平成13年度研究協力事業







      アジア経済構造改革促進研究協力事業


  Internetインフラを活用した国際コラボレーション
     を行うツールとしてのXML-EDIの研究と
 コラボレーション・マネージメント・システムの研究開発





















                 平成14年3月

          新潟ジット事業協同組合









                      要 約


              
事業名

        Internetインフラを活用した国際コラボレーション
          を行うツールとしてのXML−EDIの研究と
       コラボレーション・マネジメント・システムの研究開発


1.目的

本事業は、わが国とアジアの企業が通信ネットワークによるボーダレス・コラ
ボレーションを行うためのツールを開発することによって、アジア地域の経済連
携を推進し、先進国と途上国のデジタルデバイドを解消することを目的とする。

2.事業体制

上記目的を達成するため、新潟ジット事業協同組合は、同組合のIT部会およ
び建設部会、新潟大学工学部の牧野秀夫教授、中国黒龍江省森林工業総局林産工
業研究所、中国黒龍江省林業科学院林業経済研究室、利庫三和木材加工有限公司
をメンバーとする共同研究コンソーシアムを組織して、以下の事業を行った。

3.事業内容

 1)ボーダレス・コラボレーションを行うべき分野とその形態に関する検討
 2)上記検討に基づくコラボレーション・モデルの作成

 3)国際建材調達コラボレーション・システムの設計
 4)当該システムのコンピュータプログラム(XML−EDI)の作成

4.成果

 1)日中両国の企業が情報を共有し、一体となってコラボレーションを遂行する
  ための「情報共有機能」、およびわが国の中小企業が協力して共同購入を行
  うための「共同購入機能」を組み込んだ、コラボレーション・システムを完
  成させた。

 2)今回のシステムはインターネットと企業の実務システムの接合を円滑に行う
  ことのできる新技術XMLを使っているため、今後、国境や業種の壁をこえ
  てコラボレーションを拡張することが容易に行える。

 3)上記システムを実際のビジネスに適用していくため、中小建設関連業者約
  1000社が加盟する組織を作り上げた。

 4)今後、このシステムの実運用が始まれば、コラボレーションの実施過程を通
  じて、中国の @輸出促進、Aデジタルデバイドの軽減、B企業の近代化と企
  業体質の強化などに寄与することができる。また、わが国にとっても、中小
  企業のネットワーク化、国際化を促進し、経済の活性化に寄与することとな
  る。



[1] 背景およびねらい

1.地域間経済連携の推進

 わが国は、先ごろ、初めてのFTA(自由貿易協定)をシンガポールとの間で
実現させ、さらに韓国、メキシコなどとの締結に向けて検討を進めている。また、
中国も昨年11月に、アセアン諸国との間で「今後
10年以内にFTAを締結する」
との合意に達している。     

最近では、WTOによる従来の多角的アプローチに加え、このような2国間、
あるいは地域間の自由貿易協定が現実的な方策として注目されている。上記の日
本・シンガポール間の協定は、単にFTAの言葉どおりの関税撤廃にとどまらず、
経済面での幅広い協力の必要性をうたい、「新時代経済連携協定」と称している。
本事業は、このような二国間・地域間の経済連携の推進に寄与することをめざし
ている。

本事業の第1のねらいは、情報通信ネットワークを活用したボーダレス・コラボ
レーション(協働)によって、このような地域間経済連携を推進し、究極的には、
北東アジアネットワーク経済圏を構築しようというものである。

2.先進国と途上国間のコラボレーションによるデジタルデバイドの解消

 最近のITの急速な進歩の中で、先進国と途上国のデジタルデバイドが問題と
なっている。わが国政府も、デジタルデバイド解消のため、沖縄サミット時に
150
億ドルの拠出を表明している。

このデジタルデバイドは、途上国にパソコンをばらまいたり、過疎地域にネッ
トワークを張るというような安直なインフラ整備だけでは解消できない。途上国
の国内でネットワーク化を推進しても、既存の産業がそれらを十分活用できなけ
れば意味が無い。このような発想では、わが国の公共投資が人の通らないところ
に道を作ったのと同じような無駄を生むことになるだろう。

逆に、途上国内の通信ネットワークが不十分であっても、その国の産業をうま
く先進国のネットワークに組み込むことができれば、両国の産業が一体となって
コラボレーションを行うことにより、技術水準の平準化やIT活用能力の向上が
促進されることになろう。

 例えば、日本のアパレル・繊維業界では、原糸メーカー、アパレル、小売りな
どが統一的な業界ネットワーク・システムを構築し、業界全体で情報を共有しな
がら生産・流通の期間を短縮し、市場ニーズにすばやく対応できるような体制
QRQuick Response)の構築に取り組んでいる。途上国の繊維産業がこのよう
なコラボレーション・ネットワークに組み込まれれば、日本企業と同じ発想、同
じレベルの生産体制が実現できるようになる。

ネットワークはその構成要素のボトルネックを許さない。ボトルネックの存在
はネットワーク全体の機能を損なうため、ボトルネックが生じそうになれば必死
になって、それを取り除こうとする。そのような技術平準化の力学が働いて、途
上国の技術水準が引き上げられるというメカニズムを利用すべきである。通信ネ
ットワークによるコラボレーションによって、水が高きから低きに流れるような
技術移転のメカニズムを作ることができるのである。日本とのコラボレーション
によって、まず途上国の産業のIT活用能力を高め、機が熟したところで、途上
国内のネットワーク投資を行えば、砂地が水を吸い込むように
ITの活用が進展す
るであろう。

 われわれの第のねらいは、このような通信ネットワークによるボーダレスな
コラボレーション体制を構築することにより、先進国から途上国への技術移転を
促進して、デジタルデバイドを解消することにある。

3.わが国中小企業のネットワーク化・国際化の推進

  本事業は、「アジア経済構造改革促進研究協力事業」の一環として助成を受け
たもので、第一義的にはアジアの経済構造の改革に資するものでなければならな
いが、一方的にアジアのためだけのものではなく、それが同時にわが国の構造改
革にも役に立つような一石二鳥の効果を狙ったものにしたい。
ネットワーク時代
において、日本経済の活性化に最も役立つと思われるものは、中小企業のネット
ワーク化・国際化の推進ではないだろうか。これまで、日本の大手企業は独力、
もしくは大手商社との協力で国際化に対応してきたが、日本企業の98%を占め
る中小零細企業は独力で国際化に対応する力はなく、小貿易など、ささやかな手
段で試行錯誤を続けてきた。しかし、現在、インターネットという媒体を使うこ
とによって、少ない投資金額で情報化を進めることが可能になり、
SOHO感覚で
世界中とビジネスが出来るようになった。そのため、小回りのきく中小企業が構
造改革をリードすることも可能になってきたのである。

 そのような潜在的な可能性を認識しはじめた日本の中小企業は、インターネッ
トのブロードバンド化により、これまで巨大投資なくして成し得なかった業務環
境を低コストで短期間にシステム化できることに気がついた。さらに、一社では
使いきれないシステムを数社で共同事業化することにより、中小企業にメリット
が生まれることにも気がつき始めた。

近年の経済のグローバル化の中では、中小零細企業が一社でがんばっても無力
に等しい。そのため、それらの中小企業が集団になり、小さな力を集結していく
ための協業システムが必要になっている。

われわれの第3のねらいは、このようなグローバルなネットワークによる協業シ
ステムを構築し、わが国の中小企業のネットワーク化・国際化を推進して、国内
における大企業と中小企業のデジタルデバイドを解消することである。




[2] 実施体制 ――共同研究コンソーシアムの組織および管理体制――

1.共同研究の研究開発責任者

新潟ジット事業協同組合 IT部会 部会長 坪川直博

2.組織図




[3] 実施内容

 本事業の具体的作業としては、コンピュータ・プログラムの作成が作業量およ
び経費の多くの部分を占めているが、内容的には、ボーダレスコラボレーション・
システムをどのような分野にどのような形で構築すべきかという、概念設計が重
要である。そのため、本事業では、まず事例調査に基づいて、ボーダレスコラボ
レーションの概念をいくつかの産業についてモデル化し、適用可能性の検討など
を行った。

 そのような基本的考察を踏まえ、具体的な事業として「日本の建設業者と中国
の資材メーカーによるインターネットを利用した共同購買事業」を考え、そのた
めのコンピュータシステムとして「国際建材調達コラボレーション・システム」
を構築した。作成したコンピュータ・プログラムについては、新潟市と大連市の
間で、シミュレーションテストを行い、実用化の可能性を検証した。以下、それ
ら一連の作業結果について述べる。

1.ボーダレス・コラボレーションの各種類型についての検討

 本事業を実施するにあたり、まず、「インターネットインフラを活用した国際
コラボレーション」としてどのようなものが考えられるかについて、次のような
検討を行った。

加工組立産業の場合は、「設計を日本で行い、生産を外国で行う」という分業
形態のモデルが考えられるが、これを、
「設計・生産分業型コラボレーション・
モデル」
と呼ぶことにする。

また、素材産業の場合はそのような設計段階が無いので、別の形態のモデルを
考えなければならない。ここでは、
2ページで述べたQR(Quick Response
ような、生産段階から流通段階までの全ての企業が相互に情報を共有し、一体と
なって企業活動を行うようなモデルを考えた。このようなモデルを、
「情報共有
型コラボレーション・モデル」
と呼ぶことにする。

以下において、上記のそれぞれのコラボレーション・モデルを具体的事例に基
づいて作成し、比較検討を行う。なお、加工組立産業か素材産業かという分類は、
考える産業の広がりをどうとらえるかによって異なってくる。例えば、製材産業
は素材産業といえるが、住宅産業と一体化して考えれば、加工組立産業の一部で
あるとみなすこともできる。

1)設計・生産分業コラボレーション・モデル

 ここでは加工組立産業として、ソフトウェア産業、金型産業、アパレル・
 繊維産業、住宅・木材産業を取り上げ、具体的事例に基づいてボーダレス・コ
 ラボレーション・モデルを作成し、その可能性を検討した。

@ ソフトウェア産業

      我々の研究ではまず、「ソフトウェア産業」をとりあげ、インドのバンガロ
  ール地方におけるソフトウェア産業の成功例を北東アジアに適用できないかと
  いう仮説をたててみた。インドのバンガロール地方は、アメリカのシリコンバ
  レーからソフトウェア開発の注文を請け、ネットワークを通じて発注者と密接
  な連携をとりながら開発を行うことにより、世界でも有数のソフトウェアの輸
  出地域となった。このことは、国内需要の少ない地域でも、輸出中心のソフト
  ウェア産業が成り立つ可能性のあることを示している。

 北東アジアにおいても、中国の東北地方をバンガロールに、日本をシリコン
 バレーに対応させてみれば、同じことが言えるのではないだろうか。通信ネッ
 トワークを通じた両国企業のコラボレーションにより、中国の安価で良質な労
 働力と日本の大きな市場や高い技術力との相互補完を成立させることができる
 ようになるのである。中国にとって、雇用吸収力が大きく簡単な設備投資で手
 軽に立ち上げることのできるソフトウェア産業を、輸出産業として育成するメ
 リットは大きい。

A 金型産業

  次に、金型産業について、CAD/CAM(コンピューターによる設計、製造)と
  通信ネットワークを活用したコラボレーションについて検討する(金型とはモ
  ノを大量生産する際に使う「型」のこと)。例えば、新潟県にある金型メーカ
  ーT社では、韓国の自動車メーカーから金型の注文を請け、コンピュータ処理
  された3次元
CADのデータを通信ネットワーク上でやり取りしながら、金型の
  設計・生産を行うことで、自動車の設計プロセス全体の効率を飛躍的に向上さ
  せたという。

 ただ、このようなCAD/CAMのデータのやり取りにおいては、金型業者が使用
 する
CAD/CAMのソフトウェアが発注企業のものと異なる場合、受け取ったデー
 タの処理ができないという問題がおこる。そのため、種々の
CAD/CAMソフトの
 データを統一規格に変換した上でやりとりを行うことが必要になる。しかしな
 がら、このようなデータ変換の仕組みを整備することは、個々の金型業者にと
 って負担が大きすぎるため、例えば、高新技術開発区のような中立的機関や技
 術力のあるハイテク企業が、その仕組みの整備と運用を行いながら、発注者と
 受注者を結ぶネットワークを構築していくことが考えられる。これにより、C
 ADデータの変換機能とマーケット機能の両方を併せ持つネットワークが作ら
 れることになる。

 上記のようなネットワークサービスとして、U社がASP(アプリケーション・
 サービス・プロバイダ)として提供するサービスの例が報じられている
1。この
 サービスは、
U社のCADソフトのユーザが、別のCADソフトのユーザからCAD
 ータを受け取った場合、そのデータをインターネットを通じて
U社に伝送すれば、
 
U社のCADソフト用に変換して送り返してくれるというものである。なお、ASP
 とは、遠隔地の顧客に、インターネットを通じて自らのソフトウェアを使わせ
 るサービス業者のことをいう。

B アパレル・繊維産業

 上記の金型業者とその発注企業の間のコラボレーションは、発注側の企業が
 
CADによる設計データをインターネットを通じて金型業者に伝送し、金型業者
 が受け取ったデータをもとに
CADで金型の設計を行なうというものであった。
 この金型産業と同様の企業連携モデルをアパレル・繊維産業でも作ることがで
 きる。実際、わが国と中国のアパレル関連企業の間で、
CADで作られた型紙デ
 ータなどをインターネットを通じてやり取りしながら、コラボレーションが行
 われている例が報じられている
2。以下に、その内容を要約して紹介する。

       C社は、衣料生産に必要な縫製仕様書や型紙データをインターネットで伝送
  するシステムを開発した。このシステムにより、日本のアパレル会社と中国の
  衣料品製造会社との間で、以下のようなコラボレーションが円滑に行なえるよ
  うになった。すなわち、

   ・日本のアパレル会社がCADにより型紙データや縫製仕様書を作成する
  ・そのデータをインターネットによって中国の衣料品製造会社に伝送する

  ・衣料品製造会社は受け取ったデータに基づいて衣料品の生産を行なう

  中国など通信事情の悪い地域に情報量の大きい縫製仕様書などのデータをイ
  ンターネットで送ろうとした場合、通信がとぎれ失敗する例が多いため、これ
  まで、大半の国内アパレルメーカーは国際貨物郵便を使って、3日もかけてデ
  ータを送っていた。今回のシステムによって、通信が途切れてもデータ通信が
  スムースにできるようになったため、中国に30分前後でデータを送れるよう
  になり、衣料品生産の大幅な時間短縮が可能となった。

  上記の例は、アパレル・繊維産業における、CADとインターネット伝送を
 使った日中企業のコラボレーションであるが、これは、前述の金型産業のモデ
 ルと本質は全く同じである。アパレル産業も金型産業も、遠隔地の企業同士で、
 @CADによる設計、Aインターネットによる設計データの伝送、B受け取っ
 たデータに基づく製品の生産、といった活動を行っている。「金型産業」と「ア
 パレル産業」というまったく関係の無さそうな2つの産業が、「通信ネットワ
 ークによる企業連携」という観点からみると、同様の製造工程を持つ産業とし
 て位置付けられることになる。


      実は、金型産業の項で触れた新潟県の金型メーカーT社の場合も、インター
  ネットによるデータ伝送で通信がとぎれて失敗するという問題があった。その
  ため、金型産業の場合も、アパレル産業と同様なデータ伝送システムの適用が
  必要となっている。


      なお、このようなコラボレーションは、カリブ海周辺でも行われている。米
  国のアパレル産業は、生産を世界中の低賃金国で行なっており、特にカリブ海
  周辺は、近年重要な生産拠点になっている。これは、同地域におけるネットワ
  ーク化の進展によるところが大きいといわれている。

C住宅・木材産業

       CADとインターネットによるビジネスモデルを木材にあてはめると、『わが
 国の住宅や家具のメーカーが、
CADによる製材情報をインターネットで原木の
 生産地に伝送し、現地でその情報を自動製材機に入力して製材を行なう』とい
 うモデルが考えられる。

 最近の原木生産地では、原木のままでの輸出を禁ずる動きがある。ハバロフ
 スク地方では、
2003年1月から原木の輸出を完全に禁止し、輸出は主として材
 木と建設物になるという
3。丸太の輸出禁止は、「半加工木材有効利用発展プ
 ログラム」で付加価値をつけた加工品を輸出することで、利益と雇用を生み出
 そうとするものである。こうした動きに対処するためにも、上記のようなコラ
 ボレーション・モデルが必要になると思われる。

2)情報共有型コラボレーション・モデル

    これまで述べてきた設計・生産分業型モデルは、わが国と外国企業との間で、
 設計段階と製造段階の分業を行おうというものであるが、素材型産業では、扱
 う商品がそのような設計を要するものではないため、別の形態のモデルを考え
 る必要がある。

 また、設計・生産分業型モデルの場合は、発注者側が大企業で、特定の生産
 者との間で閉じた体制を作っているケースが多いが、本事業では、中小企業が
 自由に参加でき、単独ではできないことを共同で行うような開かれた体制を作
 りたいという要請があった。

 そこで、今回は、わが国の中小建設業者が中国の建材を一括購入するという
 国際建材調達業務を想定して、そのコラボレーション・システムを構築するこ
 ととした。ここでは、それを「国際建材調達コラボレーション・システム」と
 呼ぶ。


    具体的には、日本側の多数の中小建設業者が共同で発注者となり、各商品ご
 とに一括して注文を出すような仕組みを作った。実際には、新潟ジット事業協
 働組合(
JIT)の組合員である建設会社からの発注データが、まず発注拠点のJIT
 に送付され、
JITがそれを整理し、一括して発注するという方式とした。

     また、発注された後は、中国側の進捗状況など、各プロセスの管理情報が日
 本からインターネットを通じて見られるような情報共有の仕組みを作り、両者
 が一体となって業務を進めるコラボレーションを実現した。この点に着目すれ
 ば、本システムは、
前述のQR(Qquick esponse)と同じタイプの情報共有型
 コラボレーション・モデルであるということができる。


    ちなみに、典型的な情報共有型モデルである前述のQR(Qquick esponse
 で
は、小売業者が自らのPOS(販売時点情報管理)データをメーカーに開示す
 る一方、メーカーは商品在庫、仕掛かり状況などのデータを小売業者に開示し
 て、業界が一体となって企業活動を行うことにより、需要者のニーズに迅速に
 反応できるようになる。このQRの本質は、次の2点にまとめられる。


   @上流から下流までの各段階で企業が扱うデータを標準化、一元化し、統一
   コードとデーベースを共有化する。これにより、各段階でのデータの流れ
   を円滑にし、全工程の「効率化」を図る。

  A小売業者と生産者が相互の情報を共有し、生産計画や商品開発における
   「情報の戦
略的活用」を図る。

    このうち、Aの情報の戦略的活用については、小売業がメーカーに情報を開
 示するこ
とで、メーカーが顧客側の需要動向を知るというところに重点がある。
 一方、今回のわれわれのモデルでは、中国のメーカーが各プロセスの管理情報
 を日本の発注者に開示することしか行っておらず、その逆は行っていない。こ
 れは中国側の情報環境が整備されていないことを考慮したためである。以上の
 ようなコラボレーション・モデルに関する考察をもとに、以下に、具体的なシ
 ステムについて述べることとする。


2.国際建材調達コラボレーション・システムの概要

  以上の調査・検討の結果、今回は、日本側の発注拠点として新潟ジット事業協
同組合(以下、
JITと略記する)を、また中国側の受注拠点として大連利庫三和木
材工場(以下、大連工場と略記する)を想定して、「国際建材調達コラボレーシ
ョン・システム」を構築することとした。この場合の個々の発注者としては
JIT
組合員を、また、生産側については、原木生産者として黒龍江省森林工業総局を、
パーツ生産者として大連工場の関係会社を想定した(第
1図)。

 次に、以上のようなネットワークの構成員が実際に受発注や生産管理などを行
うことを想定して、その仕組みをモデル化し、それを実行するためのコンピュー
タ・システムを構築することとした。





         (第1図)コラボレーション・システム図



3.国際建材調達コラボレーション・システムの具体的設計

前述の国際建材調達コラボレーション・システムについての業務分析に基づき、
個々の業務プロセスの設計を行った。以下にその概要を述べる。

1)共同購入のための発注処理(JIT側での処理)

  まず日本側では、JITの組合員がJITに電話で註文を出す。それを受けたJIT
は、顧客ごとに、顧客名、商品名、発注数、納期などをコンピュータ入力する。
これらの入力データをもとに、顧客別の注文リストが作られる。


  組合員からの注文が何件か貯まったところで、商品ごとに、それらを一括集
計した発注データを作り、それをメールで中国側の拠点である大連工場に送信
する(第2図)

(第2図)システム概要図


2)受注・在庫引当て・外注発注(大連工場側での処理)

 大連工場がメールで受信した一括発注データをもとに、商品ごとに、受注リ
 ストが作られる。それらは、
JIT側と同じ形で画面上で見ることができる。その
 際、日本から送付された日本語の商品名などは、マスターファイルにある日中
 語対応表によって中国語に変換される。なお、以下の記述については、第
3図お
 よび巻末の参考資料を参照されたい。

  次に、受注数量に対して、まず在庫として存在する量を自動的に引き当て、
 不足分を自社製作分と外注分に振り分ける。外注分は、外注先ごとに注文書が
 作られて送付される。

(第3図)業務の流れ



 3)工程進捗管理(大連工場における工程の進捗管理処理)

  
工程ごとの進捗管理を行う。管理項目は、着手日、完了日、出荷日、出港日
 の4項目であるが、さらに詳細な管理も可能となっている

   受注後に、まず、各工程の「完了予定日」を入力する。外注商品の場合は、
 「入荷予定日」を入力すると、それが完了予定日として扱われる。各工程が完
 了した時点で「完了実績日」を入力する。外注商品の場合は、入荷した段階で、
 「入荷日」を入力すると、それ
が完了実績日として扱われる。完了実績日を入
 力して出荷可能になった段階で、「在庫」となる

  加工工程が完了した商品および入荷した外注商品については、輸送関係の情
 報(輸送船舶情報、コンテナ情報)を入力する。その際、出荷商品の合計容量
 で、コンテナ容量の概算計算を行う。また、輸送先の日本の港と船会社名を入
 力すると、その日が出荷日となる。商品の出荷後に、出港日を入力する。最後
 に、商品が到着した段階で、到着入力を行うことで、当該商品の管理が終了す
 る。

4)工程進捗照会(発注者=JITの組合員による工程進捗状況の把握)

 これらの進捗情報は、商品別、発注者別にまとめられ、色分け表示して一目
 で状況が把握できるような形で
Webページに掲載される。これにより、日本側
 の発注者は、日本から、自ら発注した商品の工程進捗状況(予定日、実績日、
 輸送情報)を、インターネットのブラウザで見ることができる。この機能は、
 情報共有型コラボレ−ション・モデルの観点からは、重要な意義をもっている。

4.国際建材調達コラボレーション・システムのコンピュータプログラム

   
上記のような、受発注、加工工程の進捗管理、在庫管理、出荷管理など、発
 注から納品までの管理を一本化したモデルを、実際のコンピュータ・システム
 として構築した。本コンピュータ・システムは、電子商取引分野で注目されて
 いるXML言語を導入して、以下のような機能を実現した。


  1.文書や手順の標準化
  2.運用管理上必要な情報のデータベース化と安全管理
     ・どの文書を誰がいつ参照し、更新したかを履歴情報とともに管理する機能
    ・文書の更新履歴をバージョンNOとともに管理する機能
   ・利用者の権限チェックと、権限による提供情報の管理

  3.インターネット・セキュリティの確保
  4.管理情報のWeb上での照会



[4] 成果

 本事業の成果は、本報告書の冒頭に記したようなコラボレーションを実現する
ためのコンピュータ・システムが完成したこと、および、そのシステムの完成を
うけて、それを実際の業務として利用・運用する体制ができたことである(「[5]
今後の展開」参照)。以下に、このコラボレーション・システムによる具体的成
果について述べる。

1.技術的成果

1)発注、加工、出荷、物流等の情報を共有する日中企業のコラボレーシ
  ョンの実現

  今回のシステムは、日本側のコントロールセンターであるJITが、組合員か
 らの注文を受け取って、それを一括して発注するところから始まり、それを受
 信した中国側での加工、出荷、出港の過程を経て、日本側に商品が到達するま
 での全工程を一貫管理している。

 また、日本側の個々の発注者であるJITの組合員は、その全工程の情報をイ
 ンターネットのウェッブ画面から照会できるようになっている。このシステム
 によって、日本の中小企業者が、中国の生産者と情報を共有しながら業務を遂
 行するボーダレス・コラボレーションが可能となった。

 2)XML−EDIの実現

  インターネットの急速な普及に応じて、企業の実務システムをインターネッ
 トと結びつけて利用していくことが求められている。しかしながら、そのよう
 なシステムを構築する際に、インターネットのウェッブ画面を作成するための
 HTML言語では、人に見せるための画面を作ることはできても、データ交換
 を伴う企業の実務システムと接合することは難しかった。

  これに対し、最近注目をあびている新技術XML(eXtensible Markup
 Language)は、情報をウェッブ画面に表示するだけでなく、実務システムのデ
 ータを他のシステムとやり取りするデータ交換を円滑に行うことができる。


  本事業では、受発注や見積もりなどの企業間商取引データをデジタル化し、ネットワー
  クを通じてやり取りするEDI (
Electronic Data Interchange、電子データ交換) の構築を目
  的としているが、今回の事業では、こ
のXMLを使ったEDIシステム(XML−E
 DI)を構築した。

 従来型のEDIは、当該取引の関係者間だけの閉じたシステムになりがちで
 あったが、今回のXML−EDIは、標準化されたXMLを用いていているた
 め、国境や業種の壁を越えてコラボレーションを拡張することが容易に行える
 ようになっている。

2.相手国への寄与

   1)中国の輸出促進

 日本の中小企業の商品需要を取りまとめて共同購入を行うための仕組みを作
 ることにより、中国から日本への輸出促進に寄与することになる。


   2)デジタルデバイドの軽減

  情報機器を使ったコラボレーションにより、中国側の情報リテラシーの向上
 を促進し、デジタルデバイドの軽減に寄与することができる。

 3)中国企業の体質強化

 中国の企業が、日本の企業と情報を共有しながら業務を進めることにより、
 中国企業の近代化と体質改善が促進される。

3.わが国への寄与 ――中小企業のネットワーク化、国際化の促進――

わが国の中小企業が中国からの共同購入システムを活用することにより、中小
企業のネットワーク化、国際化が進展する。また、これにより、日本経済の活性
化に寄与することができる。




[5] 今後の展開

1.「K-net建築座ネットワーク・にいがた」による実運用体制の確立 

 本事業は、平成14年度から、「日本の建設業者と中国の建材メーカーによる
インターネットを利用した建材共同購買事業」として、実運用されることになっ
ている。そのための組織として、JITが新潟県の支援で構築した「K-net建築座ネ
ットワーク・にいがた http://www.kenchikuza.net(新潟県企業間電子商取引支
援事業)」がある。これには、現在、新潟県内の中小建設関連業者約1000社が加
盟している。これに海外資材メーカー100社、国内資材メーカー1000社を結合し
た、総合的、国際的な建材調達ネットワークを構築することがわれわれの目標で
ある(第4図)。




   (第4図)K-net建築座ネットワーク・にいがた


 また、運輸会社として中越通運が加わり、決済機能として三井住友銀行の電子
商取引決済システムサービス「コンプリート」を導入することになっている(第
5図)。





       (第5図)共同購入の仕組み



2.北東アジアネットワーク経済圏の構築

今後、JITが主体となって、中国の各地からの様々な商品や資材の情報をK-net
に掲示し、より多くの日本企業にPRしてつもりである。この建材調達システムが、
関係各国に経済連鎖を起こし、国際的BtoBサイトが形成されていくことをめざし
ている。また、建材産業以外の産業の参加も推進していくつもりである。

近年、世界各地で、良品の発掘や人材の移動、生産地の転移、資金流出など、
様々な懸案がITにより解消されてきた。当組合においても、伝統的な産業とハイ
テク産業が密接に連携を取り合えるように、外国人研修生制度による外国人スタ
ッフの共同受入事業なども活用しながら、国際的な人と物と情報の交流を推進し
ていく。

今後、このネットワーク上で、種々の産業が決済機能や物流機能、各種情報コ
ンテンツなどの共用基本機能を活用しながら、北東アジア企業とのボーダレスコ
ラボレーションを推進し、人材の交流を図っていくことにより、ネットワーク上
にボーダレスなコミュニティーが形成されることになる。

このような、ネットコミュニティーが重層的に形成されていけば、将来は、ネ
ットワーク経済圏とも呼ぶべき状況が現出することとなる。北東アジアに、この
ようなネットワーク経済圏を構築することが、われわれの究極の目的である。




[6] 今後の課題

1.末端までのネットワーク整備

 前述の本事業の「技術的成果」の項で、『今回のシステムでは、日本側のコン
トロールセンターであるJITが、組合員からの注文を受け取って、それを一括し
て発注するところから始まり、それを受信した中国側での加工、出荷、出港の過
程を経て、日本側に商品が到達するまでの全工程を一貫管理している』と述べた。

しかし、JITが組合員からの注文データを受け取るプロセスは、コンピュータ処
理ではなく電話等の連絡によっており、それらの発注データはJIT側で手入力する
ことになっている。また、中国側のコントロールセンターである
大連工場から外
注先への発注も注文書の郵送によっている。

このように、今回のネットワークは、コントロールセンター同士のネットワー
ク化にとどまっており、センターから末端までのラストワンマイルのネットワー
ク化はできていない。実は、これは言い過ぎで、
JITの組合員は、中国側の管理情
報をインターネットを通じて見ることができるようになっている。すなわち、情
報の送付は電話で、情報の入手はインターネットによっている。

これは、JITの組合員の情報リテラシーにも関連している。現状では、組合員の
端末から分散入力を行おうとしても、組合員がいやがったり、入力ミスをしたり
する恐れがある。そのため、あえて、入力はセンターで集中入力を行うことにし
た。

また、中国側の外注業者に対しては、日本側の発注者の情報を見られるような
仕組みを提供していない。これは、中国側のパソコン端末などの情報環境が未整
備であるということを考慮したためである。


  以上のような状況の中で、今後は、情報リテラシーの向上や情報環境の整備を
図って、末端までのネットワーク化を実現していくことが課題となる。

2.技術水準の平準化

今後、上記のように末端までのネットワーク化が進展した場合、リテラシーの
低い組合員やパソコンを持たない加工業者は、このネットワークから排除される
恐れが出てくる。ネットワークはボトルネックを許さないからである。そうなる
と、排除されそうな者は、排除されまいとして必死の努力をすることになる。そ
の結果として、IT活用能力や情報リテラシーが向上し、企業体質の改善が進む
ことになる。

このように、中国の企業は日本が構築したネットワークに組み込まれることに
より、ネットワーク全体のレベルに達するまで、技術水準が上昇し続けることに
なる。また、ネットワーク内に用意された決済機能や物流機能などの共用基本機
能も居ながらにして活用できるようになる。このような活動を通じて、市場経済
における企業経営や金融、流通などのノウハウが習得されることになる。もちろ
ん、日本側の
JITの組合員についても、同様なことがいえる。

このようにして、ボーダレス・コラボレーション・ネットワークは、先進国と
途上国のデジ
タルデバイドを軽減したり、あるいは日本国内の大企業と中小企業
のデジタルデバイドを軽減したりするための圧力生成装置の役割を果たすことに
なる。このような圧力を巧みに発生させて、各種のデジタルデバイドを解消して
いくことが、われわれの次なる課題といえよう。

3.ネットワーク上の基本機能の整備

  前述のように、本事業の成果は、平成14年度から「日本の建設業者と中国
の建材メーカーによるインターネットを利用した建材共同購買事業
」として、JIT
が新潟県の支援で構築した「K-net建築座ネットワーク・にいがた

  
http://www.kenchikuza.net(新潟県企業間電子商取引支援事業)」
に引き継がれることになっている。

今後、このネット上で本格的なビジネスが展開されるようになると、決済や物
流などの基本機能を充実させることが必要になる。決済機能としては、三井住友
銀行の電子商取引決済システムサービス「コンプリート」を導入することになっ
ている。

また、物流機能については、原材料や最終製品の動きを広大な中国大陸におい
ていかに正確に把握するかが、今後の重要な課題となる。この問題を解決するた
めには、
カー・ナビゲーション・システムの位置測定手段として広く採用されて
いる
GPSや、バーコードシステム、移動体通信などと連携した動的商品情報管
理システムの開発が不可欠となる。

このほか、ネットワーク上での活動に必要な情報(決済や物流の仕組み、商習
慣、貿易実務など)を提供するためのシステムや、それらを学習するための支援
ツール(e-ラーニング・システム)などを整備し、参加者の能力アップを図って
いくことも必要である。



1 「データ変換、ネットで」(2000.6.29 日経産業新聞)
2 「蝶理ネットを活用―縫製仕様書や型紙データ送付」(2000.2.12日本経済新聞)
3 「海外ビジネス情報」『ERINA Business News Vol.19』(環日本海経済研究所、2000526日)