビ
ンの大学が作ったソフトウェア会社の提携事業に触れておく

  この事例では、ソフトウェア開発の分野で日中のコラボレーションを成功させた中国側のソ
フトウェア会社が、さらに進んで、従来型産業の日中コラボレーションのオーガナイザーの役
割をも果たそうとしている。日本の従来型産業が、中国で適切な提携相手を自ら見つけ出して
コラボレーション活動を行っていくことは難しいため、その支援を中国のソフトウェア会社が
行おうというものである。中国側のソフトウェア会社が、自国の従来型産業の対日本窓口やI
T活用の指導などを行って、オーガナイザーあるいはコーディネータの役割を果たそうという
のである。

  このようなコーディネート機能は、従来の発想であれば、日本の商社が行ったはずであるが、
この例では中国側のソフトウェア会社がその役割を担おうとしている。これまでソフトウェア
産業は、従来型産業のIT化を推進するため下請的に使われてきたが、今後は、この例のよう
に、IT産業が従来型産業をオーガナイズして、ITを活用したビジネスモデルの主体者とし
て、産業社会の主導権を握っていくことが期待される(資料4参照)。


[参考資料]

(資料1)『情報通信ネットワークによる北東アジアの企業連携 中間報告書』(環日本海経済
     研究所、2000年3月)の序章の(参考)「5.ECインフラの事例」

(資料2)「海外ビジネス情報」、『ERINA Business News Vol.19』(環日本海経済研究所、2000
     年
526日)

(資料3)伊藤征一「インターネット時代のモンゴル産業の進むべき方向」、『‘99モンゴル
     経済視察団報告書』
(日中東北開発協会、199910)
      (http://www.ne.jp/asahi/itoh/seiichi/mongol.html

(資料4)伊藤征一『情報産業の役割変化―産業社会の奉仕者から牽引者へ―
     (
 http://www.ne.jp/asahi/itoh/seiichi/info.html

[付記]

  1.本章は、「通信ネットワークによる北東アジアの企業連携」(「2000年日中経済協
   力会議−於遼寧」報告書、日中東北開発協会、2000年9月)に加筆訂正を行ったも
   のである。


  2.本項の作成にあたっては、財団法人環日本海経済研究所の客員研究員吉田均氏の貴重な
   コ
メントを使用させていただいた。ここに謝して御礼申し上げる。

  3.本プロジェクトの専用ホームページが、環日本海経済研究所のホームぺージ内に設けら
   れ
ている。そのURLは次のとおりである。
          http://homepage1.nifty.com/itoh/asia/net.html



1 「データ変換、ネットで」(2000.6.29 日経産業新聞)
2 「蝶理ネットを活用―縫製仕様書や型紙データ送付」(2000.2.12日本経済新聞)